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妹の心兄知らず





「あん?舞踏会の衣装を一着タダで作れだと?ふざけんな、お前誰に向かって口きいてやがる」


街の仕立て屋で声を荒げてミモザを睨みつけたのは、ミモザと同じミルクティー色の髪を後ろで一つに縛った背の高い男だった。

顔はミモザにどことなく似ていて、鼻筋がすっと通った美形だ。


しかしミモザと違って彼が纏う雰囲気は明らかに特殊で、彼の腕に巻かれた綿入りの帯には針が何百本と突き立てられており、まるで針を背に持った蛇を腕に巻き付けているようでもあった。

それから両手の甲には激しい刺青が彫ってあり、その耳にはピアスが幾つも開いている。


「一着作っただけでこの俺が満足するわけねーだろうが!この妹が!ドレスコードを教えやがれ!」

「ドレスコードは羽と毛皮です」

「そりゃいい!悪くねぇクオリティのフェイクが丁度手に入ったとこだったんだ。妹、お前なら着こなせるだろ。スタイルはいいからな、俺に似て!」

「ありがとうございます」

「ああん?ありがとうございます尊敬するカッコイイお兄様だろ」


ミモザの二番目の兄、グレン・レインディアはバサバサと高級そうな毛皮の入った箱をひっくり返した。


彼は微妙に色や質感の違うそれらを吟味しながら、ミモザの肩に掛けたり首に巻いたりし始める。

それだけでは飽き足らず、頭に乗せたり足に巻いたりもしだした。

こうして衣装デザインのインスピレーションを得ているらしい。

こんな変人で大変失礼な元ヤンではあるが、熱狂的なファンが多いイケてるデザイナーでもあるのだ。




ああでもないこうでもないと真剣な目で毛皮とミモザを暫く見比べていたグレンが、おもむろに顔を上げた。


「おい妹。そういえばこの色男はなんだ」


グレンが親指で指したのは、ミモザの後ろにいたユリウスだった。

この失礼な兄はミモザの友人にようやく気が付いたらしい。


「ユリウスさんです。今度一緒に舞踏会に行くのでユリウスさんの衣装もお願いします。勿論タダで」


ミモザがユリウスを紹介し、ユリウスがお辞儀をして挨拶をしようとしたが、それはグレンの怒声によって遮られた。


「おい、妹!こんなイケメンと仲良く並んでおててつないで舞踏会に行くのかよ!」


ミモザは喧嘩腰のグレンには慣れている。

グレンの仕立て屋で働いている従業員も雷のようなグレンの怒号が飛んでくることに慣れっこで、皆手を止めることもなく自分の仕事を普通に続けている。


だが、ユリウスは。

ミモザは少し心配そうにユリウスを見上げたが、ユリウスはさすがの胆力を見せつけて失礼な元ヤンを前にしても表情一つ変えていなかった。



「やべーな、これで一番目立った服作れなきゃデザイナーの名折れじゃねぇか!てめぇら、おら、服脱げ!採寸だ!」


二人の衣装を作れることに興奮し始めたグレンは、腰の物入から採寸用のメジャーをビーッと取り出した。

ただのメジャーなのに、この物騒なグレンが持つと凶器か何かにかに見えてくるから不思議である。


「こんなところで脱げるわけがないだろう。試着室にでも案内してください」


全く動じていないユリウスはミモザとグレンの間に入り、普通に作業場で服を脱がせようとしてくるグレンをピシャリと押しとどめていた。

学園にいる時は、ユリウスの事はどちらかと言えば変人枠で見ていたが、こうしてグレンと並べて見れば肝が据わっている常識人に見えてきた。

持つべきものは失礼で野蛮な兄ではなく、頼りになる友人だ。



吠えるグレンを宥めて試着室に入り、サイズの測定はミモザからすることになった。

グレンに服を作ってもらったことは山ほどあるので、採寸されるのは慣れている。


「おい妹、お前はこの年でもまだぺたんこなんだな。もうボンキュッボンになるの夢は諦めた方がいいな」

「私、そんな夢ありましたっけ」

「ま、仕方ねぇ。パッド詰めとくか。今回もDくらいに盛っといてやるよ」

「適当にお任せします」

「尻はどうする?嵩増ししとくか?」

「鉄板を入れておいてください。前みたいに誰かに触られたら嫌なので」

「わかった、分厚いやつな。仕込み針も入れといてやろうか。妹に触ったクソ野郎に俺からのプレゼントだ」


試着室の前で待たされているユリウスに、その兄妹の会話は筒抜けだった。


「……」


何となく居づらくなったユリウスはふらりと立ち上がり、呼び出される迄店頭でドレスやアクセサリーをぼんやり見て過ごしたのだった。






嵐のように登場して嵐のように去っていくキャラばっかだな……

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