イケメンになった幼馴染に突然求婚されました~ちょっとヘタレな幼馴染に溺愛されています
凝らずに書いているのでゆるく、ゆるーく読んでいただけたらなぁと思います。
「メリッサ・ブレア嬢!僕と結婚してくれ!」
レビュタントを終えて初めて参加した夜会の会場のど真ん中で、私は突然高身長イケメンに跪かれて求婚された。
「ど、ど、ど、何方様ですか?!」
真っ黒い髪にルビーのように真っ赤な瞳の眼鏡を掛けたその男性は今まで出会ったどんな男性よりも美しかった。
こんなに美しい男性に出会っていたら忘れるはずがないのだが、全く覚えがない。
そんな男性にこんな場所で求婚される事自体有り得ない。
人違いにしては彼はハッキリと私の名を呼んでいた。
思考がついて行かない。
何が起きているんだろう?
男性は優雅に立ち上がるとふわりと柔らかくも蕩けるような笑顔を向けてきた。
ドキッと心臓が跳ね上がる。
「僕だよ、クアラ・チェリカだ」
クアラ・チェリカ。
いつも鬱陶しい前髪で顔の半分を隠していた幼馴染の名前だった。
近所の子達からマッシュとあだ名を付けられていた、日陰が恐ろしい位に似合った幼馴染。
但し幼馴染だったのは6年前の10歳の頃まで。
彼の父であるチェリカ伯爵が大臣に抜擢された為に6年前に王都に一家で引っ越してしまい、それ以降会う事もなくなってしまっていたのだ。
10歳の頃までのクアラは私よりも小さくて青白くてヒョロヒョロしていた。
その上とても内気な性格で私に無理矢理引き摺られて野山を強制的に駆け回るのに付き合わさせても文句も言わないような子だった。
「ク、クアラ?!え?!あのクアラ?!嘘!」
そのイメージしかない私は目の前のキラキラした男性があのクアラだとは到底思える訳もなく素っ頓狂な声を上げていた。
「君の好きな王子様のようにはなれなかったけど、昔よりは大分マシになっただろう?」
破壊力しかない笑顔でそう言うと再び跪いて私の手を取った。
「僕と結婚を前提に付き合ってはいただけないだろうか?」
正直に言おう。
王子よりキラキラだ!
この国の王子達は正直に言って見目がよろしくない。
第一王子は子豚王子と呼ばれる程にプクプク(いや、ブクブク)しているし、第二王子はボツボツと海綿のような顔(毛穴)をしていてその上腫れぼったい一重で出っ歯。
第三王子は糸のような細い目で存在感が異様に薄い。
今回の夜会にも参加しているらしいのだが未だに何処にいるのかすら分かっていない。
そんな王子達と比べて目の前で跪くクアラの美貌と言ったら…雲泥の差である。
彼自身から光が発せられているのでは?と思う程にキラキラしている。
それはそれは眩しい程に。
私は子爵家の次女だがまだ婚約者すらいない。
何度か見合いを勧められたが釣書の段階で断っていた。
ハッキリ言うと私は面食いだ。
クアラにも確か「絵本の中の王子様みたいなカッコイイ人と結婚する」と宣言していた程に面食いだ。
だけどイケメン率が異様に低いこの国ではイケメンに出会える事なんて無理なのだろうと諦めてもいた。
いっその事イケメンが多いお隣の国に留学させてもらおうかと本気で考えていた所に、何とも思っていなかった昔の幼馴染がイケメンになって登場して突然の求婚である。
「よ、よろしくお願いしますっっ!」
こう答えていたのは当然の流れだったと思う。
「ほ、本当に?!」
私の返事にクアラは目を見開いて驚いた。
でも直ぐに破壊力満点の笑顔で笑うと「やったー!」と私を抱き締めた。
周囲から「おぉ!」などと言う歓声が上がり、拍手を送られていたのだが、抱き締められて意識が飛びかけていた私の耳には入ってこなかった。
そのまま勢いで両親に挨拶に来たクアラに両親は腰を抜かす程に驚いていた。
「あ、あのクアラ、君か?」
「本当に?!あの小さかったクアラ君なの?」
「はい、ご無沙汰しております」
優雅で且つ煌びやかな笑顔を向けたクアラを両親は信じられない物を見たと言う顔で見ていた。
騒ぎを聞きつけて妹までやって来て目がハートになっていた。
妹も私と同じく面食いなのだ。
2歳年下の妹も当然昔のクアラの事を知っているのだが、恐ろしい程の美青年に成長を遂げたのだから当然と言えば当然である。
「父からはブレア子爵家ならば問題ないと許可を得ております。どうか結婚を前提とした交際をお許し願いたい」
