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7.レンの秘密

「血を分けるとは、どういう事だ?

レン、俺の手足をくっつけてくれた事には礼を言う。

だが、何かの副作用に見舞われていたんだな?

レンが傷つくような行為だったんだな?

頼むから、今後は自重してくれ。

相手が誰であってもだ」


 手足をくっつけたり、血を分ける魔法など、聞いたことがない。

恐らく黒竜に頼んだんだろう。

黒を纏う最上位の竜だ。

人外の存在なら、できても不思議ではない。


「あの、ホントに大丈夫だから。

気にしないで。

それに血も、私の型は、人にあげるのに問題はないの」

「そういう事じゃ、ないだろう!

レンが傷ついたり、倒れたりするのが駄目なんだ!」


 俺が言わんとしている事が、レンに通じていないと察して、つい口調も顔もきつくなってしまう。


 ビクッと体を硬直させたレンは、泣きそうな表情をしたが、そんな顔をしても駄目だ。


「レン、もっと自分を大切にして欲しいんだ。

生かしてくれた事には、感謝する。

だが、レンに何かあるのは嫌だ。

レンが傷ついたり、苦しんだりするのは、レンが納得していても、俺は嫌なんだ。

俺にそう思われるのは……迷惑か?」


 レンに歩み寄って、柔らかい頬に触れる。


 黒竜が一瞬、眉根を寄せたと思ったら、レンの手を離すと同時に、抱え上げて、腕に乗せてしまった。


 レンとの目線は、俺と同じになる。

だが、互いの体が、少し離れてしまった。


「迷惑じゃ、ない……多分?

僕、グランさんに、心配されてるのかな?」

「ああ、そうだ。

自分の為に、当たり前のように体を張られたと知れば、心配するのは当然だろ?」

「ふふふ、そっか。

嬉しいけど、何か恥ずかしいけど……くすぐったいね」


 頬を染めて微笑むレンが、何とも愛おしい。

あぁ、早く大人になってくれ。

口付けたい、抱きたい、自分の物だと叫びたい。


 愛おしさに身悶えしそうになった時、背後に気配を感じた。


 いつの間にか、ウォンが俺の真後ろに座っていた。

俺の頭越しに、レンへと顔を近づけて、ウォンがペロッと頬を舐めた。


「俺達も、レンを心配しているぞ?」

「うん、皆、いつも守ってくれてありがとう」


 黒竜が静かに告げると、レンが嬉しそうに、黒竜の首に抱きついた。


 くそ!

ムカつく!

黒竜め、そのしたり顔やめろ!

俺の番を離せ!


「という事で、レンは留守番だ。

どうせまだ血が回復してなくて、まともに寝れていないだろう。

体も冷えている。

せっかくだ。

この獣人に世話してもらえ。

キョロは、レンにつけ。

ウォンは、コイツと一緒にいろ。

森の魔獣共は、心配しなくていい」

「え、でもうちの事だし……」

「かまわない。

さっき頬に触れてわかったが、本当に体が冷えきってる。

レンは寝てろ。

助けてもらった恩を、少しは返しておきたい。

必要な物を揃えたら、俺は一度、戻らないといけない。

まさか三日も寝ていたとは。

レンは、少しでも体を回復して、俺の心配をなくしておいて欲しい」


 レンを抱き上げたい衝動に駆られて、レンに向かって両手を差し出してみる。


「何か、ごめんなさい。

ありがとう、グランさん」


 レンがそろそろと手を伸ばしてきたので、そのまま脇に手を差し込んで、黒竜から奪う。


 舌打ちが聞こえた気がするが……うん、気のせいだ。


 黒竜の言う通り、レンの全身は冷んやりしていた。


「寒いか?」


 そう言いながら、どさくさに紛れて抱き締めてしまう。


 正面から微弱な殺気と、舌打ちが放たれた気がするが……うん、気のせいだ。


「だ、大丈夫、です」

「ふっ、どうした?

意識して、照れたのか?

可愛いな」


 とか言いつつ、自分も頬が赤くなるのを感じてしまう。


 レンを子供扱いして誤魔化しつつ、更にギュッと小さな体を抱き込んで、レンから頬を隠した。


 レンほ首筋から、甘い香りが漂う。

理性が揺らぐ。


 正面から殺気と、何度目かの舌打ちが聞こえた気がするが……うん、気のせいだ。


 そのままベッドへ移動して、レンを腰かけさせる。


「いい子にして、待っていてくれ」


 そっと頭を撫でると、ほんの僅かな時間で大好きになった、くすぐったそうな顔をしたレンが、頷いてくれた。

キョロが飛んできて、枕の横に座る。


「行ってくる」


 俺が外に出ると、ウォンと黒竜も続いた。


 振り返って、改めてレンの家を見る。

人族がぎりぎり一人で過ごせる程度の、小さくて簡素な小屋だった。


「お前、レンの番か?」


 殺気を纏わせた黒竜が、金色の瞳を細める。


「そうだ。

お前こそ、何なんだ?

竜が人の姿を取るとは、聞いたことがある。

だが竜にも、他種族の番が存在するのか?」

「人の姿を取れる竜には、稀にあるようだ。

俺の母と、義父がそうだった。

番への認識力は、獣人よりも劣るがな。

力の程度は天地の差だが、竜人と呼ばれる種族と、大して変わらん。

お前も、獣体になれるはずだ。

竜人も竜になれる者は、数こそ少ないが、いる」

「レンはお前の番か?」

「そういうことだ」


 αである俺を含める獣人は、番という存在は一人しかいない。

竜も……あれ、竜も同じだよな?

まあ、同じとしよう。


 しかしレンも含めて、Ω性を持つ者は、複数の番が存在する可能性が、極めて高い。


「よりによって魔の森の主の番が、俺と同じ番だったとはな。

だが手足を元に戻してくれた事は、感謝する。

お陰で騎士を続けられる」

「レンがお前を助けると望んだから、森に匿って生かすのだけは、許した。

だが、それだけた。

お前を助けたのはレンだし、俺は何もしていない」

「……は?

しかし俺の手足は完全に分離していた。

そんな事ができるのは……」

「レン以外に、そんな事ができる者はいない。

俺でも無理だ。

血を分け与える魔法を施し、自らの血を、お前に与えたのもレンだ。

レンはただの人間ではない。

そもそもレンの治癒魔法は、治癒魔法を得意としていた俺の母親仕込みだ。

お前達の常識など、遥かに凌駕している」


 言葉を失う。

ただの人間じゃないとはどういう事だ?

まさか人族なのに、異能持ちか?

だが獣人以外で人族が魔法とは違う、異能の力を持つという話は聞いた事がない。


 それに黒竜の母親という事は、白竜が魔法を教えたという意味だろうか?


 そこで、ふと視線を感じた。

この視線……深夜に感じた視線か?


 思わず後ろを振り向く。

視界の端に、白い何かを捕らえた気がした。


 だが、やはり深夜の時のように、何もいなかった。

内心、首を捻りながら視線を元に戻した。

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