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短編

鏡写しの顔半分

作者: 黒い白クマ

「あ」

 水を飲もうとマスクを外した瞬間聞こえた声に目線だけ動かす。目が合った。

 知らない顔だ、当然だが。

 無視する意図があるんだと声高に述べるように、目線を戻す。

「坂田さん」

 鈍いのか強いのか、彼女は言葉を続けた。無視する方がまずそうなので、諦めて目線を投げた。相手は所在なさげに立っている。右手で片耳にぶら下がっていたマスクの紐を引っ張って耳にかけた。

「誰?」

 状況的には最悪解だろう。だが、そういう人間だと知り合いは知ってるはずだ。

「あぁごめん。カザハラ、ほら、去年の比較演習の発表同じだった」

 名前と顔を覚えるのは苦手、だからまずはどこで会ったことがあるのか名乗って。

 そう言いふらしているおかげで、尋ねれば答えが返ってくる。怪訝な顔をせずに返してきたということは、実際知り合いなんだろう。

「……君もコレ?」

 束になった日本史学講義のプリントを振れば、相手は頷いた。

「貴方も取ってたんだ。オンラインだと誰が一緒か分からないから」

「そーね」

 彼女がわざわざ回り込んで左側に座った。ちょっと考えて、空いたドアから流れる冷気を拾いに行ったのかと理解する。今日は暑いんだった。廊下に冷房はないらしい。

「坂田さん、マスクあると印象変わるね」

「そう?」

 間を持たせるためだけにマスクを外して水を飲む。あ、マスク無しの方が違和感がないなら左耳側を取れば良かった。


 カザハラとは席が離れていて、それきりだった。十分で解き終わった答案を退出可能時間になった瞬間渡して学校を出る。

 目的の駅に着いたら、人目を避けスマートフォンを見る。良い時代だ、AIとかが「誰でもない顔」を大量に生成してくれるから。適当に画像を拾える。

 改札を出れば坂田がこちらに左手を振った。ほぼ、さっきまでの私の顔。合点がいく。

「っふふ」

「なに、いきなり」

「いやなんでも」

 彼女の右の目元に黒子があることに今気がつく。成程マスクで逆に目立ったんだ。私が写すと左の目元。

「それより、今日のならお前でも問題なかったよ。ありゃ一時間用のテストじゃねぇ、半時用さな」

「でもウツシがやった方が安全だろ」

「化物使いが荒いご主人で。嫌な奴に見つかったもんだ」

「便利だよ、お陰様で」

 舌を出した本物の坂田に、誰でもない顔で鼻を鳴らす。顔半分とはいえ、バレやしないのが不思議でならないものだ。

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