目を離せばすぐに可愛い女子の一本釣り
アイリーンをはじめとした女の子たちは可愛い衣装と使えそうなアクセサリーを探して街に繰り出していったり、装飾班の皆とカフェの内装をどうするか話し合っていた。
そしてミモザとライナス君、他数人で構成された調理班はメニューの試作に明け暮れていた。
残りのその他の魔法使いたちは準備期間にはアイリーンたちの荷物持ちになっていたり、ミモザたち調理班の試作品をひたすら食べ続けるという役目を担っていた。
「どうです、ユリウスさん!美味いですか!」
「別に」
「リリーナさんはどう思いますか!」
「世界で一番……美味しい」
ただ今のミモザは、嫌がるユリウスと喜ぶリリーナちゃんを捕まえて女子寮の厨房を占拠し、絶賛メニューの試作をしているところだった。
ユリウスは何を食べさせても「別に」しか言わないし、リリーナちゃんは「世界で一番美味しい」しか言わない。
人選を間違えたかもしれないが、他にミモザに付き合ってくれるクラスメイトがいなかったので仕方がなかったのだ。
「では、この無添加ハム&フリーレンジ玉子サンドはいかがです!」
サンドイッチしか作れないミモザの担当は、無論サンドイッチである。
先ほどからサンドイッチを作り続け、2人にはもう6、7切れは食べてもらっている。
「感想をお願いします」
「普通だ」
ユリウスはミモザから渡されたサンドイッチをパクパク食べて、指に着いた卵をペロッと小さく舐めていた。
「世界一、美味しいけど……もう、お腹いっぱい……ごめんねミモザちゃん……」
リリーナちゃんはでろりんと机に突っ伏した。
おなかがいっぱいで少し辛そうだ。相当無理して食べてくれたのかもしれない。
「リリーナさん、たくさん食べてくださってありがとうございます。ユリウスさんももう食べられませんよね」
「別に、俺は食べられる」
気を遣ってユリウスの方を見れば、平然とした態度で返された。
今日のお昼もミモザが作ったサンドイッチを食べていたはずだ。
流石に飽き飽きしているのではないか。
「それにずっと前、ユリウスさんは私が作り過ぎるサンドイッチは多すぎるって言ってました」
「多いとは言ったが、食べられないとは言ってないだろ」
じっと視線を送ると、偉そうな目で見返された。
……なんだ。なんでそんなに偉そうなんだ。
美味しいと褒めたことさえない癖に。
美味しいと言ったことないですよねと突っかかると、ユリウスは眉をひそめただけだった。
「美味しくないとは言ってない」
「感想を聞いても、美味しいって言わないってことは美味しくないということです」
「屁理屈をこねるな。美味しくないと言っていないということは、美味しくないということではないだろうが」
「屁理屈をこねているのはそちらですけど」
「最初に屁理屈をこね始めたのはお前だろ」
「コネコネしてるのはユリウスさんじゃないですか」
「コネコネとか言うな」
「じゃあなんて言えばいいんですか。もういいです。リリーナさん、学部の皆さんの所へ行って最終案のサンドイッチを食べてもらいましょう」
……コネコネって言ったっていいではないか!
人の上げ足を取るな。
しかも、だ。
祭り用のサンドイッチだけでなく、昼ごはんのサンドイッチだって惰性で適当に作っていたとはいえ、褒められたことは一度もない。
なんて薄情な魔法使いなのだ。
ミモザはユリウスを女子寮の厨房に置きざりにしてリリーナちゃんと教室に戻ることにした。
あんな強情な魔法使い、男一人で女子寮を出ていく時に白い目で見られればいいのだ。
しかし、一足先に教室に戻ってきたミモザがようやく教室に戻ってきたユリウスを見た時、なんと彼は女の子を連れていた。
ユリウスを女子寮に放置したら、ものの10分程度で女の子を釣り上げてきたのだ。
それをいち早く発見した生徒たちが小さくザワザワする。
女の子が可愛いからか、不愛想なユリウスが女の子を連れているからか。
ユリウスはその女の子を扉付近で待たせ、女装男装カフェのチラシを手渡していた。
愛くるしい顔の女の子は嬉しそうにチラシを受け取って、離れがたそうに二言三言ユリウスに何か話しかけている。
そして最終的に、ぺこりと頭を下げて去っていった。
ユリウスを見上げる笑顔が可愛いかった。
フワフワの綿あめのような魔法使いだった。
しかし制服のローブはまとっていなかったから、外部の者か。
顔も少し幼い感じだったから、来年くらいの入学希望者なのかもしれない。