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怪我人はいたわるべきもの



ばちっ!


ミモザが目を覚ました時、真っ先に目に飛び込んできたのは医務室の真っ白い天井だった。


……そうだ。

ミモザは、勝ち気な顔のポニーテールの魔法使いの手刀を髪に食らって気絶したんだった。

なんて反則級に強い魔法を使うんだ、あの魔法使いは。



少しだけズキズキする首をひねって横を見ると、隣のベッドではアルベルが気絶していた。

医務室内を見渡せば、何人かの強襲魔導の生徒たちがベッドに寝ているようだった。


よいしょと小さく掛け声をかけて、ミモザは上半身を起こした。


どれくらい寝ていたのだろう。

座った姿勢でぼんやり考えていたら、目の前に背の高い影が現れた。


「起きたか」


声を掛けてくれたのはユリウスだった。


「水、飲むか」


「ありがとうございます」


ミモザのベッドの脇に腰かけたユリウスから手渡された冷たい水を飲み、ミモザは一息ついた。

知らないうちにのどがカラカラになっていたらしい。

貰った水が何より美味しく感じた。



「そう言えば私たち……勝ちましたか」


「ああ、勝った」


「これでコルネリア教官の今夜のお酒代が浮いたのですね」


「そうだな」


「流石ですね、ユリウスさん。すごいです」


「こんなの、どうということはないだろ」


強襲魔導学部のエース、アルベルがミモザの隣のベッドで寝ていた。

ということは、ユリウスはアルベルを下したのだ。

他の強襲魔導の生徒もたくさん医務室にいるようだし、宣言通りユリウスが暴れ散らかして強襲魔導学部の面々を全滅させて勝ったのだろう。


実際に強襲魔導の魔法使い達と合同訓練をしてみて分かった。

防御魔法を使いこなすことは難しい。

戦って勝つことは難しい。

やはり天才すごい。


感心してユリウスを眺めていたら、ミモザからは見えにくい側のユリウスの頬にガーゼが張られているのを発見した。


「ユリウスさんそれ、頬を怪我したのですか。大丈夫ですか?」


「これか?大丈夫だ」


「擦り傷ですか」


「火傷だろ。大丈夫だ」


「まあ、大丈夫なら良いのですが。ユリウスさんでも怪我をするのですね」


「こんなもの怪我のうちに入らん」


彼の綺麗な顔に傷が残ったりしないといいが。

いやまあ、医務室の担当医の治癒魔法を受ければ大抵大丈夫か。



「ところで、誰が私をここまで運んでくれたのです?」


適当に思いついた話題だった。

気絶していた間の記憶は全くないので、ただのちょっとした興味で聞いてみた。


「し、知らん」


「もしかしてユリウスさんですか?」


「そ、そんなことはどうでもいいだろ」


「まあ、どうでもいいですけど」


「……。

もういい、怪我人はまだ寝てろ」


ぼそっと言い捨てて、ユリウスは折角座ったのに椅子から立ち上がってしまった。

そして、何を思ったのかいきなり背を向けて去ろうとする。


「あ、待ってください」


引き留めないとユリウスはもう戻ってこないと思ったので、ミモザは彼の翻ったローブの裾を咄嗟に掴んでいた。

ぎゅう、っと。


「お、おい。なんだ」


引き留められて前に進めなくなったユリウスは振り向いた。

自らのローブの裾をぎゅっと掴むミモザを見て、彼は大いに焦っているようだった。


「は、放せ」


「ユリウスさん……待ってください」


「な、なんだ」


「行かないでください……」


「……っ。なんだいきなり……」


警戒しているような、だが少し何かを期待しているような上擦ったユリウスの声がする。

藍色の髪の隙間に見え隠れする耳が少しだけ赤い。


「まだここにいて……」


「変なやつだな……俺がこ、ここに、いればいいのか……?」


少しだけ眉が下がり、ユリウスの不愛想な顔が少しだけ素直そうな顔になった。

おずおずと椅子を引いてミモザのベッド脇に戻ってきた。






「それで、お水もう一杯汲んできてください……」


「…………水?」


「はい、喉が渇いているのです。お水汲んで来てくださったら、もう行ってもいいですから……」


水だけ欲しいとミモザがお願いすると、ユリウスの優しげだった顔がキッと変化した。


「くそ、雑用させたかっただけか!水なんか知らん。そんなに欲しいなら自分で汲んで来い!」


赤くなりながらプンスカ怒り始めた。

怪我人だからちょっとお願いをしても大丈夫かなと甘えてみたミモザだったが、眉を吊り上げた彼は容赦なしだった。

怪我人相手に怖い顔をして、問答無用で去って行ってしまった。


……頑張ったのだから、もう一杯くらい汲んで来てくれてもいいのに。





「……」

そしてユリウスは医務室の扉をバタンと閉めて廊下に出た後、誰にも聞こえないような小さな溜息を洩らしていた。

それは自分に呆れた溜息のようでもあり、少しだけ残念そうな溜息でもあった。




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