試食係はクビ。新しい就職先は迷子係です
可愛い女の子を伴って登場したので、ニヤニヤ顔のルドルフ君をはじめとした何人かが事情徴収をしようと試みたようだったが、ユリウスはそれを華麗に無視した。
そして何事もなかったような顔をして、ミモザの所にやって来た。
「お前があんなところに俺をおいていくから迷子に絡まれただろうが」
「そうでしたか」
ミモザは最終候補のサンドイッチを学部の皆に試食してもらっていたところだった。
皆の感想をノートにメモするのに忙しいので、適当に相槌を返す。
というか、ユリウスはおいていかれたからと怒っているが、そのおかげで可愛い女の子に話しかけられたのだから感謝はされども文句を言われる筋合いはないのでは。
さっきはなんかちょっと嬉しそうだったし。
「むしろラッキーだったではないですか」
「は?本当に、どうしても迷子になって困ったと泣きつかれて付きまとわれただけだ。迷惑した」
「そうですか?試食係が満足にできないユリウスさんは迷子係の方がむいてると思いますけど」
サンドイッチを試食した学部の皆は、マヨネーズが多すぎるとかトマトがベチャベチャだとか、玉子が半熟で美味いだとか、焦げ目がいいアクセントだとか、為になる感想をたくさんくれた。
普通としか言わない何処かの誰かさんとは大違いな、とても為になる感想だ。
だから何が美味しくて何がまずいかも教えてくれない試食係は迷子係に転職してしまえばいいのだ。
「皆の感想をまとめて、更に改良を加えます。さて、私はこれからまた女子寮の厨房に行きます。行きましょうリリーナさん」
ミモザはたくさん書き込んだノートをパタンと閉じた。
あと一二回レシピの調整をしたら、サンドイッチはお客さんにも出せるクオリティになるだろう。
「どうせまたトマトを切るんだろ。手伝う」
ミモザがリリーナちゃんを伴って教室を横切って廊下に出ると、ユリウスが付いてきた。
「大丈夫です。ユリウスさんが切ったから、トマトがベチャベチャだったんですよ」
本当は切ったトマトの水気を切るのを面倒臭がったミモザが悪いのだが、切り方の問題だったことにしてやった。
「はぁ?」
ユリウスは不満そうな声を上げたが、ミモザはすたこらと扉を開けて出ていった。
その途中、ミモザの腕に引っ付いていたリリーナちゃんがユリウスを振り返って静かに笑った。
「あんたは……大人しく……迷子係やってればいい……うふふふふ」
……
そんなこんなで時間は慌ただしく過ぎ、今日は待ちに待った創立記念祭当日。
バタバタしたけれど、ミモザのサンドイッチのレシピも無事に完成した。
オーソドックスに卵とハムのトーストサンドイッチだ。
こだわりの手作りマヨネーズと、隠し味のケッパーがミソだ。
他の調理担当者は男受けしそうな肉肉しいスープとか、母親直伝のミートパイなんかを用意していた。
どれも学生の祭りの出し物とは思えないような絶品揃いである。
そして装飾班の面々はカフェの装飾を完璧に仕上げてくれ、更には教室に期待よりも立派な調理場を手配してくれた。
ユリウスは装飾班として祭りに参加していて、業者との交渉や雑用で割と走り回っていたらしい。
装飾班のみんなは当日、変装して接客をする流れだったが、ユリウスは全力で女装を拒否していた。
しかし、それならばと目を光らせたアイリーンに取っ捕まって執事服を着せられていた。
女装班の男の子たちは早朝からアイリーンの元に集まり、着替えとメイクにいそしんでいた。
ごつごつした魔法使い達がアイリーンの元に行き、可愛くなって帰ってくる。
洒落たカフェ風に飾り付けられた防衛魔導学部の教室で、背の高い骨太なメイドが何人も爆誕した。
しかしルドルフ君だけは、元々の細さと優男顔が相まってどこからどう見ても女の子だった。
男装班の女の子たちも負けてはいない。
メイクをしてウィッグを被り、タキシードを身に纏って見た目は可愛い男の子だ。
リリーナちゃんは普段のでろでろ髪を一つにまとめ上げ、背は低いが陰のあるイケメン執事になった。
男の子たちにメイクをし終わったアイリーンが執事服に着替えたら、全員準備完了である。
「よしそれじゃ、防衛魔導学部、行くわよ!」
一番の功労者の一人、アイリーンが皆の中心で拳を高々と突き上げる。
「稼いで、打ち上げは三日月ビストロに行くんだから~!!」
「オーーー!!」




