売られた喧嘩は買うしかない
声がした方を見れば、楽しそうに肩を組んだりしながらミモザの方を見ている何人かの男性と、ぺちゃくちゃ話している女性の軍団が目に入った。
女性の中に、ちらりとアイリーンの姿が見えた。
ということは、彼らは今夜のサバトに参加した連中で、ミモザの隠し念写を見た連中ということだ。
何と運が悪いのだ。
彼らのサバトに行きたくないからユリウスまで巻き込んだのに、結局こうして鉢合わせてしまうとは。
「なあ、ミモザちゃんって誰え?」
「ほら、今日病欠した子いたじゃん。アイリーンが念写で見せてくれた可愛い子」
「ああ、あの可愛い念写の子かあ。ってか、男と歩いてるけどなんなの?病気だったんじゃねーの?」
「仮病使って男とデートか。やばいねぇ」
酔っぱらった彼らの大きな声が聞こえる。
彼らの目はなんだか気持ちが悪い。口調も声も聴き心地が悪い。
レストランの食事は美味しかったし楽しい時間も過ごせたのに、最後に嫌な気分にさせられた。
折角の金曜の夜なのに。
「どうでもいい。いくぞ」
眉根を寄せて立ち止まったままだったミモザに、冷静な声を掛けたのはユリウスだった。
行くぞという言葉に手を引かれるようにしてミモザは彼らに背を向ける。
まあ、適当に無視するのが得策か。
しかし、大きな声がミモザの背中を追ってきた。
「ミモザちゃーん、こっち来て今から俺らと飲もーよー!」
「俺らと合流しよー。楽しーよー!」
下品な彼らの声はやけに馴れ馴れしい。
ミモザたちが彼らの呼びかけ更に無視して歩を進めれば、その馴れ馴れしいだけだった声も段々と苛立ったものに変わっていった。
「無視はヤバくない?無視はさあ」
「ミモザちゃん冷たすぎい」
「隣の男もさあ、何なわけえ?」
不満顔の酔っ払いたちの中、不意に一人の男性が前に一歩踏み出して来た。
フラフラと明らかに酔っぱらっている、ゴリラのような巨体の男性だった。
「おい、ミモザちゃん!!待てよ、こっち来てよ、このッ!」
名前を呼ばれても無視を決め込めば、その男性が突然力んで野太い声をあげた。
ゴウッ!
男性が叫んだ次の瞬間、ミモザの耳の後ろでと熱い音がした。
ヒヤッとした。
ミモザだけでなく、ユリウスもそのあたりを歩いていた魔法使い達も皆感じただろう。
圧力が空気を震わせ、魔力が魔法となって出現したことを。
ただならぬ気配を感じて振り向いたミモザには、野球の球くらいの火球が幾つか迫っていた。
あのゴリラ男の魔法だ。
攻撃的な遠距離魔法が使えるということは多分、彼は魔導強襲学部あたりの生徒なのではないだろうか。
炎の球は真っすぐにミモザに向かって飛んできている。
このままだと、火傷をしてしまう。
迫りくるその攻撃魔法を見て、ミモザは覚悟を決めるしかなかった。
外で攻撃魔法を受けたことなんてないけど、まあやるしかない。
今のミモザは腐っても平凡でも、防衛魔導を学ぶ魔法使い。
攻撃を無様に受けるわけにはいかない。
ミモザは、先日も訓練していた対魔法防御魔法を展開させようと構えて、魔力を集め始めた。
しかし、それは間に合わなかった。