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ゴリラ男がこちらを見ている




「ミモザちゃん!」


アルベルはユリウスに向かって駆けてきたと見せかけて、その隣にいたミモザに向かって走って来ていた。

目の前で止まったアルベルに、がしっと両手を握られた。


「な、なんです?!」


「俺さ、よく考えたらツンデレの子って攻略したことなかったんだよね。今までチヤホヤされるばっかりだったから。だから俺が防衛魔導を全員叩き潰したら、また一緒にお昼ご飯食べるとかご褒美頂戴」


「怖いことを言いますね」


まくし立ててくるアルベルは良い笑顔だが、『防衛魔導を全員叩き潰したら』なんてあっけからんと言われたミモザは苦笑いになるしかない。

防衛魔導学部にはミモザも含まれるから、その宣言通りならアルベルはミモザも叩き潰すということだ。


「前に貰ったミモザちゃんのサンドイッチ美味しかったから、それがご褒美でもいいな。アーンしてよ」


「い、嫌ですよ」


「照れてるね。じゃあ、食べさせて?」


「……言い方換えただけですよね」


「じゃあ仕方ないから膝枕でもいいよ」


「もっと嫌ですけど」


「じゃあ、デートリベンジさせ……………………

うぐ!!!!」


ミモザの頬に手を伸ばしたアルベルは、城塞のような魔法壁によってミモザの目の前ではね飛ばされた。

彼は、まるで音速の天馬馬車に轢かれたかの如く吹き飛んでいった。



「お前の相手は俺がする」


歩いてきたのはユリウスだった。


アルベルが吹き飛ばされた魔法を見た瞬間から察していた。

攻撃魔法かと見まごう程の、こんな凶悪な防御魔法が使えるのは彼だけだ。


「く……ユリウス……折角ミモザちゃんと話してたんだから邪魔しないでよね……」


訓練場の土の上に放り出されたアルベルは、腕で支えて上半身をむくりと起こした。

そして唇の端を吊り上げて、不機嫌そうな顔のユリウスを仰ぎ見る。


「別に邪魔をしたつもりはない」


「絶対邪魔したよね」


「絶対邪魔してない」


「邪魔したじゃん。俺、無駄にはね飛ばされたんだけど、これ私怨だよね?」


「何を言っている」


「楽しそうに喋ってた俺に妬いたよね?」


「そんな訳ないだろう、馬鹿か」


「妬いたよね?」


「……妬いてない絶対妬いてない。早く立て。次は手加減しない」


頑なに首を振り続けたユリウスは、自分の防御魔法を手足の様に操っていた。

全てを拒絶する鉄壁の守りは、使い方次第で相手を蹂躙する武器と化す。


なるほど、これが攻撃は最大の防御。

否、防御は最大の攻撃。



早く立て、とは言ったもののアルベルが立ち上がり切る前に、ユリウスの圧力が訓練場の中心で爆発するように爆ぜ散った。

バチバチバチと爆音を響かせ、砂が舞う。空気がものすごい勢いで押し出される。


「ぐは!」

目に見えない程早く展開された防御魔法に弾かれて再び宙を舞い、訓練場を転がったアルベルは呻いた。


しかし呻いたまま転がってばかりいるアルベルではなかった。

切れた唇をグイッと拭ったアルベルは、素早く立ち上がった。


「やっば……」


既にローブはボロボロで顔についた血が痛々しいが、その目にはようやく闘志が宿ったようだ。

口元も少しだけ笑っている。

彼はモテ自慢でユリウスに挑むのではなくて、最初からこうして真っ向からライバルに向かっていればよかったのだ。


「もう隙は見せてあげない」


「それはいい」


「行くよ、ユリウス」


ユリウスの強襲によって無様に転がってしまったアルベルだったが、それでも彼はアルベル・セントウォーカーだ。

ユリウス・グレイシャーが防衛魔導の申し子と呼ばれているように、彼は強襲魔導の寵児と呼ばれている。


魔法で勝負することを選べば、彼はユリウスと同じ天才なのだ。

それは、溢れ出る彼の魔力が物語っていた。


ユリウスの冷たい圧力と対になるような熱い圧力。


アルベルの両手両足が燃え上がる。

アルベルは攻撃魔法が得意だが、中でも接近戦、肉弾戦が得意なのだとアイリーンが言っていたことを思い出す。


先ほどとは比べ物いならない速さでユリウスに突っ込んでいったアルベルは、燃える拳でユリウスの盾に重い一撃を叩きこんだ。


ユリウスの盾が沈む。


次の一撃も次の一撃も。繰り出されるアルベルの攻撃は早くて重い。

しかしそれを防ぐユリウスの表情はまだ余裕だった。


空気が蒸発してしまうのではないかと心配になる程の攻防が、訓練場の中心で繰り広げられている。

殆どの生徒がぽかんと口を開けて、その踊る火花のような攻撃と、静かな氷山のような防御が入り乱れる光景に見入っていた。


これまでのアルベルの行動はミモザにとって不審者そのものだったが、こうして戦っているところを見ると天才はやはり凄い。

凄い。








「ミモザちゃん、ミモザちゃん……あのゴリラ男、ミモザちゃんの方見てるけど……誰?」


……はっ!


ミモザは他の生徒と同じようにユリウス対アルベル戦に見入っていたが、袖をクイクイと引っ張られて我に返った。


見れば、隣にリリーナちゃんがいた。

そのリリーナちゃんが指さしていた先にいるのは件の酔っ払いゴリラ、マーカス君だった。

そういえば彼も強襲魔導学部の生徒だった。




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