見惚れる程の礼をするクアラに両親は口を開けたままただ頷いていた。
但し妹だけは「何でお姉様が?!私でも良くない?!」とギャンギャン喚いていた。
*
私とクアラは取り敢えず婚約と言う形から始める事になった。
婚約が決まった途端、元のお屋敷に戻って来たクアラはそこで領主代行の仕事をする事になった。
クアラのお父様が大臣になった事で領地経営は家令が代行していたのだが、婚約者が決まった事でクアラがそれを引き受ける事になったのだそうだ。
後に伯爵家を継ぐのだからそれが少しだけ早まっただけだとクアラは笑っていた。
その笑顔がまた素晴らしかった。
鼻血が吹き出そうな程の笑顔なのだ。
本当に吹き出していたら私は今頃出血多量で死んでいるかもしれない。
美人は三日で飽きると言うが全く飽きない。
日がな一日見ていてもいい程に芸術品の様なクアラの美貌に飽きるはずがない。
そんな彼が私の婚約者だとは…夢なら覚めないでほしい。
元の屋敷に戻って来たクアラは毎日我が家を訪ねて来る様になった。
「メリッサに会いたくて」
その言葉とはにかんだ笑顔だけで倒れてしまいそうな程の破壊力である。
とは言え外見だけ良くても実は中身はクズでしたとなると結婚なんて無理。
だから冷静に(なるべく冷静に)クアラを観察しているのだが、今のところ全くそんな気配はない。
元々大人しいがとても優しい性格だったのだから、外見がキラキラしくなったからと言って大きく性格まで変わらなかっただけなのかもしれない。
でも思わぬ落とし穴が待ち受けている可能性も捨てきれない。
じっくりとクアラの内面も見ていかなければ!と思うのだが、外見の破壊力が本当に半端ないのでそれだけでクラクラしてしまうのは許して欲しい。
クアラはとてもマメで、毎日お花やお菓子を持って我が家にやって来る。
私にだけではなく両親や妹への配慮も忘れない。
嫁いで行った姉や、今現在勉強の為に寄宿舎に入っている弟への配慮までする本当に出来た男で困ってしまう。
勢いでOKしたものの、自分とは余りにも不釣り合いなクアラ。
大臣まで務める家紋の伯爵家の跡取りであるクアラと、しがない子爵家の次女の私では家格からして釣り合わないのに、外見までパーフェクトなこの男は私の何処に好意を抱いていてくれたのか疑問でしかない。
そんな話をするとクアラは耳まで真っ赤にして「君は初恋で、6年ぶりに見掛けてまた君に恋をしたんだ」と恥ずかしそうに微笑んだ。
イケメンの照れがこれ程に凄まじい物だとは思わなかった。
思わずテーブルに突っ伏して声にならない声で叫んだ程に凄かった。
そして心臓が壊れそうな程にドキドキと煩かった。
*
クアラと婚約して半年が過ぎた。
その間に若干クアラの美貌にも慣れたのだが、時折爆弾の様な破壊力の表情を見せるので完全には慣れていない。
但し、クアラへの恋心はしっかりと育っていた。
最初こそはクアラの美貌に落ちたのだが、この半年彼を見ていてその性格も好ましいと分かったのだ。
クアラはパーフェクトな外見をしているが中身は昔のクアラを引き摺っている。
私に対しては自信が無い事が多いらしく、自分から手すら握って来ない。
求婚の時には握って来て、抱き締める行為までしたのにである。
焦れったくなった私が思い切って手を握ったら硬直してしまった。
でもその後に真っ赤になりながらも蕩ける様な笑顔を向けて来たので許そう。
なのに恥ずかしげもなく甘い言葉は吐く。
「今日も可愛いね」
から始まり
「メリッサは甘くて優しい匂いがする」
「メリッサの目は月の光の様だ」
「髪まで蜂蜜色でとても甘そうだ」
「何でそんなにメリッサは可愛いの?」
「どうしよう、メリッサが可愛すぎて辛い」
「誰の目にも留まらない様に僕の腕の中に閉じ込めてしまえたらいいのに」
「そんなに可愛い顔して…僕を殺す気?」
「何でそんなに可愛いの?」
「このまま永久保存してしまいたい」
若干おかしな言葉も混ざっているがこんな事を平然と言って退ける。
私はハニーブロンドの髪で白金の様な目の色をしているが、それを褒めてくれたのは後にも先にもクアラしかいない。
そう言えば子供の頃にもクアラに髪や目を褒められた記憶があったのだが、その当時はふーんとしか思っていなかった。
