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そして、みんないなくなった



「みんないなくなってしまいましたね」


「……ああ」


ユリウスがソワソワしているのでミモザが横を見れば、目が合った。


「その……し、仕方ない。気は進まないが、一緒に回ってやる。誰もいないからな」


「ユリウスさんは一人で見て回らないのですか?寂しいのですか?」


「は?いや、お、お前が一人だと可哀そうだろう」


「私は一人が気楽で好きですよ」


ローブのポケットにポスッと手を突っ込んだミモザは教室の扉を開けた。


ミモザは一人で行動するのも好きだ。

誰にも気を遣わなくていいし、行きたいところに行きたいときに行ける。


教室を出てすたすたと廊下を歩いていると、ユリウスが追い付いてきた。


「お、おい待て!その……そうだ、欧風カレーの屋台が出ていると聞いた。お前好きだろう。つ、連れて行ってやる」


「それなら私もチェック済みです。一人で行けます」


「そ、そうか……」


「でもまあ、折角ですし二人で食べた方が美味しいかもしれませんね」


ミモザは、それ以上何も言えなくて口籠ってしまったユリウスの方を振り返った。


……一人は気楽だし一人で食べるご飯も悪くはないが、まあ二人で食べるのも悪くない、か。




欧風カレーの屋台で目当てのテイクアウェイカレーボックスを購入したミモザたちは、正面玄関から本校舎に続く遊歩道を歩いている。

所狭しと屋台が出ていて、特設ステージでショーが開催されていたり楽器の生演奏もあったりして、この通りが創立記念祭では一番賑やかな場所だ。


屋台からは元気な客引きの声が聞こえる。

一般の魔法使い達も大勢いて、通りはごった返していた。

そんな中で、ひときわ目立つ大きな屋台と長い列を目にしたミモザはふと足を止めた。


「見てください、惚れ薬チョコらしいですよ」

「らしいな」

「美味しそうですね」

「……美味しそう?」


『惚れさせたい相手にチョコを食べさせて、最初に視界に入るだけでOK!効き目は3時間!レッツエンジョイ惚れチョコレート!BY製薬魔導学部三年次』

ミモザが指さした大きな看板には、そうデカデカと書かれていた。


「製薬魔導学部の創立記念祭伝統の惚れ薬チョコですよー!効き目は製薬魔導学部三年次の名に懸けて保証します!」

「押さないで押さないで!今年は一人二個まで!転売禁止!」

「お会計はこちらでーす。え?プレゼント用の包装?うちではやってないから自分でやって!」


この学園の製薬魔導学部は、毎年コンクールで結果を出している優秀な学部だ。

そんな彼らが、先代から連綿と受け継いだ伝統のレシピを使っているのがこの惚れ薬だ。

勿論、効果効能はお墨付きだ。

そんな訳で毎年大人気の惚れチョコレートは、買い占める魔法使いが続出しているたのだという。


「ユリウスさんは惚れ薬飲んだことあります?」


「無い。が、俺たちは二年次になれば薬物耐性を付ける訓練もあるぞ。そこで飲むことになるだろうな」


「怖いですね」


「お前はケロッとしてそうだが」


「私にあるのは精神系魔術の耐性だけです。薬物耐性はありません」


ミモザは確かに魅了の魔法や幻術に対する耐性があるが、薬物耐性はまた全然違う耐性だ。

ちなみに防衛魔導学部の生徒が薬物耐性を付けるのは、魔法使いを捕食しようとしてくる吸血鬼やマンゴドラが魔術のみならず毒薬も使うことがあるからだ。

敵のすべての攻撃から仲間を守る事を求められる防御魔法使い達は、毒薬に侵されても仲間より先に倒れることは許されないらしい。



「惚れ薬チョコレート、人気なんですね」

ミモザたちは、目をギラギラさせて列に並ぶ魔法使い達を横目に見ながら、大賑わいの屋台の前を通り過ぎた。


「ユリウスさんはこれからしばらくチョコレートに気を付けた方がいいかもですね」

「俺は甘いものは好きじゃないから事故もないだろ」


ユリウスのようなモテる魔法使いが、誰かしらにチョコを盛られるのが毎年の恒例行事だと聞いたことがある。

その惚れ薬チョコの悪戯も含めてこの学園の創立記念祭なんだとか、なんとか。







「あ、あの、ユリウス先輩!」

人込みを出てのんびり歩いていると、後ろから鈴が転がるような可愛らしい声がした。




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