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ヒーローとヒロインと、ゆかいな仲間たち




それからのユリウスとミモザは度々図書館の片隅に陣取り、放課後の時間をめいいっぱい使って勉強に励んだのである。


適当に平均点を取り適当に真面目に授業を受けていたミモザは最初、たまたま耐性があっただけで何故こんなに厳しくされるのかと泣きたい気分だった。


分不相応だ。

今まで身の丈に合う頑張りしかしてこなかったのに、突然発見された身に余る才能と、その為に要求される恐ろしい程大量の努力量はなんだ。

天才と呼ばれていたユリウスのような魔法使いは、小さい頃からその才能に見合う努力をしてきたのだろうけど、今更ミモザが頑張ったところでどうなるのだろう。

そもそも、本当にミモザにやり切る事ができるのか。


しかし、無理やりにでも知識を詰め込んでいくと、分からなかったことが分かるようになった瞬間が幾つもあった。

才能あるユリウスが隣で勉強をしている姿も、一緒に勉強する相手になってくれていることも、少なからずミモザの励みになった。


その小さな経験を積み重ねて、ミモザは少しづつだがきちんと頑張れているような気がした。





そうやって勉強をして過ごしながら、ミモザはユリウスの逆十字同盟の雑用も手伝った。

書庫整理もしたし、魔道具磨きもした。

もちろん、以前約束していた梟小屋の掃除も。



「それではこれから梟小屋の掃除といきましょう、ユリウスさん」


「いや待て、後ろの二人は何だ」


蔦が絡まったような不思議な檻はこの学校の梟たちの住処だ。


その梟小屋の前には、4人の魔法使い。

汚れてもいいお古のローブ、そして頭を守るためにお古の三角帽をかぶったミモザの後ろに、同じような恰好をした魔法使いが二人。それからその3人と対峙するユリウスだ。


「忘れたのですか?同じ学部のリリーナさんとルドルフさんではないですか。たまたま彼らに掃除のことを話したところ、手伝ってくれると申し出てくださったので」


「水臭いな、ユリウス。みんなでやれば掃除も早く終わるだろ?」

「黙れ。お前は帰れ」


ユリウスはルドルフ君の親切を猛然と拒否した。

どうしたんだ。ユリウスはルドルフ君に何か恨みでもあるのだろうか。


一方のルドルフ君は先ほど、鼻の頭をこすりながら「対魅了魔術の訓練の時、あいつ僕とやりたがってただろ?僕はあいつの想いには答えてやれないけどさ、友達くらいにならなってやりたいからさ」とミモザに話してくれたのに。



「どうしよう、ミモザちゃん。僕、ユリウスになにか怒らせるようなことしたかな。やっぱり一回拒否しちゃったから根に持ってるのかな」


ルドルフ君がミモザの耳元に顔を寄せ、ひそひそ話をする。

彼は本気で心配そうに眉をハの字にしていた。


「大丈夫ですよ。ユリウスさんは誰に対しても最初はあんな感じで……」


「あっ」

ミモザが言い終わらないうちに、ユリウスが強引にルドルフ君を引っ張った。

ミモザの頬の近くにあったルドルフ君の顔はあっという間に引き剥がされていく。


「……お前は俺がやる」


……殺る、って?何となく不穏な発音だったが、まあいいか。




「だから、友達にならなってやれるけど、そういう関係になるなら僕はミモザちゃんみたいな女の子がいいんだってば~……」


ユリウスに引き摺られているルドルフ君は、のんびりと肩をすくめた。

訓練の時はユリウスの眼光の鋭さに身を縮めてばかりのルドルフ君だったが、もしかしたらユリウスに想いを寄せられているのではと気が付いた彼は、もうユリウスを怖がるのは止めたらしい。




