同罪人は新しい友達
その後の対物理防御魔法の実習訓練は、防御魔法を発動させて次々に跳んでくる球を跳ね返すという内容だった。
巨大な訓練場にある特殊な機械から、人狼の打撃を想定した球が発射されるので、それに合わせて防御魔法を発動させるのだ。
魔法の正確さと強度だけでなく、反射神経と身体能力も求められる。
そこでのユリウスといえば、まるで修羅のようだった。
球を跳ね返すどころか、恐ろしい勢いで破壊していた。
なぜ防御魔法の魔法壁で球が破壊できるのかは謎だ。
だがそれはまるで煩悩か何かを振り払うような、八つ当たりでもしているような暴れっぷりだった。
さすが、天才は格が違う。
ちなみにミモザの方は凡才らしく可もなく不可もない魔法壁を発動させて、飛んでくる球を跳ね返していた。
決して手を抜いているわけではない。
適当な性格のミモザだが、根は真面目で勤勉でもある。
高望みはしないが、出来ることはしっかりやるつもりだ。
長い時間ぶっ続けで球を受けた生徒たちがフラフラになった時、教官の号令で休憩になった。
ミモザは他の生徒と同様にフラフラしながらその場に屈みこむ。
ハアハア肩で息をしながらぼんやり周りを見回した時、一人飄々とした表情のユリウスと目が合った。
「ユリウスさんはやっぱり凄いですね」
ユリウスが先ほど見せた防御魔法を誉めたつもりだ。
しかし、それを聞いたユリウスには滅茶苦茶嫌そうな顔をされた。
……もしかして、さっきミモザと同じコップ使ったということをまだ根に持っているのだろうか。
そろそろ休憩時間も終わるという頃、たまたまミモザの隣で休憩していた女の子が声を掛けてきた。
「ミモザちゃんいいよね。ユリウス・グレイシャーと仲良くて~」
彼女はアイリーン・フランシスという、高い声で話すブロンド髪の女の子だ。
教室でミモザと彼女の席は遠いので、彼女とは今日初めて喋ったに等しい。
アイリーンの事は名前しか知らなかった。
「仲がいいというのでしょうか?さっきは嫌な顔をされましたけど」
「普通に仲いいでしょ。彼、他の人にはああいうおどけた顔もしないし、それに他の人とは全然喋らないし」
「確かに、ユリウスさんが誰かと話しているところはあまり見たことありませんね」
ユリウスは人と全然喋らない。
話しかけられても否定の無視か、肯定の「ああ」しか言わない。
ミモザには何かと話しかけてきたりパンを渡してくるが、他の人にそんなことをしているところはまるで見たことがない。
お弁当をきっかけにミモザとは話すようになったが、ユリウスは実はかなりの人見知りなのかもしれない。
いや、かもしれないじゃなくてそれでほぼ間違いない。
その証拠に、ユリウスは顔からしてザ・不愛想だ。
「彼ね、あたしが話しかけても全然返事してくれなくて。どうしたら返事してくれるんだろ」
「多分、慣れてくれば貴方とも話すようになると思います」
「そうかな!?じゃあ彼が慣れてくれるまでがんばろっかな。彼絶対出世するし顔も好みだし、あたし秘かに狙ってるんだよね~」
アイリーンは、反応を観察するように横目でミモザの顔をじろじろ見てきた。
なんだろう。そんなにじろじろ見られては、ホクロが増えてしまう。
「ねえ、ミモザちゃんは好きな人とかいないの?」
アイリーンがどういう人間なのかを探りかねていると、いきなり恋の話が始まった。
しかし丁度そのタイミングで、「休憩止め!配置に付け」と教官の号令も耳に入ってくる。
「ね、ちょっといいなと思う人とか、いないの?」
生徒たちは皆、教官の号令に従って訓練を再開させ始めているが、ミモザに話しかけるアイリーンはそんなことにはお構いなしのようだ。
配置に付こうと立ち上がったミモザに、じゃれつくように話し続けてくる。
「はい、いないです」
「そっかそっかあ~、いいじゃんいいじゃん。じゃあ、どういう人が好みなの?」
「優しい人でしょうか」
早口で適当に答えておいた。
教官が、口ばかり動かしているミモザとアイリーンをギロリと睨んだからだ。
……やばい、こちらに来るぞ。
だがその教官の鋭い視線に気が付かないアイリーンは、体をくねらせて声を上げた。
「じゃあ今度優しい人紹介してあげるから、一緒にサバトいこっか~!」
ちなみにサバトとは、昔は魔女会という意味だけに使われていたが、最近では男女の魔法使いが集まって気楽に食べたり飲んだりする、超カジュアルなお見合いの場、という意味でも使われる。
「ミモザちゃんかわいいから、男喜ぶと思うし!」
アイリーンは、真っピンクに塗られた爪が印象的な手をパタパタさせてキャピキャピしていた。
「いえ、サバトは遠慮……うぐ!」
「きゃあっ!」
そこで、ミモザは返事をする前に首根っこを捕まえられた。アイリーンも同じだ。
二人の後ろでは、恐ろしくごつい顔をしたグレゴリー教官が、怖い顔をして立っていた。