改めて立派過ぎる程に立派な美青年に成長したクアラに言われると恥ずかしすぎて困ってしまう。
まぁ私達一家はこの国では美しい部類に入ると思う。
でも他国の美形に比べたら絶対に凡庸な顔立ちだ。
だからかもしれない。
もしクアラの前に絶世の美女が現れたらそっちに行ってしまうのではないかとすごく怖かったりもする。
そんな事を言うと必ずクアラは
「君以上に好きになる人なんて絶対にいない。不安にならないで、メリッサ」
と飛び切りの笑顔を向けてくれる。
言って貰えて嬉しいのだがその不安だけは拭えそうになかった。
*
【クアラ】
僕は子供の頃引っ込み思案で泣き虫でひ弱だった。
マッシュと呼ばれて馬鹿にされていた事も知っていたが嫌だとも言えなかった。
そんな僕を外に引き摺り出してくれるのは何時だってメリッサだった。
「家の中にばかりいたらカビが生えちゃうわよ!」
そう言って僕の手を握り笑顔で僕を光の元に連れて行ってくれる。
キラキラと蜂蜜色の髪を靡かせて走り回るメリッサは何時だって眩しい存在だった。
「僕、メリッサと結婚したい」
何気なくそう言ったらメリッサは
「私、絵本の中の王子様みたいにカッコイイ人と結婚するの!クアラがカッコよくなったら考えてもいいわ」
とニコッと笑った。
チビで細くて自分に自信の無い僕が王子様になんかなれる訳もないとその時は諦めたのだが、無理矢理にでも婚約しておけば良かったとその後後悔する事になる。
父がその能力を買われて大臣に選ばれ王都に越すことになったのだ。
最初は領地もあるからたまには戻って来れるだろうと思っていたが、12歳からデビュタントを迎える16までの間寄宿学園に入学する事になり6年間で一度も元の屋敷に戻れなかった。
メリッサへの恋心を自覚していた僕はその6年を酷く後悔したのだ。
伯爵家と言う僕の家の力を使ってでも無理矢理婚約しておけば良かったと心底思った。
メリッサは自覚はないようだがとても可愛い。
そして明るく大らかな性格をしているので凄くモテる。
きっとこの間に何処かの誰かに見初められて手の届かない存在になってしまっているに違いないと思って苦しかった。
しかし6年の歳月は少しだけ恋心をぼかしてくれて、メリッサの事ばかり考えていた時間を薄めてくれた。
もうメリッサが誰かの物になっていても胸は痛まないだろうと思っていた時、僕はメリッサと再会した。
再会と言っても夜会で一方的に見つけただけだったのだが。
メリッサは思わず見蕩れてしまう程に美しく成長を遂げていた。
心臓がドキドキと煩く騒ぎ、一瞬周囲の音すら消えた。
僕はまたメリッサに恋に落ちていた。
たまたま隣にいた男がボソリと呟く声が聞こえた。
「ブレア嬢…やっぱり綺麗だな…まだ婚約者もいないんだ、僕にもチャンスはあるだろうか?」
婚約者がまだいないのだと分かると気持ちが焦った。
誰かに盗られる前に自分の物にしてしまいたかった。
この6年で僕はまぁまぁ見られるだけの男にはなったつもりだ。
メリッサの言う王子様には程遠いだろうが、少なくとも隣にいる男よりは見た目が良いと思える程にはなったはずだ。
僕は夜会に一緒に来ていた父に駆け寄り「メリッサに求婚してもいいですか?」と訊ねた。
「メリッサとはブレア子爵家のあのメリッサ嬢かい?」
父は目を丸くしていた。
隣で母が「メリッサちゃんなら大歓迎よ」と笑ってくれた。
父は少しだけ思案した顔をしたが「いいだろう、ブレア子爵家なら問題ない」と言ってくれた。
ブレア子爵家はどの派閥にも属していない無所属派の貴族だ。
父は立場上王族派に属している為、僕の婚約者には同じく王族派かブレア子爵家の様な無所属派が好ましい。
そしてブレア子爵家は歴史こそ浅いが小さな領地ながら領民を大切にする事で有名な人徳も厚い人物だったのも幸いだった。
まさか初めての夜会で初恋の君であり二度目の恋に落ちたメリッサに求婚するとは思っていなかった。
緊張で頭がクラクラしそうになりながら僕はメリッサの前に立ち跪いた。
「メリッサ・ブレア嬢!僕と結婚してくれ!」
緊張の余り喉が張り付きそうになりながらそう告げると、メリッサは驚きと戸惑いの表情を浮かべた。
「ど、ど、ど、何方様ですか?!」
そう真っ赤な顔で言われた時には少々拍子抜けした。
僕が誰かも分からなかったなんて思いもしなかった。
