87.味方!?~ナルバドside
中毒で暴走する2人が奪った剣を片手に同時に飛びかかってくる。
俺は腕に鱗が生えた竜人に重点的に狙いを定めて雷撃を走らせ、直後それを追うように間合いを詰めた。
上から愛刀を振り下ろす、と見せかけて刃の軌道と体の重心をずらして相手の剣の太刀筋と同じ方向に刀身を当ててはたき落とす。
と同時に回転し、踏み込んで背後に迫る剣を愛刀で受ける。
本来ならこのまま足に鱗が生えた奴を力押しで後ろに後退させてもう1人と距離を取りたかったけど、馬鹿力に押し負けてむしろこっちが後退させられちまった。
(くそ、殴られる!)
鱗が生えて腕力が格段に強化された拳が後ろから迫る気配がするものの、避けられない。
痛みと衝撃に備えて身を固くして身構える。
ガッ、ドカッ!
「グガッ」
しかし拳を受け止め、短い悲鳴と共に殴り飛ばされた音は俺のものじゃなかった。
「ガアアア!」
そして剣を交えて押し合いをしていた竜人を風刃が襲い、鱗が生えて固くなったはずの皮膚を切り刻みながら主に脛に鱗が生えた竜人を後ろへ吹き飛ばす。
俺の間合いに残ったのは、他ならぬ俺を守るように前後で挟んで背後に庇った見ず知らずの2人の獣人だ。
後方は大柄で竜人にも引けをとらない熊属。
前方は肉食系の俺より幾分背が高い魔術師風の、種族は初めて見たけど多分白竜の番と同じ大黒兎属だと思う。
「すまない、屋敷の外からわかるくらい明らかに奇襲を受けてるようだったから不法侵入してしまった」
こちらを振り返る事もなく、視線は熊属が吹っ飛ばした敵に向けたまま謝られる。
「すみませんが、こちらに人属の子供はお邪魔していないでしょうか?」
物腰柔らかそうな雰囲気の大黒兎属も視線を前方に向けたままだ。
「えーっと、とりあえず助かったみたいだし、不法侵入は気にしないでいいけど、どちら様?」
突然の····援軍なのか?
え、どういう事だよ?!
麻薬の後遺症で暴走中の竜人素手で殴り飛ばしたんだけど?!
それに何だよ、あの風刃!?
普通の魔術より威力高いんだけど、まさか精霊術か?!
つうか間違いなく戦闘慣れしてて普通に強いけど、こんな奴らこの国に今までいたのか?!
なんていう心中の大パニックを悟られないよう気を付けながら何者なのか聞いてみる。
「ビビット商会の従僕だ」
熊族が答えてくれたけど絶対嘘じゃねぇ?
うん、商会の従僕だけはないわぁ。
せめて傭兵とか冒険者とかだろう。
コイツら隙が無くて戦闘慣れし過ぎてんだけど。
なんてツッコミ入れている間に吹き飛んだ2人が起き上る。
「あれが月下の麻薬を過剰投与された竜人でしょうか?
随分と頑丈ですね。
ところで先程の私の質問にはどうして答えられないんでしょうか?
まさか可愛いからって襲ったりはしていませんよね?」
物腰柔らかそうな雰囲気漂わせておいて、最後の質問だけこっち軽く振り返って聞いてきたけど、やけに殺気がこもってない?
兎って肉食系じゃないよね?
答えられないんじゃなくて、どこの誰かわかんないから警戒してんだよ?
つうか、誰があんな小さい子供なんか襲うか!
幼児趣味の変態じゃねえ!
「いきなり出てきて変態扱いしないでくれるか!?
むしろこっちが保護してるくらいだよ!」
今にもこちらに突っ込んできそうな竜人の雰囲気に身構えながら怒鳴る。
「そうですか。
それであの子は今どこにいます?」
一先ずほっとした様子で視線を戻す兎属はとにかくあの子供の無事を直接確認したいようだが、タイミング悪すぎだろう!
しかも本当に商会の従僕なのかもあの子の知り合いなのかもわからねえのに教えられ····
「ぐっ、うぁ····く、すり····」
「げ、っか····にお、い」
俺の心中を遮るように最近では滅多に聞けなかった言葉を涎を垂らし、竜人達はギリギリと歯ぎしりするその隙間から絞り出しながら顔を上げて匂いを確かめるように鼻をすんすんと鳴らしている。
薬····月花の匂い?
そんなんしてるか?
嗅覚まで強化されたとか?
でもそんなもん家には無いぞ。
「····は?」
そして次の瞬間、砂埃と共に鱗を生やした男たちは駆け出した。
さっきまで戦ってた俺達の事なんか絶対忘れてる。
男達が脇目も振らずに目指すその先を呆然と目で追い、しまったと慌てて後を追う。
「本邸に向かってる!
人属の子供もそこにいる!」
当然のように熊属と兎属もついて来たが、多分今は正体の怪しい奴らでも頼った方がいい。
兎属が魔術で風を操り、俺達は追い風、あの2人には向かい風を吹かせるが、それでも追い付けない。
連中が跳躍しながら走っているところを見ると多分自分達にかかる重力を魔術で軽減してる。
今の本邸にまともな戦力はモンテしかいない。
念の為魔石具使って本邸は結界で囲っているが、今の鱗が生えた暴走状態で重力操作して圧力をかけられたらすぐに邸宅ごと壊される。
頼む、間に合ってくれ!!




