捕食者風、異世界風なんでもござれ
月末なんてまだまだだと高をくくっていたが、舞踏会の日はあっという間に来てしまった。
グレンに頼んでいた衣装は、舞踏会前日に滑り込みで到着した。
一着しか着ないというのに、大きな箱の中には衣装が何着も入っていた。
ユリウス宛の箱の方がミモザの箱より見るからに大きかったので最初に開けてみてみると、案の定衣裳がギチギチに詰まっていた。
グレンは服が映えるスタイルのいいユリウスの事を気に入ったらしい。
そういえば仕立て屋を訪ねた時、グレンは「かー、こんな難しい俺の服を簡単に着こなしやがって!お前モテるだろ!」と嬉しそうにユリウスの背中をバシバシ叩いていた。
まあそれはいいとして、とりあえず箱の中身を検めることにする。
吸血鬼伯爵風の、肩に掛ける白い雪狐の毛皮と血のような赤をアクセントにした黒のタキシードとか、銀狸の毛皮をふんだんに使った野生的な狼男をイメージした衣装とか。
そのほかにも、人面魚とか喰種とか、食虫植物をイメージした衣装もあった。
ユリウスは終始良く分からないと言わんばかりの顔をしていた。
たしかに、あの奇抜デザイナーグレンの感性には常軌を逸したところがある。
魔法使いの怨敵である、悍ましい吸血鬼や憎き狼男をモチーフに作った衣装なんて不謹慎極まりない。
だが、そのデザインと発想の奇抜さ故に熱狂的なファンがいるのもまた現実なのである。
そして、あり得ないものを衣装デザインに落とし込むそのセンスの良さは平凡な妹から見ても、凄い。
衣裳だけ見れば奇天烈でも、着てみるとこれが何故だか馴染んでかっこよくなるのである。
ミモザとユリウスは吸血鬼侯爵風と吸血鬼侯爵夫人風の衣装にするか、マフィアと愛人風の衣装にするかで悩んだが、最終的にミモザの衣装の布面積が多かったマフィア風の衣装に決定した。
せっかく何着も作ってもらったが、舞踏会は一日しかないので一着しか着れない。それは少々勿体なくもある。
その次の日、舞踏会当日。
昼過ぎにはグレンが助手と共にミモザとユリウスの所に押しかけてきて、否応なしにヘアメイクを施していった。
衣裳を作っただけでは終わりじゃない。
ヘアメイクを施して、完璧な状態のそれを舞台に送り込んで初めて完成なのだとグレンは偉そうに語っていた。
やっぱり、デザインなんてやってるアーティストはこだわりが凄い。
「ああ、ユリウスさん。まったくの別人ですね。クスリとか売ってそうです」
「ぼったくるぞ」
「ぼったくり?マフィアってそうなんですか?」
「いや、知らん」
舞踏会に合わせてあらかじめ予約をしておいた控室でヘアメイクを終わらせて出て来たミモザが対面したのは、何とも様になるマフィア風のユリウスだった。
オールバックの黒髪に、高級そうなジャケットと真紅のハンカチ、金のカフス。
そして物凄い威厳を纏った大きな銀の毛皮を、マントのように肩に掛けている。
どこからどう見ても、凄い金持ちイケメンマフィアになっている。
しかも色気が犯罪級まである。本気で捕まりそうな勢いだ。
「というか、お、お前、何だそのスカートは!」
「まあ、大股で歩かなければスリットなんてないのと同じですよ」
「衣裳を選んだ時にはそんなものはなかっただろ!」
「ありましたよ」
髪をアップにしたミモザは、深いスリットの入った鮮やかな赤のドレスを着ている。
そしてやっぱり、羽衣のように肩に掛けたのは金持ちの権化のような贅沢な白い毛皮だ。
そして高くて細いヒールを履いている。華奢なアクセサリーはゴールドで統一した。
グレン曰く、お金をたくさん貢がれている色気が凄いマフィアの愛人風だ。
ちなみに胸とお尻はパットを盛り盛り済み。
2人並んで鏡を見れば、どこか異世界の裏社会からやって来たようなマフィア風の二人組がこっちをじっと見ている。
普段は真面目な、長いローブの制服を着ているミモザとユリウスからは考えられないくらいの奇抜さだ。
これはもはやドレスアップではなく、変装と呼んでも差し支えないのでは。
「おいテメーら。そろそろ時間だろ?俺の衣装着てんだから分かってるだろうな?一番目立って来やがれ!」
揃って姿見を凝視していたら、どんと背中を押された。
2人を見て満足そうに腕組みをしたのは、控室から出て来たグレンだった。




