6日目①
長くなりそうなので分けました。
6日目
「ねぇタケル、あの2人信用できると思う?」
暗がりの中、離れたソファからミミが聞いてくる。
「さあな、どうだろう。長村さんが警察官なのは本当みたいだけど、なぁ」
「そうよね。警察だから市民を守ろうとしてるって感じじゃなかったよ。何か、怖かった。いきなり襲ってきそうで」
ミミの声が消えそうに小さくなる。確かに長村加奈はやたらとミミを見ていた。飢えた獣の目で。鼻息も荒かった。デートクラブでJKを物色するオッサンみたいだった。体格は男勝りだがよく見ると顔はそこそこ整っていた。化粧気はないが肌が綺麗で、じっとしていると間違いなく女性だ。何故最初自分は男だと思ったのか不思議なくらいだが、ミミへの興奮の仕方は中年男性のそれだったので変に納得してしまった。きっとそういう人なのだ。
「ヒロトの方は?男前は好みじゃないのか?」
「いや、あれはないでしょ。アイドルとかホストみたいなの嫌いなのよね」
「どんなのが良いんだ」
「野良犬みたいなのがいい」
「汚いの?」
「死ねバカ。ワイルドサイドの住民よ」
「黒いライダース男なら紹介しようか?」
「下で潰れてるピンクのモヒカンならお断りよ。明日ちゃんと捨てといてよね、アレ」
「了解」
いつの間にか眠っていた。鳴り響くサイレンの音で目が覚めた。外からだ。起き上がって窓に駆け寄る。
「消防車、か?」
それは赤い車体に板や鉄筋をくっつけた、元消防車の即席装甲車のようなもの。ウー、カンカンと火災発生のサイレンを鳴らしながらゆっくり走っている。上からでは運転席の中は見えない。音に釣られて寄ってくるゾンビ共を押し潰してミンチにしながら、タケルの眼下を走行している。そして止まった、かと思うと今度はゆっくりバックして後ろのゾンビを殲滅する。タイヤ周りに何か施してあるのか、肉や骨がからまって動けなくなるということはなさそうだ。中からカメラで見ているのか、周りのゾンビを丁寧に潰してまた走り出す。
「消防士さんは皆ムキムキで合コン大好きって本当かな?」
毎度ながらミミは音も立てずに後ろにやってくる。心臓に良くないのでやめてほしい。
「知り合いの消防士は、筋トレと風俗に命かけてるって言ってたな。ビル火災の救助に行って死んだけど」
「ふーん、かっこいいのか悪いのか」
「火事になったの、風俗ビルだったしな」
「有言実行なら納得」
走り去る車を見ながらそんな会話をしていると、
「ミミちゃんから離れなさい!この腐れ珍宝!」
長村加奈が2階へ来るなり叫んで拳銃を抜いた。離れるも何もミミの方が近寄ってきているのだが。とりあえず撃たれたくないので、タケルはちょこちょこカニ歩きで横へ移動した。ミミから離れよう。
すると、ミミも真似してカニ歩きでついてきた。何してるんだこいつは。
「離れろ、バカ」
小声で言ったのだが、
パーン
長村加奈が発砲した。銃弾はタケルの頭をかすめた後、窓をぶち破って飛んでいった。割れたガラスが床に落ちる。タケルの冷や汗も流れ落ちる。
「あたしのミミちゃんをバカにするなー!」
あたし、の?ハテナがいっぱいでミミの方を見ると、タケル以上にクエスチョンを浮かべたミミがいた。
「えっと、どういったご関係で?」
「知らない……。昨日初めて会いました」
珍しくミミが敬語になっている。思考停止しているようだ。
「あたしはミミちゃんの、運命の人だー!」
パーン、パーン
2発も撃ちやがった。射撃の腕は大したことないのか敢えて外したのか、少し離れたところの窓ガラスと天井照明が割れ飛んだ。タケルの足元の床に穴を穿ったのは天井からの跳弾らしく、もしこれを狙って撃ったのなら超一流の腕前ということになる。
「ミミちゃんの周りから失せろ害虫。ミミちゃんは、あたしと2人で楽園に暮らすんだ」
色々とツッコミどころが多すぎる。そもそもタケルが先にいた所に転がり込んできたのがミミだし、ミミの意見も聞いてないし、第一、楽園ってどこだよ。
「大丈夫だよタケルさん。あなたは僕が面倒見てあげるから」
さらに混乱を付け足してきたのは、ヒロトだ。イケメン面で微笑みながら、タケルにウィンクしてきた。鳥肌が立つ。はい、そっちの人だったのね。
「僕と幸せになろう」
「あたしと幸せになりましょう」
何か宗教の勧誘かと思うくらい強引な幸福の押し売りである。笑顔なのに目がイッちゃってるのもよく似てる。昔マルチ商法の勧誘に来た知り合いもこんな顔してたなぁとタケルが考えている間に、ミミはショックから立ち直っていた。
「悪いけど、私とタケル愛し合ってるから」
「「「えっ!?」」」
驚きの三重奏。とんでもない爆弾を放り込んでくる娘だ。