「僕だよ、クアラ・チェリカだ」
そう告げると何とも間抜けだけど可愛い声がメリッサの口から漏れた。
メリッサからOKの返事を貰った時は思わず抱き締めてしまった。
抱き締めた時間は数秒だけだったが、メリッサはとても柔らかくて良い匂いがした。
その香りに酔ってしまいそうな程にクラクラふわふわした気持ちになった。
周囲から温かい拍手まで貰い、父も遠くから頷いていた。
僕はその勢いのままメリッサの家を訪ねて婚約者の立場を掴み取った。
そして今、隣にはメリッサがいる。
目が覚める度にこれは夢なのではないかと思う。
だから毎日メリッサに会いに行き夢ではないのだと確認して幸せを噛み締める。
そしてメリッサを見てドキドキして、でも何だかモゾモゾとした気持ちが沸き起こり、抱き締めてキスをしたくなる衝動を必死に抑えながら、可愛くて堪らないメリッサに心の中で何度も何度も悶絶するのだ。
*
婚約してから初めての舞踏会に参加する事になった。
当然エスコートはクアラだ。
私は事前にクアラから贈られたルビーのような赤いドレスに艶々とした黒真珠のネックレスとピアスを身に付けた。
「僕の色だよ」
出来上がったドレスとアクセサリーを私に手渡す際にクアラは心臓が止まりそうな程の色気すら漂う笑顔を見せた。
隣に並ぶクアラは白金に近い光沢のある白い燕尾服に蜂蜜の色に近い刺繍が施された物を身に付けてある。
「僕はメリッサの色」
やけに艶っぽくそう言ったクアラを見て心臓が煩く騒いだ。
舞踏会でクアラは令嬢の視線を一手に集めていた。
私へ注がれる余り好ましくない視線がとても痛かったのは言うまでもない。
クアラと二曲踊り、二人で休憩がてらバルコニーで風に当たっていると背後が何やら騒がしくなった。
何事かと思っていると光沢のある美しい藍色のドレスを見に纏った美女が目の前に現れた。
光り輝くゴールドの髪はサイドアップにされていて、深い海の様な瞳が実に色っぽい。
「お前がクアラ・チェリカか」
妖艶に笑いながらそう言った女性は隣国の第二王女リシェリー・ダント様だった。
「この国一の美男子だと聞いたが確かに美しい」
そう言うとクアラに近寄り手にしていた扇でクアラの顎を撫でた。
「こんなつまらない小娘なんかには勿体ないと思わないか?どうだ?私の愛妾になる気はないか?悪い様にはしないぞ」
私の方をチラリと見て鼻で笑ったその顔は、美しさの中に意地悪さと傲慢さが取って見えた。
「私は美しい物が好きなのだ。お前は十分に美しい。お前なら私のコレクションに相応しい。どうだ?」
「お前なんか相手にならない」と王女の目がそう言っていた。
背中に冷たい汗が流れた。
確かに王女はとても美しい。
私なんか見劣りしてしまう程に美しい。
前々から不安に思っていた事がムクムクと膨れ上がり、不安に押しつぶされそうだった。
クアラが王女の手を取ってしまったら私は簡単に捨てられてしまう。
クアラの事が好きだと自覚してしまった今、クアラに捨てられてしまったら私はどうすればいいのだろう…。
そんな事を考えて俯いてしまった私の肩に温かい感触がして、グイッと体が引き寄せられた。
「お戯れを、王女様。私はあなたのコレクションに加わるつもりはございません。もう既に20もコレクションがおありなのです、十分ではございませんか?私はメリッサを愛しております。彼女を不安にさせる言葉は慎んでいただきたいと存じます」
普段よりも冷たい声でそう言うと私を見て安心させるように微笑んだ。
「コレクションは幾らあってもいいものだ。私のコレクションに加わればお前にも利があるだろう?」
「私は我儘ですので一人の女性を愛し、その女性の愛を独占したいのですよ。王女様の愛妾になっても私の欲望は満たされません。ですのでどんなに利があろうともその申し出に首を縦に振る事は出来かねます」
「ほう、愛を独占したいと?それでは私では無理だな。私はコレクションは平等に愛すると決めているのでな。だが気が変わったら何時でも来い。お前なら大歓迎だ」
王女は私をまた見るとニヤリと笑った。
「精々愛想を尽かされぬようにな」
そう言うと再びクアラを見て「このようなつまらない女で満たされる男とは思えんがな」と妖艶な笑みを浮かべた。
