羽目は若いうちに外せ
「ほら!ユリウスさんは私のことが嫌いなんです!さっきの女の子はちゃんと抱っこしてあげてたのに!ひどい!辛いです!うわああああん!」
なんて酷い。
好きな人に拒絶される世界など地獄である。
こんな世界、無くなって欲しい。
薬をキメて脳みそが侵されているミモザは、声を上げて泣くしかなかった。
「お、お前が突然抱き付いてくるから驚いただけだ!泣くな!」
「でも、触るなって嫌がるから……」
「言ったが……い、嫌なわけじゃない……」
「嫌じゃないのに触るなって言ったのですか!」
「嫌じゃないから、言ったんだろ……」
「意味が分かりません!」
嫌いじゃないと言うのに触ってはいけないなんて、矛盾している!
意味が分からない!
好きなら触る!イチャイチャする!嫌いなら触りたくない!以上!
「っ、意味が分からないのはこちらも同じだ!そもそも薬でおかしくなってるお前相手にどうしろって言うんだ!」
「どうしたらユリウスさんは私のことを好きになってくれるのですか!」
「変な質問するな!」
「答えてくれるまで聞きます!どうしたらユリウスさんは私のことを好きになってくれるのですか!」
「黙れ、そんな心配ならしなくていいっ!」
「質問の答えになってません。どういう意味ですか!」
殆ど喧嘩のような応酬になってきた。
好きな人とする喧嘩程絶望的なものはない。
ここは本当に地獄のようだ。
「もういいです!最終手段です、実力行使です!体に言うことを聞かせてやります!」
仕方ない。
力技で解決だ、とばかりにミモザはユリウスに顔を近づけた。
唇を奪ってしまえば諦めて大人しくなるだろうという思考回路である。
「ま、ま、ま、待て!やめろ!冷静になれ!」
「私はかなり昂っていますけどちょっと冷静です!」
「ほら冷静じゃないだろうが!」
「でもだって、好きな人を前にして冷静ではいられませんもん!だから止められません!」
「ああくそ!」
ミモザがキスをする直前、ユリウスは高速展開した魔法壁の中に籠ってしまった。
突き出したミモザの唇は固いシールドにぶちゅっと触れただけだった。
「うう……」
徹底的な拒絶に、ミモザは肩を震わせた。
こんなに好きなのに、こんなに嫌われるなんて地獄より地獄である。
好きなのに好きなのに好きすぎてどうしようもないのにどうもできないなんて辛すぎる。
「おいおい、何やってんだあ?あれ、魔法壁?この強度、ユリウスのか?」
めそめそしているミモザと圧倒的強度の魔法壁を見て声を上げたのは、教室に入ってきたばかりのライナスだった。
「ほら何めそめそしてんだ。普段のミモザちゃんからは泣き顔なんて想像できないから貴重だなあ」
真っすぐミモザの方に歩いてきて心配をしてくれたライナスは、ぽんぽんとミモザの頭を撫でた。
そして周囲の状況を観察し、齧りかけのチョコレートを発見したライナスは納得したように頷いた。
「ああ、創立祭恒例のチョコレートか。流石のユリウスもこれは使ってみたくなっちゃったか。ミモザちゃんいつも結構塩対応だからな。いいじゃんいいじゃん、学生のうちにちょっとは羽目外しとけってね」
「お、俺が渡したんじゃない!」
魔法壁の中からライナスの声を聞いていたのか、ユリウスが叫んでいた。
「まあまあ。折角なんだしこの積極的なミモザちゃんとも仲良くしたら?」
カラカラと愉快気な笑い声をあげたライナスは教室にあった自分の鞄を掴んで肩に掛けると、片手を上げて早々に去っていった。




