4日目
当然のようにタケルが食事を作り、ミミは毎食大盛りを食べた。その代わり洗い物をするように言うと、素直に従った。夜はキッチンのお湯で体を拭き頭を流し、一階と二階に分かれて寝た。二階にはソファ席があったのでミミに譲り、タケルは一階の床で寝た。もちろん、甘酸っぱいようなことは何も起きなかった。
「タケルさぁ、彼女いないの?」
ゾンビ発生から4日目の夜、ミミと出会ってからは2日目の夜、突然そんなことを聞かれた。
「いないね。欲しくもない」
正直にそう答えた。見栄や負け惜しみでもなく、本当にそう思っていた。
「なんで?バツイチ?」
「いや、バツイチではないけど、似たようなもんかな。婚約して同棲してうまくいかなくて別れた」
「浮気?」
「え?」
「いや、なんかタケルって浮気されそうなタイプだと思って」
「どんなタイプじゃい。間抜けってことかい」
「いやぁ、ハハハ」
白々しく笑うミミにため息をつきながら、自然と当時のことを思い出してしまう。惚れた彼女を射止めて付き合った。互いの親にも紹介して同棲した。結婚式場の下見にも回った。さて予約しようかと言う頃になって、喧嘩が絶えなくなった。理由はもう覚えていない。些細なことでやたらに怒られて、タケルもキレて暴言を吐いたりした。手は出さなかったが、お互い罵詈雑言で傷つけ合った。別れて未練も後悔もない。あんなのはもう2度とゴメンだと思っているだけだ。
「なになに、回想シーンですかぁ??泣くならミミさんの胸貸してあげようかぁ」
腰の細さの割に豊満な胸を強調して揺らしながら近寄ってくる。凝視しそうになったが咳払いして目を逸らす。
「ガキの胸に興味はない。そっちこそ彼氏いないのか」
「んーとね、本命2人にキープが3人、セフレとソフレは星の数よ」
そう言って、あまり上手でないウィンクをしてくる。最初会った時と微妙にキャラが違うな。暇なのだろう。
「本命が2人もいちゃあモメるだろう」
「大丈夫、大丈夫。どっちも二次元からは出てこれないから」
どうやら現実の彼氏ではないらしい。
「なんだ、ミミはオタクか」
「古いなぁ。今どき推しに次元の壁なんてないのよ。全部リアルで全部夢なの」
「そんなもんか。全部夢か」
「そんなもんよ。だから今日は2階で寝ていいよ。もちろん何かしたら殺すけど。ソファはいっぱいあるし」
別にミミの家でもないのだが、許可が出たのでありがたく2階で寝ることにする。流石に床で寝るのは体が痛くなってきていたところだ。おおかた昨晩怖い夢でも見たのだろう。そうして4日目の夜も何事もなく過ぎていった。