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美味しくないです食べないでください




…………。


教官の号令で、皆思い思いに訓練を始めている。

しかしミモザの前には、ルドルフ君の元々のペアだった女の子がミモザを必死に見つめて立っているばかりだ。


「……リリーナさん、もう始まっていますし、装置を作動させても良いのですよ?」


魅了魔術を受ける順番になったが、リリーナちゃんが一向に装置を発動させようとしないので、ミモザは催促してみた。


「え……っ?最大出力にしてるよ……?なんで……ミモザちゃんは飄々としてるの……?」


汗をかきながら最大出力の魅了魔術をミモザにかけている筈のリリーナちゃんは、ぎょっと驚いた顔をした。


……最大出力?どういうことだ。


訓練場を見回せば、ほとんどの生徒が相方にメロメロ状態になっており、割と修羅場だった。

唯一、ユリウスとルドルフのペアと、ミモザだけがこの訓練場で飄々としている。


「私、何ともないですよ」

「……なんで何ともないの……?」

「やはり私の場合、女性同士ではかかりが悪いのでしょうか」

「そんな……」


リリーナちゃんが歯切れ悪くミモザに返事をしたのは、先ほどミモザが魅了魔術を発動した時、彼女がミモザにメロメロのペロペロになってしまったのが原因だろう。


「ミモザちゃんミモザちゃん……入学式の時から見てたんだ……可愛くって綺麗で、天使だって思ったの……うふふ、だいすきだいすきだいすきだいすき結婚しよ……」

内気そうなリリーナちゃんは魅了魔法にかかった時、そんなことを言いながらミモザにまとわりついてきた。


まあ別にどうでもいいのだが、リリーナちゃんは少々百合っけが強いということだ。

しかしながらミモザは百合っけが皆無であるらしく、リリーナちゃんの魅了魔法が全く全然、微塵もかからない。



普通に勤勉なミモザは、このままだらだら時間を過ごすのも良くないと思ったので、ペアを変えることにした。


「ルドルフさん、やはり私の相手をしてくださいませんか」

「ああ、その方が助かるよ」


『男同士でなぜこんな苦行を』という顔をしているルドルフ君に駆け寄ったミモザはリリーナちゃんとユリウスを引き合わせ、ルドルフ君と速攻で交渉を成立させた。


……と思いきや、ユリウスがリリーナちゃんをミモザに強引に返却してきた。


「お前はこの女とやれ」

「私はルドルフさんとやります」

「我儘言うな。この男は俺がやる」

「いえ、私が」

「俺だ」


「お、おい、僕を取り合って喧嘩するなよ。ユリウスの気持ちは嬉しいけどさ、僕はやっぱりミモザさんとやりたいな~……」

「うるさい黙れ」


ルドルフ君とやりたいと言って譲らない癖に、ルドルフ君には辛辣なユリウスであった。



「はあ……もういいです。ルドルフさん、行きましょう」


このままでは埒が明かないと思ったミモザは、ルドルフ君を攫って逃げることにした。

これ以上揉めれば、教官だってやって来るだろう。

怒られるのも嫌だし、居残りだってしたくない。


「お、おい」


後ろからユリウスの声が追いかけてきたが、無視してやった。


ミモザたちは訓練場の端を陣取った。

次の一分が始まる号令がかかったら、ルドルフ君がミモザに向けて魅了魔術を発動してくれる。



「次!交代!始め!」



………。




「魔術、発動させてます?」

「最大出力なんですけど……」


「おかしいですね」


ぜんぜん何とも感じないミモザは、もう一度周りを見回した。

魅了にかかって相手にまとわりつこうとしている生徒が殆どで、あとは脂汗をかきながら耐えている優秀な生徒が二、三人いるくらいだった。

あの防御魔法の天才のユリウスでさえ、小さく眉根を寄せているようだった。


何もしていないのに、魅了のミの字も魅了されていないミモザはどうしたのだろう。

何の変哲もない平凡なミモザは、あっという間に魅了にかかってルドルフ君に抱き付いていたっておかしくないのに。


「装置、壊れているのかもしれませんね」


そうミモザが言った時、丁度ミモザのターンが終わり、次はルドルフ君のターンになった。


最大出力の魅了魔術にも何も感じなかったミモザは、イマイチ魅了魔術の怖さについて分かっていなかった。


ギュンっと。

ミモザは、自分の魅了魔術変換装置の出力を最大にして起動させた。


「さて、それでは……」

「ミ、ミモザさん!ミモザさん!ミモザさん!ミモザさん!ミモザさん!ミモザさん!私を貴方のものにして下さい!血でも肉でも心臓でも貴方に捧げます!何がお望みですか?踏んでください蹴ってください抱いてください食べてください……!」


「ひっ!!」


装置を起動させて目が合った瞬間、あっという間にルドルフ君が魅了魔術に洗脳されてしまった。


目の当たりにして、ようやく分かった。

吸血鬼の魔術は何と恐ろしい。

魔法使いを一瞬で愛の肉奴隷に変えてしまうのだ。

吸血鬼の常とう手段だ。

吸血鬼は、こうして魔法使いを狂愛の肉塊にして血肉をすすることが好きなのだ。


「ミモザさん!ミモザさん!ミモザさん!ミモザさん!ミモザさん!ミモザさん!可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い!愛しています愛しています愛しています愛しています!ああ早く貴方の一部になりたいです僕を煮るなり焼くなり好きにして可愛がっていただけませんか――!!」


焦点のあってない目をしたルドルフが涎を垂らしながら飛び掛かってきたので、ミモザは貞操の危機というより生命の危機を感じて思わずしゃがみ込んで頭を守った。


出力を下げればいいものを、恐怖で頭が回らなかった。やはりミモザは凡人である。


……く、食われる!!



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