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手持ち無沙汰は悪酔いを招く



それからユリウスは何人かの顔見知りに話しかけられ、当たり障りなく返事をしていた。


そしてひと段落したところで、アルベルがミモザたちの元にやって来た。

アルベルは一年次の強襲魔導学部の主席なので、逆十字同盟のメンバーだ。


これまた高級そうな衣装に身を包んだアルベルは、いつかの合同訓練でミモザをノックアウトした勝ち気な顔のポニーテールの女の子を連れていた。


「ミモザちゃん!俺がもうちょっと早く誘ってあげてれば俺と来れたはずなのに、ごめんね」

「どれだけ早くてもアルベルさんと来ることはなかったと思いますけど」

「照れてるの可愛い」

「照れてませんけど」

「髪上げてるの可愛いね」

「ありがとうございます」

「やっとデレてくれたね。可愛い」

「……」


アルベルの相手は面倒くさいのでさりげなくユリウスをアルベルの方に押しやると、今度は勝ち気な顔のポニーテールの女の子に睨まれた。

滅茶苦茶恨みがましい目で睨まれた。


とりあえず無害だということを伝えるために微笑んだが、逆効果だったようだ。

「アルベルのパートナーは私、だから」と耳打ちされてしまった。


ポニーテールちゃんは容赦がないし強いから怖いんだよな。


パートナーが誰かと話している場合、その誰かのパートナーと話したりするのがこういうパーティでの相場なのだが、ポニーテールちゃんからは友好的な視線は飛んでこない。

ユリウスがアルベルの相手をしている間、ポニーテールちゃんと仲良く話ができなくて手持ち無沙汰なミモザは横を通る給仕が盆に載せてくるフィンガーフードを数えていた。


プチタルト、プチグラタン、ハム、なんだかよく分からない高級そうなもの、なんだかよく分からない高級そうなもの……。



食べ物はなんだかよく分からない高級そうなものが多かったが、給仕が盆に載せていた蜂蜜酒は美味しそうだと思った。

逆十字同盟主催のパーティなのだ、きっといい蜂蜜酒だろう。

ミモザは給仕が勧めるそれを一つ手に取った。

やっぱり美味しかった。


ユリウスがアルベルに絡まれて暫く放してもらえなかったので、ミモザは結局その場で2杯飲んでしまった。


そして3杯目のグラスに口を付けたり離したりしながらぼんやりしていると、楽団の演奏がひときわ大きくなった。

曲調も変わったようだ。



「……あれ?」


曲調が変わったからなのか、なんだか目の前がくらくらしてきた。

おかしい。

視界がなんとなくぐにゃぐにゃする。


不思議に思いながらも足に力を入れると、ぐにゃぐにゃが治まった。


ミモザが踏ん張っている間に、ドレスアップした魔法使い達はもう軽やかなステップを踏み始めていた。

今日の舞踏会のメインイベント、踊りの時間が始まったのだ。

煌びやかな会場で軽やかに舞い踊る何組もの魔法使い達の様子は圧巻だった。


それを見たアルベルもようやく話を終えて、ポニーテールの女の子の手を引いて優雅にホールの中央に消えていったようだった。





「踊る、か」


大きい手がすっと伸びてきて、ぎこちない動きでミモザの手に触った。

そっと横を見上げると、ユリウスとバチッと目が合った。


「い、嫌ならやめておくか」


何も言っていないのに、何故か彼はすぐに手を放してしまった。


……嫌なんて言ってないのに。


そう思ったその時突然、ミモザの眼前がぐらりと大きく揺れた気がした。

目が揺れたというか、脳みそが揺れたというか。


バランスを崩したような錯覚に陥って、離れてしまったユリウスの手を咄嗟に捕まえた。


「ユリウスさん」


「な、なんだ」


ぎゅっとユリウスの手を握る。

頬を染めたユリウスの手が少し震えた気がしたが、そんなことには構わない。


……いや、もう構っていられない。


「ひ、ひどい眩暈がします……お酒を飲み過ぎたのかも……」


おええええ。

言葉にしたら、一気に気持ち悪さが押し寄せてきた。

脳がぐらぐらする。視界が歪む。

ちょっと、まずい。


ユリウスが手を握って腕を支えてくれていなかったら、ミモザは床に這いつくばっていただろう。







ミモザは救護室の布団の上に寝かされていた。


救護室の担当医には酒の悪酔いだと笑顔で言われた。

悪酔いに効く薬として丸薬を貰って飲んだ。


救護室では、ミモザと同じように酒に酔ったのか人に寄ったのか、具合の悪そうな女の子が何人も寝ていた。

舞踏会の煌びやかさにタガが外れてたくさん飲んでしまったのだろうか。


「うう……」


グラグラグラグラする。

体温が下がり、眩暈を我慢するための冷や汗がどっと出て来た。


お酒には弱くない筈なのだが、久しぶりに飲んだのがいけなかったのだろうか。

こんな風に酔ったことなんて、お酒を何瓶も飲んだ時以来だ。


ユリウスが心配そうな顔でベッド脇に座っている。

ミモザはユリウスの手を懸命に握っていた。

握っていればグラグラが緩和できるような気がしたのだ。


そしてユリウスもミモザの手を両手で握ってくれていた。



冷や汗をだらだら流しながらぎゅうううと握り続けていると、ぼんやりとした意識の中で、ユリウスが誰かに話しかけられていた。


何やらユリウスは誰かにホールに来るようにと呼ばれているようだ。


ユリウスは行かないと首を振っていたが、説得されたのかどうしようもない事情だったのか、握っていた手を開いた。

そしてゆっくり手を放した。


ミモザを気遣い、すぐ戻ると最後まで呟いていた。







しかし、ユリウスは戻ってこなかった。

ミモザが目覚めても、その隣にユリウスはいなかった。





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