「お言葉ですがメリッサはつまらない女ではありません。世界一愛らしくて堪らない僕の最愛です」
真っ直ぐ王女を見つめてそう言い放ったクアラから目が離せなかった。
下手をすれば不敬罪に問われてもおかしくもないし、政略的に愛妾として送られてもおかしくない立場にクアラはいる。
なのにこんなにも堂々と私の事を最愛と宣言するクアラが外見関係なくとても素敵だった。
「アハハハ…これは失礼した。最愛とは参った。そうまで惚れ込める相手がいるとは羨ましい事だ。メリッサと言ったか?すまんな、私の戯言に気分を害しただろう?私は最愛のいる男に手は出さん。もう口説く事はないから安心しろ」
そう言い残すと王女は颯爽とその場を去っていった。
王女が去り姿が見えなくなった途端、私の膝はガクガクと震えて立っていられなくなった。
「大丈夫?少し座ろう」
そんな私を優しく支えてクアラはバルコニーにあったベンチに座らせた。
「…怖かった…クアラが王女様の所に行っちゃうんじゃないかって、怖かった…」
涙が溢れて来て止まらなくなって、私は子供みたいに泣きじゃくってしまった。
「僕がメリッサを置いて何処かに行くわけないじゃないか」
クアラは優しい声でそう言うと私を抱き締めてくれた。
ぎこちないその抱擁に私の涙腺は更に崩壊してしまい、暫くの間涙が止まらなかった。
「僕がメリッサをどれだけ好きだと思ってるの?メリッサ以外目に入らないのに」
頭上から優しくも甘い声が響く。
「でも僕の事で泣くメリッサは可愛すぎる。お願いだから僕以外の前でそんな可愛い姿は見せないでね」
「メリッサ、僕のメリッサ…可愛い可愛いメリッサ…愛してるよ…とても、愛してる…」
涙が引っ込んでもクアラはずっと私を抱き締めたまま、頭が沸騰しそうな程に甘い言葉を降らせてきた。
「クアラ…そろそろ恥ずかしい…」
軽く胸を押して少しだけ距離を取ったのだが、クアラを見上げると色気と熱を孕んだ蕩ける様な目で私を見ていて心臓がバクンと鳴った。
「愛してる、メリッサ」
クアラの手が頬を撫でて、私は思わず「ヒャッ」とおかしな声を上げてしまった。
きっと今私の顔は涙で化粧が落ちた上に目は腫れていて、その上真っ赤でとてもみっともないだろう。
「可愛い、メリッサ…」
それなのにクアラは更に熱の篭った目で私を見つめている。
体中の血液が激しく沸騰しているように全身が熱くなった。
心臓の音が耳にまで煩く響いてくる。
「どうしよう…メリッサが可愛すぎて辛い…キスしたい…」
突然クアラがいつものようにそんな事を言ったので笑ってしまった。
「いいわよ、キスしても」
恥ずかしかったけどそう言うと、クアラは首まで真っ赤に染めて硬直してしまった。
「仕方ないなぁ」
そう言うと私は少しだけ立ち上がってクアラの頬に小さくキスをした。
私から仕掛けないと動けないクアラ。
だけど流石に唇には自分から行く勇気はまだないので頬に軽く。
唇が離れた時、クアラに腕を捕まれ引き寄せられた。
すぐにクアラの顔が近付いてきて唇が重なった。
「キスしてくれるなら唇が良かったな」
再度唇が重なる。
少しずつ深さが増していくキスに気が遠くなりそうだった。
*
私が18になった日、私とクアラは結婚式を挙げた。
相変わらずクアラは私に甘い言葉を吐きまくるくせに何処かヘタレで、でも私の方から一度許すと次からは容赦なくなる。
キスだってあの舞踏会の日を皮切りに凄いことになってしまったものだ。
公衆の面前でも平気でキスをせがむようになった時には本気で失敗したと思ったものだ。
口だけではなく耳や首筋、指にまですぐにキスをしてくる、所謂キス魔のようになってしまったりもしたので困った。
足にまでキスをしようとした時は思わず蹴り飛ばしてしまった。
それをカラカラと笑い飛ばしながらも再度足へのキスを敢行しようとした時には本気で怒鳴ったものだ。
「メリッサ、愛してる」
「私も愛してるわ、クアラ」
「僕を離さないでね」
「普通逆じゃない?」
「そう?」
誓いの言葉を聞きながらそんな事を囁き合う二人を神父様が少しジトっとした目で見ていた。
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あまり手厳しい感想などはモチベーションダウンの上精神的ダメージも大きいのでお手柔らかにお願いします。