「で、お前は何故ここにいる」


ルドルフ君を梟小屋にモップと共にぶち込んで、ユリウスが振り返った。

その目はミモザの後ろに隠れるようにしているリリーナちゃんを見ている。


ちなみに、梟小屋にぶち込まれたルドルフ君は鳥葬を受けた死体のように、梟に群がられて悲鳴を上げていた。



「私は……ミモザちゃんがするならお手伝いしようと……」

「……」

眼光は鋭かったが、流石のユリウスも相手が女の子のリリーナちゃんであれば、冷たく帰れとは言わないようだった。



「では私たちは向こうの梟小屋を掃除しましょうか」


ミモザの提案に、絡みつくようにミモザにしがみ付くリリーナちゃんは頷いた。


「そうだ……ミモザちゃん、これが終わったら……私と、付き合って……?」

「え?いいですよ。どこに行きたいのです?」

「嬉しい……じゃあ……おつきあいの記念に……私のお部屋で……あんなこととかこんなことがしたいな……うふふ」


「お前も帰れ」


長くウェーブかかった黒髪の間から覗く、リリーナちゃんの潤んだ瞳と甘えた声を聞いて何かを思ったのか、やっぱりユリウスはリリーナちゃんにも冷たく帰宅要請を出した。


しかし、今度のリリーナちゃんは負けてはいなかった。

するりとミモザの腕から離れて、ユリウスの方に移動していく。影みたいだ。


「黙れ……あんたみたいなポンコツの……指図は受けない……」


「は?何だこの女は」


「男は……顔が綺麗な男は尚更……ミモザちゃんに相応しくない……でもこんなポンコツが相手なら……私がポンコツに負けるわけがない……」


「いや、良く分からんがポンコツポンコツ言うな!」


じりじりと追い詰めるようにユリウスに迫っていったリリーナちゃんがボソボソと何を言っているかは分からなかったが、あのユリウスがちょっと押され気味のようだ。

いつも飄々としているユリウスなのに、珍しいこともあるものだ。



「…………頭良いからってミモザちゃんに勉強教えたり……席が隣だからってたくさん話しかけてもらえたり……サンドイッチ貰ったり……妬ましい……お前なんてポンコツの癖に……」


「あ、あいつに勉強を教えるのも、あいつが話しかけてくるのもサンドイッチも、みんな鬱陶しいだけだろうが」


「ああ……?ミモザちゃんに話しかけられるたびに嬉しそうにしてる奴がどの口で……」


「嬉しそうにした覚えはない!」


「……もうちょっとマシな嘘つきな……バレバレなんだよ……このポンコツ……」


「……く、くそ、本当になんだこの女!!」


仲間外れにされてしまったミモザに2人の会話は聞こえなかったが、最後のユリウスの絶叫だけは聞こえた。


そして大声を出したユリウスに驚いたのかリリーナちゃんがミモザの方に駆けてきて、ミモザに助けを求めるように飛びついた。

彼女はユリウスが怖くて怯えているようだ。


「ミモザちゃん……あの人怖い……」


「大丈夫です大丈夫です。ユリウスさんは優しいですよ。突然大きな声を出したのも彼なりの理由が何かあったのですよ。ユリウスさんが慣れてくれば、リリーナさんもきっと仲良くなれます」


何が起こったのか良く分からなかったが角が立たないように宥めると、リリーナちゃんはものすごく嫌そうな顔をしたが、ユリウスはちょっと感動したような顔をしていた。




「おーいユリウス、こっちは何とか終わったけど、次はどうする?」


向こうの梟小屋から、こちらで何が起こっていたかは露ほども知らないルドルフ君の声が聞こえてきた。

梟に群がられてボロボロになっていたが、もう掃除を済ませたらしい。

ルドルフ君は防御魔法はイマイチだが、掃除は得意なのかもしれない。


「じゃあ帰れ」


だが頑張ったルドルフ君に、ユリウスは辛辣なままだった。


「機嫌直せよ~。友達として一緒に掃除するくらいなら、僕は全然大丈夫だからさ。

あ。ミモザちゃん、そういえばあっちで梟の卵見つけたよ。見に行く?」


梟小屋から出て来たルドルフ君はミモザの隣でそういえば、と手を打った。

そして、ニコッと笑って自然にミモザの手を引いた。


どうでもいいが、ルドルフ君は梟の襲撃に遭ったばかりなのでボロボロで、掃除をしたばかりなので手も汚かった。

彼に手を掴まれた瞬間、何かがべちょっとした。


……うん……まあ、後から手を洗えばいいか。



「っ、お前はこっちで掃除だ!」


ばあん!


間髪入れずに鋭い音がして、ルドルフ君の手がミモザの手から離れた。

ミモザから剥ぎ取るようにしてルドルフ君を捕まえたユリウスが、彼を第二梟小屋に投げ入れたのだ。モップと共に。


そしてルドルフ君は再び鳥葬を受けた死体のように、梟に群がられて悲鳴を上げていた。




「本当に何なんだこいつらは……」

悲鳴を上げているルドルフ君を無視したユリウスは、自分で掃除もしていないのにげっそり疲れ切った顔をしていた。




ちなみに、二つあった梟小屋の掃除は、なんやかんやでルドルフ君がひとりで終わらせてしまったのでした。




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