直情型の女の子はいろいろ危ない
暗い廊下だったが、女性の魔法使い達が詰め込まれた部屋はすぐに見つかった。
そこだけが明るく、物音や悲鳴が聞こえたからだ。
いや、もっと言うと笑い声や野次も聞こえてきた。
廊下の角で身を隠しながらその場所を観察すると、そこが何なのか次第に分かってきた。
そこにはどうやら、小さな劇場のようなものがあるようだった。
魔法使いの女の子達がいる部屋は控室。
そして控室のカーテンをくぐればそこは舞台裏。
舞台裏から一歩前に進めば、もうそこは表舞台。
ミモザは身を隠しながら舞台脇に潜んだ。
舞台には埃っぽいスポットライトが小さく当たっていた。
客席にちらほら人影があるのが分かった。
くすくす笑ったり、舞台に向かって何か話したりしている。
あれらは、吸血鬼だろうか。
ならばこの状況は非常によろしくない。
知性的に話し、大人しく座っているということは上級以上の吸血鬼だということだからだ。
もうすこし探りを入れるべく、焦らず舞台の方に改めて目を向ける。
ぎょっとした。
攫われた魔法使いの女の子が魔力封じの道具で拘束され、ドレスのままで静かにすすり泣いていたのだ。
血を抜かれ、客席の吸血鬼たちがそれを試飲していることも分かった。
血の味を確かめた吸血鬼が対価になりそうな宝石や装飾品を提示し、舞台の袖にある大きな椅子の上で長い足を組んでいた吸血鬼がにやりと笑う。
ピンときた。
これは攫ってきた魔法使いのオークションか。
どうせ吸血鬼の事だ、大した理由もなく愉快だからという理由でオークションを始めたのだろう。
……なんて悪趣味な。
吸血鬼のくせに。
ミモザは拘束具を使うような上級の吸血鬼と戦って勝てるかとか、客席の吸血鬼が何体いるかなんてあれこれ考えるより先に手を出した。
ミモザは自分がこんなに直情型だったことに我ながら驚いた。
戸惑うことなく手近にあったカーテンを燃やし、舞台に火をつける。
攻撃魔法は得意ではないが、火を起こすくらいの基本魔法ならなんてことはない。
それから突然の火に驚いた吸血鬼の隙をついて、走りながら胸から鉄版を抜き取った。
舞台の上に思いっきり駆けあがる。
ガン!ガン!ガン!
走った勢いのまま、囚われていた魔法使いの拘束具を思いっきり鉄板で殴りつけた。
脇目もふらず殴りつける。
魔力封じの道具に魔法は一切効かないが、こういうものは物理攻撃には弱いと相場が決まっているのだ。
すすり泣いていた彼女はミモザの登場と行動を理解し、一瞬で涙を止めた。
魔法が使えない魔法使いはただの吸血鬼の餌だが、魔法が使えるのであれば吸血鬼とだって戦える。
むしろ、害虫である吸血鬼を狩る側だ。
「舞台裏に他の子たちが捕まってる!みんな拘束具を付けられてる!」
拘束されていた魔法使いは自由になった。
水を得た魚のように自らの風魔法で炎を大きく舞い上がらせたその魔法使いの女の子は、ミモザを庇うように舞台の真ん中に立つ。
彼女のドレスの裾が舞い上がる。
彼女がミモザに目配せをした。
行ってその鉄板で拘束具を破壊してという意味だろう。
ミモザは再び走り出した。
作業していた虚ろな目の魔法使い達を勢いで殴り倒し、扉を開ける。
そこでは唇を引き結んだドレスの魔法使い達が、拘束具を付けられて身を縮めていた。
皆、魔法が使えない無力さに絶望した顔をしていた。
ミモザはグレンが痴漢撃退用に仕込んでおいてくれていた鉄板を振りかぶりながら、部屋のど真ん中に飛び込んだ。
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
そして一心不乱に魔法使いの女の子たちに付けられた魔力封じの拘束具を叩き壊して回る。
魔法使いの女の子たちは突然のミモザの登場にあっけにとられた顔をしていたが、徐々に状況を理解し始めたのか、その目に強い光が宿り始めたことが見て取れた。
叩いて叩いて壊して壊して。
魔法使いは魔法が使えなくては始まらない。
魔法使いの勇気と希望の源はその身に宿る魔法だ。
だからこんな魔力封じの拘束具はすべて壊されるべきだ。
「あんた!後ろ危ない!」




