白パンが買える場所
関係ないし、どうでもいい。
そうやって、この天才眼鏡と関わることはないだろう、とそう思っていたが。
蓋を開けてみたら全然そんなことはなかった。
「おい、今日の朝はちゃんと食べたのか」
「えっと、忘れました」
「これをやる」
「おい。その、今日は天気がいいな」
「そうですね」
「明日も天気はいいらしいぞ、知ってたか」
「はあ」
「おい、この魔法陣の問題分かるか」
「分かりません」
「ふん。仕方ないから教えてやろうか」
「別にいいです」
「い、いやでも、人に聞いた方が理屈も良く分かると思わないか」
「理屈を理解する必要はありません。形だけ暗記するので大丈夫です」
ユリウスは事あるごとに話しかけてくるし、また何回か白いパンも貰った。
彼がくれる白パンは絹のようですごく美味しいから貰えれば喜んでしまうのだけど、どうしてこんなにパンをくれるのだろう。
あの時のサンドイッチのお礼としては、もう十分すぎるのではないか。
となるとユリウスは、ミモザの事をひもじい捨て猫か何かだと勘違いしているのだろうか。
ミモザは今日貰った白パンを袋から出して口に入れ、モグモグしてから飲み込んだ。
「貴方がくださるこれ、やっぱり美味しいのですよね。どこのパン屋のものです?今度連れて行ってくれませんか?」
美味しいパンを貰い続けて数週間。
実は何故くれるのかということより、どこで手に入れられるのかの方がずっと気になっていたミモザだった。
この学園は全寮制で、学園の敷地内には食堂や銀行、劇場は勿論、小さな市場のようなものやフードコートのような施設まである。
だがこの白パンの袋に書かれている店名は、学校内にある店のどれでもないようだった。
この前構内案内図と包み紙を見比べて調べたので、ミモザは正しい筈だ。
となると、学校の外に広がるこの中央都市のどこかにあるパン屋のものなのだろう。
男子寮が西側にある事を考えると、このパン屋はおそらく街の西側のどこかにある筈だ。
「つ、連れて?お、お前を俺がか?」
「他に誰がいるのです?」
連れて行けと言ったら、想像以上に驚かれた。
そんなに驚くようなことを言っただろうか。
「い、いつだ」
「お互い予定のない日の放課後はどうです?」
「ほ、放課後に、行くのか?」
「そうですけど。貴方は講義中にでも行く気なのですか?不良ですね」
「ということは、放課後、ふ、二人でか?」
「まあ、3人でも4人でもいいのですけど、とりあえずは2人ですね」
「ふ、二人か」
彼は何故か神妙な様子で繰り返した。
「わ……わかった。お、俺は忙しいし別に行きたくないし別に興味なんてないが、お前がどうしてもと言うのなら……」
「あ、すみません。忙しいですよね。ええと、どうしてもと言う訳ではないので大丈夫です。私、ちょっと興味があるくらいでしたので。貴方の勉強の邪魔はしません。今の話は無かったことにしてください」
「い、いや!俺は忙しいが、お前に邪魔されるくらい何ともない」
「やっぱり邪魔なのではないですか。もう大丈夫ですよ」
「いや……」
ミモザは気にしないでくださいと微笑んだ。
ユリウスを知ってから数週間かそこらしか経っていないが、隣の席だから分かったことがある。
彼は、いつでもどこでも勉強を怠らないような努力型の天才だ。
忙しい彼に、ミモザのような凡人のパン屋巡りに付き合えるような時間は無くて当然だ。
やっぱり、天才は凡人とは違うのだ。