反省しているなら誠意を見せろ
「ミモザちゃん、お昼に昨日の所で待ってるって言ったよね?なんで来てくれなかったの?」
授業が終わり、生徒たちが思い思いに帰り支度を始めていた時。
我が物顔で防衛魔導学部の教室に入ってきたアルベルはミモザの前までやってきて、爽やかな顔で頬を膨らませていた。
「それは昨日の夜に徹夜をしていて、お昼休みにはすっかり寝てしまっていたので……」
そういえば、昨晩アルベル様から手紙が送りつけられてきていた。
断りの返事は宿題が終わってからと考えてはいたものの、やはり尋常でない宿題の量に圧倒されてすっかり忘れてしまっていた。
後回しにせずに、すぐに断りをいれておくべきだったとミモザは少し後悔した。
「ひとこと言ってくれればよかったのに。俺、ずっと待ちぼうけしてたんだから」
「えっと、ごめんなさい」
「ほんとに反省してる?」
「はい、してます」
腕を組んでいるアルベルは本気で怒っている訳ではなさそうだ。
その証拠に、ミモザが反省の色を見せた時、彼は小さく笑った。
「じゃあ、デートしてくれたら許してあげる」
「はい?」
「ミモザちゃんだって、今度デートしよって言ってくれたじゃん。今日行こ」
ぎゅっ、とアルベルの手がミモザの手を掴んて引っ張った。
ガタンガタンガタン!
慌てて立ち上がったせいで椅子が転がる音が、教室のそこらじゅうで響く。
音がした方を見れば、ルドルフ君は野次馬根性丸出しでニヤニヤしているし、アイリーンは「なんだかんだ言いながら、ミモザちゃんはアルベル様みたいなのが好みだったんだ~」と冷やかしてくる。そしてリリーナちゃんは青ざめていて、ユリウスは驚いていた。
「ミモザちゃん、すぐに俺に夢中にさせてあげるからね」
「ええと」
アルベル様は口では優しく微笑んだが、目が笑ってない。
獲物を狙う鷹のような目をしている。
狙った女の子を一人残らず落としてきたハンター・アルベルは、自分がどれだけモテるか常に新しい相手で試していたいのだろう。
成功するエリートは色々なところで精力的だというし、こうして何事にも挑戦し続けるのが彼のスタンスなのかもしれない。
ミモザに関係のないところでやってくれるならどうでもいいが、寄ってこられるとやっぱり苦手なタイプだ。
「いこ?」
「いえ、ちょっと……」
「でもこの前また今度デートしよって言ってくれたよね?」
「ちょっと語弊があるというか、あの時の今度とは永遠に来ない今度というか、あれは社交辞令だったというか」
爽やかな顔のアルベル様は手を繋いでいない方の手で、ミモザの顔の横に垂れた髪をいじろうと手を伸ばしてくる。
こいつ、ミモザの言ったことなど一言も聞いていない。
うん。
やっぱりこの魔法使い、ミモザの苦手な唯我独尊チャラ男だ。
「ミモザちゃん、駄目……!!」
伸びてきたアルベルの手を辛うじて避けたミモザの背中に、そう言ってヒシッとしがみついてきたものがあった。
「ミモザちゃん……駄目……!!鼻が高い男と出掛けるなんて……絶対凌辱されちゃうよ……」
ミモザが首を回して背中に引っ付いているものを確認すると、それはリリーナちゃんであった。
「ええと、そんなことをされるなんて、鼻が高い男性は怖いですね……?」
「うん、駄目……鼻が高いだけじゃなくて目も青い男は視界に入れただけで孕まされるよ……」
「……なんですかそれ妖怪ですか?」
「あのね……男に気を許しちゃ駄目だよ、ミモザちゃん……色々開発されたくないでしょ……?」
「……」
相変わらずリリーナちゃんの男性、特にイケメンに対する偏見が凄い。
敵意剥き出しのリリーナちゃんの小声が聞こえたのか、ミモザの前にいるアルベルの顔が一瞬ヒヤリと鬼のようになった。
「友達と仲がいいのもいいけど、ひそひそ話してイチャイチャしてる所見せられたらちょっと妬いちゃうな。だから、次は俺とイチャイチャして、ミモザちゃん」
ぐい、っと。
リリーナちゃんを睨みながらミモザに笑顔を向けた、器用なアルベルに強引に手を引かれた。
「まっ……!」
待った待った。これはいけない。
このままではアルベルの強い力に成すすべなく引きずられていく。
物凄い握力で、手が振りほどけない。
流石ゴリゴリの火力集団、強襲魔導学部のエース。
魔法の才能も凄ければフィジカルも凄い。
こうなったら、アルベルは強いから効くか分からないが、防御魔法でも展開してやるか。
ミモザが本腰を入れて抵抗しようとした矢先、
がっ!
っとミモザの反対側の腕を握ったものがあった。
「!」
その大きな手は、ユリウスの手だった。




