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片思いならライバルとは言わない



流石の流石についてくるにしても教室までだろうと思ったが、まさかのご丁寧に、ミモザは自らの席まで送り届けられた。

そしてようやく去ってくれるかな、と期待を込めて見つめれば、アルベルはニコッと笑った。


「ミモザちゃん、明日のお昼も一緒に食べない?」


アルベルの爽やかな声に、ミモザより早く周りが反応した。ガタンガタン!と。


まず、ルドルフ君が「おお~」と言わんばかりに後ろの方でぴょこぴょこしている。

リリーナちゃんはわかめのような黒髪をぶんっと振って、驚いたように振り返った。

参考書を読んでいたユリウスはガバッと顔を起こし、アイリーンが「まじ?え?まじ?」と言いながら物凄い勢いで駆けてきた。



「ちょ、これアルベル様じゃん!ミモザちゃん、いつ仲良くなったの?アルベル様は女好きでチャラいから私好みじゃないけど、将来有望でイケメンだからマークしてたのに!ミモザちゃんさ、アルベル様と言いユリウスといい、将来有望なイケメンとばっかり仲良くなるよね。ずるくない?」


男好きでチャラいアイリーンに、『女好きでチャラいから私好みじゃない』とあっさり言われたアルベルはどれほど女好きでチャラいのだろうか。


「仲良くないですよ。今日初めて会いしました。名前も今日初めて知ったほど徹底的に初対面です」


「何言ってんの、ミモザちゃん!アルベル・セントウォーカーはね、目を付けた女の子が全員自分のこと好きにならないと許せないナルシスト野郎で有名じゃない!それからね、強襲魔導の寵児なの!高等強襲魔導王国大会で二連覇したくらいの実力もあるイケメンナルシストなのよ!」


「へえ、凄いのですね」


なるほど。

顔も良くて花形中の花形である強襲魔導の実力者なら、女の子にモテてナルシストになってしまっても仕方がないだろう。

だって強襲魔法の使い手といったら、国防本部の要ともいえる魔法使い達だ。

強襲魔導学部とは、圧倒的な火力で敵を殲滅する英雄が生まれる超エリート学部だ。



「ミモザちゃん……ミモザちゃん」

まくし立ててくるアイリーンをぎゅっぎゅと押しのけて、ミモザの腕にくっついてきたのはリリーナちゃんだった。


「ミモザちゃん……大丈夫?あの髪が金色に光ってる男に、乱暴とか強姦とかされなかった……?」


「え?そんなに酷いことは流石にされていないと思うのですが……」


「駄目だよ……男は、特に肌が綺麗な男とは……喋るだけで妊娠させられちゃうから……」


「そんな魔法使いがいたら、もう怖くて外で歩けないのですが……」


ぎゅっとくっついてくる様子は子猫のようで可愛らしいが、リリーナちゃんはとても心配性なようだった。

そしてイケメンに対する偏見が酷いを通り越して怖いのだが、過去に何かあったのだろうか。


……まあ怖いから聞かないけど。




「というか今君、ユリウスって言った?それってユリウス・グレイシャー?」

「言ったよ。ユリウスはミモザちゃんの隣の席」


アルベル様の問いかけに対して微笑んだアイリーンは座っているユリウスを示した。



「ユリウス!」


一目見て顔を輝かせたアルベルは声を上げた。

今日一番の笑顔だった。

しかし喜び過ぎて威厳が無くなるといけないと思ったのか、コホンと咳払いをして誤魔化す。


ユリウスの表情あからさまになんだこいつと怪訝そうだった。


「ユリウス……あれは大歓声が聞こえるいい日だったね」


気を取り直したアルベルは宿命のライバルのような因縁がありそうな、芝居がかった話し方をし始めた。


「あの時から、俺は君と直に戦り合ってみたいと思っていたんだ。君が相手なら俺は全力が出せる。君だって俺を見てそう感じたんじゃない?」


「は?」


「ほら、俺が2連覇した高等強襲魔導王国大会の横で、君は高等防衛魔導王国大会で2連覇してたよね。同世代では、君は俺の相手足りうる唯一の魔法使いだ」


「誰だお前は」


ちなみに不機嫌さを隠せていないこのユリウスは、高等防衛魔導王国大会2連覇ではなく、3連覇している。


「忘れたの?俺だよ、俺」


「詐欺か?」


「違うよ!ほんとに忘れたの?」


「忘れたというか、お前の事など知らない」


「な?!!い、今なんて?」


「お前のことは初めて見た」


可哀そうに。

大体の人の名前を憶えていないユリウスだが、存在を憶えていない人もいるようだ。

運命の好敵手だと思っていたらしいユリウスに忘れられていたアルベルは、笑顔を引きつらせて固まった。


「いやいやいや……」

アルベルはブンブンと頭を振っている。

チヤホヤされてきたようなナルシスト魔法使いだから、プライドが傷ついたりしたのだろう。




「あの、アルベルさん、大丈夫ですか?」


「あ、ああ。……ミモザちゃんか……」


「もうすぐ予鈴鳴りますから、帰った方がいいですよ」


「ああ……ミモザちゃんは明日の昼、今日と同じ場所で待ち合わせでいいかな……」


ユリウスから受けたダメージが尾を引いているアルベルは、放心状態で再び約束を取り付けてきた。

しかしそのボンヤリとした表情から、実際は何も考えていないことが読み取れる。


その横で、恋愛単細胞のアイリーンは考えなしに「アルベル様の次の獲物はミモザちゃんか~!やるう」と囃し立てていた。ミモザにくっついているリリーナちゃんは「呪う……今夜この男呪う……鼻の穴繋げてやる……」と何かブツブツ呟いている。そしてルドルフ君は遠くからニヤニヤしながら、ミモザの顔とアルベルの顔を眺めている。

はあ。何でもかんでも恋愛に結び付けたがるなんて、皆なんて安直なんだ。



「じゃあね、ミモザちゃん……」


「すみません、明日の昼はちょっと」

と言いかけたが、ミモザは口を噤んだ。


フラフラと出口に向かって歩いていくアルベルの背中が何とも悲しげだったからだ。

ユリウスの記憶力に大ダメージを受けたアルベルに追い打ちをかけるのはよそう。


それにアルベルは本気でミモザと昼食を摂りたい訳でもなさそうだから、明日になったら約束したことも忘れているかもしれない。

ならば今、彼を更に惨めにさせるような発言は控えよう。



それよりもっと重要な問題は、次のクレー教官の対術防衛魔法の講義だ。

教官は優しい顔をしたお爺さん教官だが、ヘマをすると集中的なスパルタ攻撃を受けるので気が抜けない。


「ユリウスさん、次の予習はしました?」


「あの男は……いいのか」


「いいも何も、知らない人です。それより予習です。ちょっとだけカンニングさせてください」


「……お前のちょっとは全部だろうが」


「同じようなものです」


「全然違うだろうが」


「ユリウスさんは細かいですね」


「お前が大雑把なんだ」





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