表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/55

鬼教官は浮かれポンチを許さない




「サバトだあ?サバトで男に好かれてお前らの魔導技術が向上するのか?ああん?お前ら、サバト行ってちやほやされたら人狼の攻撃防げんのかあ?」


同じ学部の皆の前でミモザとアイリーンを宙吊りにして、教官が大きな声でサバトサバトと辱めてくる。

エリートでも何でもないミモザが戦場に赴く職に就けるとは思えないが、教官の剣幕はいい訳を許さない怒涛の勢いだ。


「戦場で背中預けてくれた奴らを殺したいのか、この浮かれポンチども!」


教官の怒声に驚いた皆は手を止め、好奇心が見え隠れする目でミモザとアイリーンに注目している。

準備を既に終わらせて訓練を開始していたユリウスといえば、飛んでくる球の中で驚いたような青ざめたような顔でミモザたちを見ていた。

ちなみに彼に向かって飛んでくる球は他の生徒の比ではないスピードと量なので、ミモザたちに注目したせいで防御魔法の展開が一瞬遅れた彼は、肩や腹の何か所かに球を食らっていた。


「今この時間はサバト行く計画を練るためのものじゃないよなあ?防御魔法を身に着けるための時間だよなあ?」



教官の説教を聞きながら、ミモザは小さくため息をついた。

はあ。

入学して数週間で、サバトの事しか考えてないチャラい女のレッテルが張られてしまいそうである。



「やめてくださいよ、教官!これってセクハラです!」


早々に諦めたミモザの横で、グレゴリー教官の叱責に耐えかねたアイリーンが体をくねらせて暴れた。


「はぁ?」

しかし、このセクハラという言葉が逆効果だったようで、グレゴリー教官はビキッと眉を吊り上げた。


「セクハラァ?そういうことは、一人前の魔導士になってから言いやがれ!お前ら二人、今日はサバトなんかに行けなくなる迄しごいてやる!寮には遅くなるって今連絡しとけ!」


……とばっちりだ……

だが少しでも文句を言おうものなら朝まで寮に帰れなくなりそうなので、ミモザは口を噤み続けるしかなかった。

アイリーンは「鬼教官ー!!」と叫んでいたが。





「……巻き込んじゃってごめんね!こうなったら、意地でもサバト行こうね!」


教官に引き摺られて広い訓練場の隅にある特殊訓練室に向かう道中、アイリーンがミモザの耳元で元気にそう言った。

サバトに行くためにしごかれるのだから、絶対サバトに行くという彼女の決意表明だった。


はあ。

ミモザは再び溜息をついた。




……


ミモザとアイリーンはボロボロになって教室に帰ってきた。

伝統的なローブの制服は何度も床に叩きつけられたせいで、汚れて可哀そうなことになっている。

防具もすっかり薄汚れてしまった。


先ほどまで2人をしごいていたグレゴリー教官は、教育職に就く前は国防本部の第一線で戦っていたような人だ。

物理防御魔法が彼の専門なので、彼の授業の授業の仮想敵は術攻撃が主体の吸血鬼やセイレーンなんかではなくて、最も凶暴で屈強な人狼だ。


教官はその人狼を相手にこの魔法使いの国を守って戦ってきたこともあり、妥協を許さなかった。

だから、ミモザやアイリーンのように、軍にはいる能力がまるでなさそうな生徒にも恐ろしく厳しい。

防衛魔導学部に所属するのは彼のような鬼教官ばかりで、ミモザたちはもはや生徒ではなく、軍の訓練生のような扱いを受けている気がする。


他の学部はどうなのだろう。

これより楽なのだろうか。それとも、これと同じくらいスパルタなのだろうか。

ミモザは防衛魔導学部という外れを引いてしまったのだろうか。



「くらくらしますね」

「ねー、体も頭も痛いよね!あー、今すぐ寝たーい!」


アイリーンとは絶対に相性が良くないと確信していたミモザだったが、同じ苦楽を共にしたからかほんの少しだけ仲良くなった。


「でもサバトの為にうちらはやり切ったよね!ね、ミモザちゃん。これで次のサバトで絶対良い男見つけられる気がしない?!」

「サバトの為ではないような……」


……やっぱりアイリーンとは仲良くはなれないかもしれない。



やっぱり気は合いそうではないが、ミモザとアイリーンは様々な物が詰め込まれた大きな鞄を掴み上げ、共に正面玄関を目指す。

アイリーンの帰る部屋も一年次の女子寮にあるはずなので、2人の帰り道は同じである。


外に出れば、辺りはもうすっかり暗くなっていた。

この学園は中央都市のど真ん中にあるので、遠くにある門の向こうには街の賑やかな明りが見える。

しかし、2人は早く休みたい一心で帰り道を急いだ。



「じゃあね、ミモザちゃん。サバトの日時決まったら教えるから!楽しみにしててねー!じゃ、おやすみ!」


学校の広大な敷地の東側にあるアンティーク調の巨大な要塞のような女子寮に到着し、赤いじゅうたんの廊下を突っ切って螺旋階段を登り、目当ての階に到着したアイリーンは元気にミモザに手を振った。

そしてミモザの返事を待つことなく廊下の奥に消えていく。


「あ、私はサバトに行きたい訳ではなくてですね……」

ミモザの声はもう廊下の角に消えてしまったアイリーンに届かなかった。


……まあ、いいか。

サバトの日時が決まったと教えられたら、その日に予定があることにすればいい。


サバトにはあまり行きたいとは思わない。

なにかと面倒くさそうだからだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