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実行してしまえば、それは嘘をついたとは言わない



「おい、その日は俺と約束しただろう。このあんぽんたん」


「え?」


「俺と約束があるから、お前はサバトには行けないだろ」


気分が悪くなって顔を青くしたミモザを見かねて助け舟を出してくれたのは、ずっと黙ってミモザとアイリーンのやり取りを聞いていたユリウスだった。


「……そう、そうでした、ユリウスさんと一番に約束しましたよね」


ミモザは一筋の蜘蛛の糸に、何でもいいから助けてくれとしがみ付いた罪人のようにコクコクと頷いた。


「そうだ。何が父親と会うだ。友人相手に下手に誤魔化すことはないだろう。最初から正直に言えばよかったんだ、このすかぽんたん」


「そうですそうです。私はユリウスさんと約束があったのです。下手に誤魔化してしまってすみません、アイリーンさん。ですのでサバトは行けません」


ユリウスの助け舟に乗っかった形になったミモザは、ユリウスと完全に話を合わせた。

それを見たアイリーンは顎に手を当てて頷いている。


「男と約束があるなら仕方ないか……ってミモザちゃん酷くない?私がユリウス狙ってたの知ってたくせに!」


「あっ、いえ、普通に友人として共に出かけるだけなので、それは……」


目つきが鋭くなったアイリーンはサバトにも普通に行って新規開拓は怠らないが、まだユリウスのことは気に入っているようだった。


「でも、だからミモザちゃんはあたしに正直に言い出せなかったの?父親と会うとか意味不明なことを言い出したのもあたしに気を遣ってくれたからなんだ?」


「ええと、まあそんな感じでしょうか」


「そっか~。いや、ごめんね」


いい感じに解釈してくれたアイリーンは、パンと手を合わせてあっけからんと謝った。

それからユリウスに向き直り、満面の笑顔を見せる。


「ね、そういうことなら今度あたしのことも誘ってよユリウス!お友達からはじめよ!」


「それよりお前が勝手に撮った念写、こいつに返してやれ」


身をくねらせて訴えたアイリーンをガン無視して、ユリウスは平然と自身の要求だけ通していた。

このやり取りだけ見ると、ユリウスはものすごく暴君である。


「ああ念写ね、返す返す!ごめんね、もうしない!許してねミモザちゃん」


アイリーンも隠し撮りをしたことを申し訳なかったと思い始めたのか、再び手を握られたが今度は優しかった。

「今回のサバトは男たちからブーイング食らうかもしれないけど、ミモザちゃんは病気ってことにしとけばいっか」

などと言い残して、アイリーンは去っていった。






……なんとかなったようだ。


ミモザが胸をなでおろしていると、隣からハアと大きなため息が聞こえてきた。

窒息寸前で何とか一命をとりとめたかのような本気の溜息だった。


「ユリウスさん、あんぽんたんとかすかぽんたんとか私のこと罵ってきましたね。酷いです」


「助けてやったんだ、文句言うな」


「冗談です。感謝ばかりです、文句はありません」


ぺこりと頭を下げると、ユリウスは少し表情を緩めたようだった。



「……ところでユリウスさん、その日空いていたりしますか?」


「は?!」


「その日、よかったら本当に出かけませんかと聞こうと思っているのですが、空いてます?」


「?!

い、いや……空いていると言えば空いているかもしれないしそうではないかもしれないが、まあなんというか、要するに空いていないこともない」


ユリウスは無駄に驚いて、物凄い早口で返事を返してきた。

よく舌を噛まなかったな。


「乗り掛かった舟ということで、私に付き合ってもらえませんか」


「つ!ぐ……………………ま、まあ、今回こそは、ひ、人助けだと思って、お前のアリバイ作りに協力してやってもいい」


ぎくしゃくしている彼は何か別の事を言おうとしたようだったが、それをぐっと抑えて頷いた。


「ありがとうございます!」


「べ、別に、たまには哀れなやつを助けて徳を積むのも悪くないと思っただけだ」


「聖人君子ですね。それで、お礼になにかごはんでも奢らせてください。お礼と言って思いつくのが食べ物ばかりで申し訳ないのですが」


我ながらいい考えだ。

ユリウスに嫌がられないのであれば、お礼がしたい。

そして、一緒に出掛けてしまえばアイリーンに二度目の噓をついたことにもならない。

ミモザにとって、ユリウスと出かけることは一石二鳥なように思えた。


「べ、別にお前が礼をしたいのなら、今度こそは感謝されてやってもいい……」


「是非。それでは、何か食べたいものはあります?」


「お前が好きなものでいい」


「そうですね、私は欧風料理とか好きですが、いかがです?」


「別に、悪くない」


「はい、では決まりです。楽しみですね!」


パンと手を打ってミモザがユリウスに同意を求めたら、嫌そうに顔を逸らされた。





「………………楽しみな訳ないだろ、くそ」


彼が何か言っていたが、声が小さかったので聞き取れなかった。

それより、彼が隠し損ねた耳が少し赤いのが気になった。





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