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呪いも魔法も一日にしてならず




「あれは……アイリーンさんの知り合いの方で、前に一度だけ呼び止められたことがあります」


「そっか……気を付けて……近づいたら亀甲縛りにされちゃうよ……」


「……」


「そうだ……あいつがミモザちゃんに触れる前に呪っておこう……」


亀甲縛りなんて器用なことがなど出来そうにない顔をしているゴリラ男なマーカス君なのだが、こちらをチラチラ見ていたばっかりに、リリーナちゃんにあらぬ疑いをかけられていた。


そしてあらぬ疑いだけでなく、呪いまでかけられていた。


「リリーナさんは、呪いも得意なのですか?」


「うん……でも、私が一番得意なのは……呪詛返し……」


「そうだったのですね。それは凄い」


「呪術なら大抵の奴には……負けない」


「そうだ、リリーナさん。対呪術防御魔法だけで良いので宿題を教えてもらえませんか?」


大乱闘のさなかだが、相手側から戦力外と認識されているミモザとリリーナちゃんには少しばかり雑談する余裕があった。


「宿題……ミモザちゃんは、私に教えて欲しいの……?」

「はい」


呪詛返しは、防御魔法の中でも特に難しい。

今のミモザは分からないところがあれば全てユリウスに頼っている状態なのだが、対呪術防御だけでもリリーナちゃんに教えてもらえれば、彼に頼る頻度を少し減らせそうだ。


「いいよ……」


「ありがとうございます!」


「じゃあ、宿題が終わったら私の部屋で……あんなこととかしようね……」


ちなみに、対呪術防御魔法も難しいが、呪詛魔法も難しい。

呪術とは、基本的に相手にトリガーを引かせて発動させる。

そしてそのトリガーとなるものが複雑で制約が厳しい程、呪いの力が強くなる。

それ故、用意周到な魔法使いか、心理戦や分析能力に優れた魔法使いに向いた魔法だと言われている。戦闘向きではない、暗殺向きの魔法だ。

その上、魔法の編み方が他と比べて数段複雑で難しい。


しかしリリーナちゃんは呪詛魔導学部でもないのに、呪詛魔法が使えるらしい。

興味があって独学で勉強してみたりしたのかもしれない。



「それでね……今、あのゴリラが……ミモザちゃんに寄ってきて……ミモザちゃんって口走った瞬間……鼻血出して倒れる呪い……かけたから」


「単語縛りまでしたのですか。本当にマーカスさんが私の名前を呼べば、一日は鼻血で苦しみそうな拘束力がありますね」


細かい縛りを設けることで呪いの精度を上げるのは前述したとおりだ。

マーカス君が何も言わずただミモザたちに襲い掛かってくるのであれば、呪いは発動しない。


しかしリリーナちゃんはマーカス君とは初対面だったにもかかわらず、マーカス君の言動を見切っていた。

マーカス君がミモザに近づいてきたのだ。

困ったような顔をしながら向かってくるマーカス君と目が合う。


「ミモザちゃん、この前は……」


マーカス君は訓練中で敵同士にも拘らず、とミモザに話しかけたのだ。

この訓練を、ミモザと話す機会だと思ってしまったのが彼の運の尽きだ。


「へぶっ!!」


あっさりとリリーナちゃんの呪いにかかり、マーカス君は間髪入れずに鼻血を吹いて倒れた。

そしてミモザは超至近距離で飛んできた鼻血を、防御魔法を使って何とか回避した。


……よし。この反射速度、訓練の成果が出てきているらしい。


鼻血を吹いて倒れたマーカス君の心配は二の次で、ミモザは自身の成長を喜んだ。

以前のミモザだったら、到底反応できず頭からマーカス君の鼻血を被っていたことだろう。

日頃血反吐を吐きながら教官たちの無理難題をこなしている成果が出て来たのだ。




だが、喜べたのも束の間。


そうも言ってられない事態になってきた。

これを皮切りに、2人は士気の高い強襲魔導学部の生徒たちにマークされ始めることとなったのだ。


人畜無害そうな雰囲気を出していたミモザとリリーナちゃんは先ほどまで後回しにしてもいい雑魚として認識されていたのだが、あの二人結構やるらしい認定を受けてしまったようだった。

曲がりなりにも強襲魔導学部に入学できる実力を持ったマーカス君を、鼻血まみれの一発K.Oしたことが原因である。


「あそこにいるミルクティーみたいな髪色の魔法使いと、わかめみたいな髪の魔法使いだ!潰せ!」

「脅威から潰す!先手必勝、怯むな!」

「敵の主戦力を真っ先に削ぐ!制圧の基本だ!」


ウオオオオオ!

強襲魔導学部の生徒たちの怒声が聞こえる。


……何だ彼らのあの異常な覇気は。


ミモザはクラクラしてきた。

知らない間に本物の戦場に投入されたのではないかと心配になったほどだ。





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