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おクスリは切れた後が怖い



「ユリウスさん、本当に申し訳ありませんでした!」


一口分しかなかった惚れ薬チョコレートの効果は30分ほどで切れて、正気に戻ったミモザは平謝りをしていた。

事件の現場である教室で、後夜祭の花火を背景にペコペコ謝り倒している。


「謝って済むか」

「本当にごめんなさい!」


惚れ薬チョコレートの効果は切れたが、ミモザの中に記憶はあった。

ユリウスに泣いたり叫んだりしながら、迫り散らかしたことを覚えている。

なんとまあ、凄いことをしたものだ。

だが、ユリウスが自衛してくれたおかげで大事に至らず済んだ。


「……本当はお前の所為だけではないから、もういいんだが」


隣人との友情もこれまでかと覚悟したが、ユリウスは結局許してくれた。


あとはチョコレートをミモザに渡してきたリリーナちゃんを叱るだけだと思っていたのだが、それは今日は叶いそうにない。

長い長い追いかけっこの末アルベルに掴まったリリーナちゃんは、後夜祭が潰れるほどの長い時間をかけて編み込んだ呪詛を解いているとの報告があったのだ。


「お詫びに何か、させてください」

「詫びか」

「はい、何か私でできることはないですか」

「ない」

「そう言わず、何か考えてください。私がすっきりするためにも何かさせてください」


流石のミモザも、あれは思い返すとちょっと恥ずかしい。

更に迷惑をかけた後ろめたさにより、事あるごとに思い出してしまいそうだ。

だから自分自身の為にもユリウスの役に立って、気分的なプラスとマイナスを相殺してゼロにしたい。






「……そういえば、逆十字同盟の舞踏会、が月末にある」


ふと顔を上げたユリウスが呟いた。


逆十字同盟といえば、ユリウスが所属している生徒運営のエリートによるエリートの為だけの伝統ある私設倶楽部だ。

主に人脈を広げる目的で様々な活動をしている。

集会を開いて情報交換したり、インターンや合宿を行ったり、雑用としか思えないような慈善活動もあれば、大きな国の式典に参加したりと幅広い。


そして月末に、この倶楽部の一番の目的である”学生のうちから最上の人脈作り”の為に、舞踏会が開かれるのだという。


「舞踏会……ダンスパーティってやつですね」


「それに同伴者がいるんだ」


「パートナーってやつですね」


「その、同伴者を……探しているんだが」


基本はメンバーのみしか参加できない集いにこだわる排他主義の逆十字同盟だが、舞踏会は例外としてメンバーは一人同伴者を連れて行ける。


いや、連れて行かなければならない、の間違いだ。

こういう舞踏会に単身で行くと相当モテないと思われたり、コミュ障だと思われたり、マナーがなってないダサいやつだと思われる。

誰でもいいから男性はエスコートの為の女性を連れて行かなければならないし、女性はエスコートしてくれる男性を連れて行かなくてはならない。


舞踏会やら懇親会やら派手で煩いパーティは嫌いな筈のユリウスだが、良くしてくれる先輩もいると聞いたことがあるし、今回は断り切れなかったのかもしれない。


「わかりました。ユリウスさんはお友達が少ないですから。私が一肌脱ぎましょう」


「一言余計だが、いいのか」


「はい、勿論です」


ミモザは二つ返事で頷いた。


踊りも上手ではないが壊滅的ではないし、実はそういったパーティに参加した経験も過去にある。

無難にやってのける自信はあるから、任せてほしい。


「ドレスコードはなんですか?」


「羽と毛皮だったな、確か」


「面白そうですね」


「面倒の間違いだろう。支度にかかるものは俺が持つから言えよ」


「それは大丈夫ですよ。言ってませんでしたっけ、私の二番目の兄はデザイナーなんです。兄に言えば衣裳ならタダも同然で用意できます」


そうなのだ。

実はミモザの二番目の兄は中央都市で服飾デザイナーをしている。


ちなみに二番目の兄は今でこそデザイナーとして服作りに没頭しているが、昔は針の攻撃魔法で敵を蹂躙するとんでもないヤンキーだった。

中央の針鼠という、格好いいのか恰好悪いのか良く分からない渾名を付けられて粋がっていたのがミモザの二番目の兄の黒歴史だ。


「いい。家族にいらん迷惑はかけるな」


「大丈夫です。兄は好きなんですよ、服を作るのが。あ、ユリウスさんの衣装も一緒に作るように頼んでみましょうか。きっと喜びます。ユリウスさんは足が長いから」


「そもそも俺は目立つ格好はしたくない」


「でもそういう舞踏会って、目立った者勝ちではありませんか。もしユリウスさんが構わないなら、次の空いている休みの日にでも、一緒に兄の仕立て屋に行きませんか」


「……休みの日」

最初は興味なさそうに首を振っていたくせに、ユリウスは急に顔を上げた。


「休みに、二人でか」


「他に誘う人もいないでしょう」


「お、お前は色々な服を試着したりするか」


「そりゃするでしょうね」


「……。」


「どうしました?」


「ま、まあ、どうしてもと言うなら連れて行け」


何やら難しそうな顔をしたユリウスは、こくりと頷いた。


よし、決まりだ。

ミモザの兄は素行は悪いが、その界隈ではちょっと名の知られたデザイナーだ。

その兄に頼んで衣裳を仕上げてもらってミモザが舞踏会のお供をきっちりとこなせば、逆十字同盟内のユリウスの株も上がって、それでユリウスが満足したなら、ミモザはあの惚れ薬チョコレートの失態を犯した自分を少しは許してあげられる。


創立際のフィナーレを飾る航空魔導学部の花火を見上げながら、ミモザは兄に連絡を執る算段を練っていた。



ミモザが成功させたいと思ったその舞踏会で、魔法使いの血肉を啜るあの化け物に遭遇することになるなんて、この時はこれっぽっちも考えてはいなかった。





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― 新着の感想 ―
[一言] ミモザちゃんが惚れ薬飲んだにも関わらず、ユリウスのこの残念さ!面白すぎです!どうしてこんな捻くれた残念な性格になったかが気になりますね。
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