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料理の味は見た目と名前に反比例する

連続投稿しました。




約束の金曜日はすぐにやって来た。


教室の中心部ではアイリーンをはじめとした声の高い女の子たちが、何やらお化粧をしたりネイルを塗ったりはしゃいでいる。

他の生徒たちもどことなく浮かれたような顔をして、週末の計画を立てたり準備をしたりしている。


金曜日の夜は魔法使い達が一番好きな時間だ。

魔法使いが気の置けない仲間を集めて集会を開くのも大抵金曜日の夜だし、魔法使いがちょっと羽目を外したくなるのも金曜日の夜だ。


教室で盛り上がっている魔法使い達を横目に見ながら、ミモザは静かな自分の席に腰かけた。


「今日の放課後ですよ、ユリウスさん。約束忘れていませんか」


「……お前がしつこいから憶えている」


「最後の授業が終わったら寮に帰って荷物を置いて、それから正面門で落ち合いましょう。制服のままでいいですよね」


「あ……ああ。わざわざ着替えることもない」


今日のユリウスはいつもと比べて口数が少ない。

その割に本に突っ伏したり溜息をついたりして、忙しない。

極めつけに、声がいつにも増して掠れていて、熱があるような顔をしている。

風邪だろうか。


「体調が悪いのです?大丈夫ですか?もし辛ければキャンセルしても大丈夫ですよ」


「うるさい……大丈夫だ」



少し心配だが、何度尋ねてもユリウスは頑なに大丈夫だと言うので、予定通り授業が終わったらそのまま正面門で落ち合って街に繰り出すことにした。


今夜は彼の体調をよく観察して、彼がどうしても具合が悪そうならすぐに帰ればいい。

ミモザはそんなことを考えていた。





……




全ての授業が終わり、日が落ちていく。

金曜の夜が始まろうとしている。


制服である長いローブの裾をはためかせ、ミモザはパタパタと待ち合わせの場所に到着した。


「すみません、お待たせしてしまいました!」


先に到着していたユリウスはミモザを待っていた。

壁にもたれて待っていた。


足が長くてすらりとしている彼が長いローブを纏った姿で壁に寄りかかっている姿は、なかなか様になっている。


…………物凄くソワソワしていることを除けば。

これでソワソワしていなければ、正面門を潜って街に繰り出していく女子生徒たちから憧れの目で二度見されること間違いなしなのに。


「……遅い。こんなところで俺をずっと待たせるな」


「女子寮は男子寮と比べて正面門から遠いところにありますから、貴方はゆっくり来てくれればよいと言ったではないですか。それにこれでも私、全速力で走ってきたのですよ」


ふうと息をついて、ミモザはユリウスの隣に並んだ。

そして2人は大きな正面門を抜けた。


一歩外に踏み出せば、そこには中央都市の街並が広がっている。

夕日が沈み始めていて、所狭しと並ぶ店は賑やかな灯を付け始めている。

街の魔法使い達が思い思いに夕暮れの時間を過ごしている。


煉瓦の大通りに沿って歩き、王都を横切る水路にかけられた小橋を渡り、ブティック通りを横切って、少し進んだその先の落ち着いた街灯の並ぶ飲食店街の一角にあるレストランが今日の目的地だ。


「ここです。欧風料理、蛇のハラワタです」


「酷いネーミングセンスだな。食欲が失せたんだが」


「名前と見た目が悪い料理は美味しいというではありませんか」


「誰がそんな恐ろしいことを言った」


「私です」


ミモザはユリウスの溜息を無視して、意気揚々とレストランの分厚い木の扉を押し開けた。

古びた木の隠れ家のようなこのレストランは、中央生まれ中央育ちのミモザの行きつけである。

中央都市で一番おいしい欧風料理の店と言ったらここだ。




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