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ガルドラ龍神伝―人間界編―  作者: 水沢らくあ
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プロローグ

 ここガルドラでは、太古の昔から伝わる≪闇龍アルエス≫が、それぞれの住処を持つ十属性の龍魔族達を苦しめていた。


 彼は、魔道族の領主キアの身体を乗っ取り、魔界中を支配しようと企んだ。が、私、砂龍族のリタと私の仲間の水龍族のヨゼフ、火龍族のナンシーは最後まで諦めず、その龍と戦った。その甲斐あって、闇龍アルエスは滅び、ガルドラの全ての魔族達は、再び笑顔を取り戻した。



 そして、数週間経ったある日のこと。――


 私は長旅と日頃の公務の疲れをとるために、昼寝をしていた。その時、ドアの向こう側から私を呼ぶ声がした。私の乳母、ジオ・クラインだ。何やら彼女は、私とこっそり話がしたい様子。彼女の気持ちを察した私は、黒に近い紺色の鬣を結い、五つの青い珠がついた髪飾りをつけてから、彼女の方に向かう。


「ジオ、何の用だい? 手短に頼むよ」


 私の言葉を遮り、ジオは話を進める。最初は楽しかったけれど、途中で私は、自分の乳母である彼女を疑った。というより、彼女の様子が怪しい。この魔族は、本当に私の乳母なのか? おかしい……。本当の彼女なら、私の言葉を、簡単に遮らないはず。


 私はジオを疑うあまり、彼女の顎に爪型銃≪デュラック・クロー≫の尖端を突き付けた。私の一番の武器であるそれは、かなり鋭く尖っているため、扱いには注意が必要である。ジオではない誰かを緑色の双眸で睨むと、彼女――いや、正体不明の男は、低い声で私を笑う。そいつを、尚も私は睨んだ。


「お前、ジオじゃないな? 彼女は、どこにいる? 答えろ!」


 私の声に反応するように、偽者のジオは、急に薄気味悪い笑いを浮かべた。


「流石だね。お姫様、あんたにだけ、特別に正体を明かしてあげるよ」


 そう言いながら偽者は、自ら変装を解く。その正体は、赤色の短髪を持つ、十七歳くらいの大柄な男だった。


「僕の名前は、リゲル。人間界から来た、人間さ」


 リゲルと名乗る男は、自分の正体を明かすと、私の前から立ち去ろうとした。ふと、彼はまた私の方を向き、


「お姫様、あんたの乳母――ジオは、この砂属性メダルに封印したから。取り返したかったら、人間界においで」と言って、今度こそ私の前から立ち去った。さっきの男――リゲルと言ったか。ジオを捕らえるなんて。きっと、彼は相当武術に長けているだろう。先程の私の攻撃を、素手で受け止めるほどだから、かなり鍛えられているに違いない。それよりも、メダルに封印されたジオは、無事なのだろうか? 国民達の様子も気になる。もちろん、父上の玉座がどうなっているのかも気になるが。


 私は不安になり、部屋を出て、窓から国民達を眺める。その時、私は奇妙な光景を目の当たりにした。なんと、国民全員が、石に変えられていたのだ。それを見て、私の背筋は凍りついた。酷い。一体、誰がこんなことを……。とにかく、謁見の間に行ってみよう。父上なら、何か知っているかもしれない。このままでは、国自体が危ない!


 私は部屋に戻り、机の上にあった青い扇と白い表紙の本を手にした。そして、本棚の隙間に、白い本を差し込んだ。こうすることで、東側の飾り棚が右に動き、私の父、砂龍王ランディがいる謁見の間への近道ができる。が、そのために父上の許可なく彼の部屋に入ることになるので、この件は申し訳なく思う。


 それよりも、気になることがある。なぜ、国民達が全員、石になっているのか。これには、引っ掛かりがある。人間達の仕業と決めつけるには、あまりにも無理がある。私が考えることは、ただ一つ。この事件は、≪一番悪い奴≫が、リゲルとかいう人間を陰で使っているとしか思えない。そうでなければ、人間達だけでは到底、かなりの人口を誇る砂龍族の民を、一度に全員石にできるはずがないだろう。もしそうだとしても、まさか、門番や近衛兵も石に?


 数多くの疑問が私の脳裏を駆け巡るなか、謁見の間の前まで来た。案の定、謁見の間の前で番をしているディフレンまで、石になっている。一体誰の仕業かと思いつつ、私は扉を開けた。謁見の間の中では、父王ランディが玉座に腰掛けたままの状態で、人間と戦っている。私の気配を察したのか、父上は人間から目を逸らした。


「リタ! こっちに来てはならない。早く、逃げるのだ!」


 父上が、私に逃げるよう催促する。が、私は父上の言うことを聞かず、自分の乳母の現状を言う。


「父上、大変です。先程ジオが、その青年の仲間に攫われました」


 私の報告に、父上は驚いた。父上は呑気にも、大きな牙のすぐ下にある顎を撫でながら、考えている。人間達が何をしようとしているのか、父上はわかっているのだろうか。父上は、いつもそう。私か部下達が自分に報告しても、大抵は呑気に構えて、今のように自分の考えに浸る。王なのだから、少しは自分の目の前に起きていることを処理できるようになってほしい。私は腹が立ち、青年の肩を掴み、彼の視線が私の方に行くようにした。父上は、そんな私の行動を制止しようとする。


「リタ、冷静になりなさい。勝手なことをしてはならない」


 父上が、私を叱った。『冷静になりなさい』? むしろ、この状況下で呑気に構えているのは、どちらですか。父上こそ、この青年にもっと怒るべき。私は流石に今回のことで頭にきて、父上に反発する。


「何を言っているのですか? 私の乳母が誘拐されたのに、冷静になれませんよ」


 私が言い返すと、父上は少しの間だけ考えた。そして、口を開くや否や、冷静なのか呑気なのかわからないことを言う。


「リタ……。闇龍との戦いで、少しは大人になったかと思ったが……。あれほど何回も、『憎しみを持ってはならん』と言っただろう」


 父上が怒りを露わにした時、ドスン、という音がした。私は父上の玉座を前に、人間の青年に押し倒された。


「いきなり、何を……」


 私が言い終わらないうちに、青年は布を、口にあてた。彼に言いたいことはあるが、口が思うように動かない。それどころか、息ができない。まさか、窒息させる気か? だんだん、意識が……。私は、次第に気を失ってしまった。


『リタ!』


 父上が私を呼ぶ声が微かに聴こえた気もしたが、それすらもぼんやりとしか聴き取れない。私は、どうなってしまうのだろう……。ジオみたいに、メダルに封印されて、どこかに連れ去られて行くのか。いずれにしろ、今の私に、それを知る由はなかった。

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