やっぱり締めはハッピーエンドで
「こんなことを……いきなり言えばお前は驚くかもしれないが……お前、俺と結婚してやってもいいと、思ったりしないか」
「えっ。……ということはユリウスさんは、誰かと結婚したいのですか。ご両親に急かされたとか?」
「ご、誤解するな。結婚がしたい訳じゃない」
「結婚したくないのですか。したくないけどでも、誰かとは結婚しなくてはならないと?それで気心知れた私に聞いてみた訳ですか?」
「い、いや、だから、別に結婚しなくてはいけないわけではない」
「ならしなくても良いのでは?」
「違う………………」
「違う?」
「俺は誰かじゃなくてお前と結婚したいと言っているんだ。……くそ、言わせるな」
「え」
一週間前にユリウスが神妙な顔して話があるなんて言ってきたので、それって死亡フラグでもありつつ付き合ってくれ的な事を言われるフラグかな、なんて少しだけ妄想していた。
でも数年一緒にいても何も言われなかったし、完全に友達だと思われているんだろうからそれはないないと早々に結論付けていたのだ。
しかし、彼の話はミモザの予想のはるか上をいくものだった。
「私と結婚、したいのですか?」
「そ、そう言っただろ、何度も言わせるな」
「……」
「何とか言え……」
「あんまり信じられません」
「俺がそんな嘘つけるわけないだろ」
ミモザの側から、ユリウスの顔が見えなくなった。
彼がそっぽを向いてしまったからだ。
「あの、何故私と結婚したいのか教えてください」
「そ、そんなこと聞くな!察しろ!空気を読め!これでもいっぱいいっぱいだ!」
「そこをなんとか!」
「理由なんて分かるだろ言わなくても!」
「言って欲しいです。……それは、す、好きだからですか?!」
ミモザが声を絞り出すと、ユリウスは何度か怒ったような迷ったそぶりを見せたのち、躊躇いながら口を開いた。
「…………そういうことだろ……」
ギュッ。
掠れた低い声を聞いたら、不覚にも心臓が変な音を立てて鳴った。
耳の奥から聞こえる心臓の音が大きくなる。
……そ、そういうことなのか。
好きだという言葉が、ゆっくりミモザの脳みそに沁みて来た。
以前間違えて食べてしまった惚れ薬チョコレートが、ドロリと脳みそを溶かしていったあの感覚と少しだけ似ている。
動悸が早くなって、体が熱くなってきた気がする。
ミモザはゆっくり自分の頬を押さえた。やっぱり熱い。
「そうなんですね……」
小さく呟いた。
「嫌ならさっさと断れ。俺に気を遣う必要はな、」
「断りませんけど」
ユリウスの言葉を遮って、ミモザは言った。
首をフルフルと振れば、ユリウスが驚いて顔を上げたのが目に入った。
全力で耳を疑っているかのような顔だ。
「断りませんから」
「……は?」
それを聞いてもユリウスはまだ驚いている。
まだ状況を把握できていないかのように呆然としている。
「嫌じゃないです、全然……」
ミモザの方はこれ以上何も言えなかった。
もっと何か気の利いたことが言えればよかったが、慣れないことをしたのでもういっぱいいっぱいだった。
「……」
「……」
「嫌でないというのは、いい、のか?」
2人の間にあった沈黙を破ったのは、赤い顔を懸命に険しく見せようとしているユリウスだった。
「そういうことになります」
「……け、結婚だぞ?」
「まあその、他の人だったら嫌ですけど」
思ったままに呟くと、ボンッとユリウスの顔が真っ赤になった。
信じられないのか、自分自身を殴り付けようとして押し留まっているような葛藤が見えるようだ。
「っ、変なチョコレートとか、食べてはいないだろうな?!」
「チョコレートですか?食べてません。今日つまみ食いしたのはビスケットでした」
「変な魔術にかかっていたりはしていないな?!」
「私に精神系の魔術は効かないこと知ってますよね」
「ならいい!」
乱暴に言い捨てたユリウスは、ゴソゴソとポケットを探り始めた。
そして、その中から小さな箱を取り出した。
彼の大きな手のひらに載ったその小さな箱がミモザに差し出された。
「こ、これをやる!……さっきのはやっぱり冗談だったとか、適当に言ったことだったとか言うなよ。途中で気が変わったとかも言うなよ。明日になって忘れるようなこともするなよ。い、いいな?!」
「そんなこと、しないです」
「いや、お前は適当なことをよく言うし、物忘れの常習犯だった。学生の頃、忘れ物をするお前に俺が何度教本を貸したことか!」
……
何よりも真っ白なグレン特製のドレスを着たミモザは、控室であの時貰った銀の指輪を眺めながら、また思い返していた。
隣の席だったユリウスと初めて出会った一年目、たくさんのことがあった。
二年目も、合宿に行ったり、魔導大会に出たり、地方に旅行に行ったり。大変なことも楽しかったことも多くあった。
三年目も、学園対抗魔導大会があったり、科学魔導工場に見学に行ったり、国の式典に参加したり。思い出すだけで一日が終わってしまいそうだ。
それから働くようになってからも、色々なことが起こった。
そのたくさんの思い出の中、大体のミモザはユリウスの隣にいたように思う。
何だかんだ一緒にいた。
そうやってよく一緒にいたのは、席が隣だったからだろうか。
いや。きっかけはそうでもそれが理由じゃない。
昔からよく隣にいたのは、たまたまじゃない。
その理由に、その気持ちに、今になってようやく気が付いた。
ずっと、そうしたかったから隣にいたのだ。
彼の隣にいるのが一番楽しかった。一番安心した。
この感情に名前を付けたのはほんの最近の事だけど、そもそも名前なんて適当でいいのだ。
大事なのは、これからも彼の隣にいられるということだ。
終わりました!長い間おつきあいありがとうございました。
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本当にありがとうございました(^▽^)