7日目①
しばらくコロナになったら本業が忙しかったりで更新できていませんでした。
ここから7日目、最終日です。
7日目
最終日である。今日を乗り切れば、助かるはず。わざわざ自分から外へ出て危険に身を晒すつもりもない。この6日間のように引きこもっているつもりである。万が一イレギュラーな事態が発生しても、昨日の夜に発現した能力があれば対処できるだろう。
「さて、タケル行きましょうか」
「え?はい?どこへ?」
「決まってるでしょ、外よ」
タケルの目論みとは正反対の位置にミミはいたようだ。荷物をまとめて外出の用意を始めている。私物のまとめ具合や食料の詰め込み具合からして、この牛丼屋に戻る気はない位の勢いで出かけるようだ。
「なぜにだ。今日は最終日だぞ。このまま籠城するのが最善策だろう」
「はぁ?脳みそ夢の中に忘れてきたの?このままで済むわけがないでしょう。昨日のガチャ忘れたの。あんな力を配るくらいなんだから、それだけの試練が待ってるってことよ。ビームや鉄砲が必要な状況になるのに、こんな狭い店の中に2人いたんじゃ同士討ちになるだけでしょ。広くて見通しの良い場所で迎え撃つのが1番よ。考えなさいよ全力で。」
年下の女子高生から説教されてしまった。今更年齢や立場もないもんだが、さすがに自尊心にダメージがある。ミミの言うことにも一理あるから尚更である。
「でも、このままって可能性もあるだろ。戦ってる奴らのための能力付与で、俺たち籠城組には不要かもしれない。外に出ることで襲われるリスクは上がるぞ?」
必死で言い返すが、
ピュイーン、ビュイーン
タケルとミミの間に光の粒子が煌めいた瞬間、思考回路を切り替えた。
「出てくるぞ!こっちを撃つ。ミミはそっち!」
机の影に隠れながらミミに叫ぶ。返事はないが、ミミも素早く柱の後ろへ身を潜ませている。
「ミミの予想が正解か…」
独りごちながらゾンビが現れるのを待つ。光が弱まり姿を表した途端、ビームを放つ。ゾンビの頭が光線に飲まれて消え去る。
「バン」
もう一体も頭を吹き飛ばされて光の粒子へと帰っていく。どちらも短い滞在時間で消えていったが、かわりに他の場所でまた光が発生している。
「どんどん湧いてくるのか」
「だから言ったでしょ!」
幸いなことにゾンビ発生前には光の予兆があるし、それから姿を表して動き出すまでにも間がある。頭が形を作った瞬間を狙い撃ちすれば危なげなく倒せる。ゆっくりしたモグラ叩きのようなものである。だが、
「くっ、腹減ってきた……。まだ続くのかよ」
「いちいち撃ってたんじゃ勿体無いわ。なるべく能力使わずに倒すのよ」
ミミはそう言いながら弾のない拳銃の銃把でゾンビの頭をかち割っている。タケルはおにぎりを齧りながら机の足で作った鉄棒を振り下ろす。
「ペースが、上がってきてる!?」
時間が経つにつれて出てくる数が増えスピードが早まっていくのも、モグラ叩きと同じようだ。倒し切る前に次の奴が湧いてきて、ビームを使わざるをえなくなってきた。倒しきれないゾンビに囲まれる前に、逃げなければならない。
「ミミ、窓だ」
「本気?……しょうがないわね」
2人は視線を交差させて、意思を固めた。ここは2階。窓の下にはアーケードがあるので、そのまま地面に落下なんてことにはならない、はずだ。一応ミミと検討したいくつかの脱出ルートの内の一つでもある。できれば普通に階段から降りたかったが。
「先に行け!しんがりは任せろ!」
「やだ!タケルが先に実験して!」
「……わかった。強めビーーム!!」
タケルの目から噴き出す眩い光が、ゾンビを次々に薙ぎ倒していく。タケルとミミの周りを一掃すると、クルッと向きを変えて窓へ向けて走り出した。そのまま窓枠に貼り付けた段ボールを突き破って外へ躍り出る。
空中に飛び出た時、一瞬体が宙で静止したような気がした。よく漫画やアニメに出てくるシーンのように。そして落下した。予想より長い時間落下して、一階にある入口のアーケードの上に乗った。一回ボヨンとはねて、ずり落ちそうになったので慌てて壁にあった出っ張りを掴んで体を支えた。そんなに大きくはないひさしだが、十分にタケルの体重を支えてくれた。
「よし、大丈夫そう……」
言いながら上を見上げると、勢いよく飛び出してくるミミの下半身が見えた。
「え?早……」
打ち合わせでは、先に降りた方が周囲の安全確認をして合図をしてから2人目が飛び降りることになっていたはずだ。というか、大して大きくもない牛丼屋のアーケードでは2人分の重さに耐えられるわけもない。
ぼふっ
タケルのお腹の上にミミのお尻が落ちてくる。メキメキと嫌な音がして、アーケードを支えている支柱が折れていく。なんとなく2人抱き合いながら、崩れるアーケードの上を横向きに転がって落ちる。
「ぐはっ」
うまい具合にタケルが下敷きになって地面に到着した。もちろんミミが転がりながら調節してタケルをクッションにしたのだが、潰れたカエルのようになっているタケルには気付く余裕もない。
「ほら、早く起きなさい。来たわよ」
腰をさすりながらタケルが起き上がると、周りにワラワラとゾンビたちが集まってきていた。定番の光ゾンビ以外にも、一般ゾンビもどんどん増えてくる。
「必殺ビーーム!」
貴重な糖分であるチョコレートを齧りながら、光線を放つ。
「なぎはらえ!」
まるでどこかの国の皇女様のようにミミが命令してくる。火の七日間が始まるのか??
とりあえず腹ペコになるまでビーム砲台になって、あたりには一般ゾンビの亡骸で山ができた。
「め、めしをくれ……」
ゾンビのようにうなるタケルの口に、ミミがおにぎりをねじ込む。少し酸い匂いがする。これいつの米だ。それでも空腹には勝てずがっついて食べる。一気に5個食べてやっと落ち着いた。その間にミミは一般ゾンビのご遺体を物色して、金属製の警棒とサバイバルナイフ、それと短めの日本刀を手に入れていた。
「え、刀じゃんそれ」
「そうね。脇差?というのかしら」
「そんなの持ってるやついるんだ。ヤクザかな。コレクターかな」
「どうかしらね。ガチャで出たって可能性もあるわよ」
「ガチャで出るのは、俺たちみたいな特殊能力とは限らない?ってことか」
「可能性の話よ。あくまでね。でも、ありえるでしょ」
「ありえるね。なんでもありだからな」
「ところでさっき私のパンツ見た?」
もちろん見た。上を見たらそれしか見えなかったのだからしょうがない。タケルは正直にうなずいた。
「バン」
光の銃弾がこめかみを掠めて飛んでいった。冷や汗が流れる。無駄遣いするなとさっき自分で言っていたくせに。
「世界が元に戻ったら、責任取ってもらうわよ」
「こ、子供は3人は欲しいな」
ミミがまた指先をタケルに向けた。今度はぴったり心臓を狙っている。
「年収1500万以上、都会に庭付き一戸建て、カードは使い放題、年に2回は海外旅行、親の面倒は見ない、酒タバコギャンブルは一切禁止、浮気風俗は即死、寝室は別、犬はパピヨン、この条件叶えられるなら、子供3人産んだげるわ。どう?」
「すいません、最後の3つだけならなんとか…」
そんなやり取りをしながら、2人は移動した。