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木の葉もしたたるいい男




防衛魔導学部のある校舎から一番近い第二庭園。

この庭園の隅っこにある目立たないベンチに座ったミモザは、一人でお昼のサンドイッチを食べていた。


もぐもぐもぐ。


今日は、ハム玉子サンドだ。

ユリウスにも同じものを渡してきた。

彼はいつも教室で勉強をしながらサンドイッチを食べる。

だから今頃、分厚い参考書を読みながらミモザと同じサンドイッチを食べていることだろう。



がさがさがさ!!


「!」


唐突に、背後で植物が勢い良く揺れる音がした。

なんだろう。黒猫だろうか、カラスだろうか、蛙だろうか。


「ごめん、ここには誰も来てないって言って」


背後の茂みから、声がした。

ガサガサの正体は、黒猫でもなくカラスでもなく蛙でもなかった。

魔法使いらしかった。


「まあ、わかりました」


誰かは分からないが、その声が切羽詰まっていたので承諾してやることにした。


ミモザがこくりと頷いた時、ドタドタドタと忙しない音を立てて数人の女の子たちが姿を現した。

フワフワしたピンクの髪の女の子を筆頭に、キョロキョロ辺りを見回している。


ピアスをチャラチャラつけていたり派手なネイルアートを施していたり、ローブの裾を切って短くしていたり、アイリーン並みに派手な女の子達だった。

「こっちの方に来たはずよね」なんて言いながら、誰かを探しているようだった。


「あっ、そこの貴方、アルベル様を見なかった?」


ピンク髪の女の子がサンドイッチを食べているミモザに気が付いて足早に近づいてきた。


「アルベル様とは?」


「ええ?!金髪碧眼、強襲魔導学部一年次主席のアルベル様を知らないの?」


「私、防衛魔導学部ですので」


「防衛魔導だろうとみんな知ってるはずだわ。強襲魔導は花形中の花形でしょ。そこのエースならみんな知ってるはずよ!」


「強襲魔導学部は、マークスさんという方の事しか知りません」


強襲魔導学部といえば、件の酔っ払いクズゴリラ、マークス君のことしか知らない。

まあ、マークス君のことも名前くらいしか知らないのだけど。


「はい?逆に誰よ、マークスって!もういいわ。この子がアルベル様を見て無いことだけは分かったわ」


「行きましょ、多分こっちじゃなかったのよ」と彼女たちは去っていった。


ふう、慌ただしかった。

嵐が去ったとはこういうことを言うのだろうか。

彼女たちがいなくなった後の静寂は、静寂よりもっと静かに感じた。



「助かったよ……」


その一言で、ひと時の静寂は破られた。


ガサガサとミモザの背後から出て来たのは、金髪碧眼の男だった。

沢山の葉っぱを服や頭に付けている。

なるほど、この魔法使いがアルベル様とやらか。


「ありがとね」

その綺麗で女受けしそうな横顔から察するに、痴情のもつれか何かで先ほどの女の子達から逃げていたのかもしれない。

まあ、どうでもいいけど。


「よかったです」


ミモザはこれでお役目御免とばかりに、残りのサンドイッチに噛み付いた。

しかし、金髪碧眼のアルベルは座っているミモザを見つめたまま動こうとしない。


「……あのさ、君、名前なんて言うの?」


「名前ですか?ミモザ・レインディアと言います」


「防衛魔導学部って言ってたよね。君も一年次?」


「はい、そうです」


もぐもぐもぐ。

ミモザはサンドイッチを食べているのだが、アルベル様らしき金髪碧眼男は容赦なく質問を重ねてくる。


「サンドイッチ、好きなの?」


「そうですね、嫌いではないです」


「俺もサンドイッチは好き。ミモザちゃんのサンドイッチ、美味しそうだね」


「卵とハムは美味しいですよね」


「一口、貰っちゃ駄目?」


金髪碧眼アルベル様は、あろうことかミモザの隣に腰を下ろしてきた。

初対面なのに馴れ馴れしい。


それになにより、欲しい頂戴というやつにはあげたくなくなるというのが魔法使いの心理だ。


「積極的に知らない人から食べ物貰ったりしない方がいいと思うのですけど。……毒でも入っているかもしれませんよ」


「そのサンドイッチはミモザちゃんが齧ってるでしょ。なら大丈夫」


そしてあろうことかアルベルは、ミモザが食べているサンドイッチを横取りしようと画策してきた。

アルベルはきっと、物心ついたころからモテモテで色々な物を簡単に貢がれてきたのだろう。


自信満々な顔で笑うアルベルに食べかけを奪われるのは何となく嫌だったので、新しいサンドイッチを渡すことにした。


「……毒は入れていないので、新しいものをどうぞ」


「ん。ありがと」


ミモザからサンドイッチを受け取り、綺麗な顔で微笑んだ彼は一口それを食べてまた更に笑顔になった。


「おいしいね。料理得意なの?」


「料理は得意ではありません。でもサンドイッチなら美味しく作れます」


「そっか。なんかいいね」


「そうですか?」


「うん。サンドイッチおいし」


「ありがとうございます」


「いいね。ミモザちゃんといるとのんびりできてなんか落ち着くなあ」


「よかったです」




サクッと食べ終わったミモザが教室まで帰ると立ち上がれば、その金髪碧眼男、アルベルは何故か送るよと言い出して、ミモザの教室まで付いてきた。

流石に教室に帰るだけで迷子にはならないから、付いてきてもらわなくてもいいのだけど。






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― 新着の感想 ―
[良い点] こんにちは、サンドイッチが、たべたくなりました。 ホットサンドメーカーを買ったので、サンドイッチも良く作ります
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