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2.約束

「ここは……」


 目を覚ますと、真っ暗だった。


 と言っても、俺は獅子の獣人。

夜目が利く。


 首だけを、まずは動かしてみる。


 狭い部屋。

初めて見る場所で、ここがどこかわからない。


 ただ、ひとまずベッドの上で眠っていた事に安堵した。


 曲げていた足を伸ばすと、布団だけでなく、ベッドそのものから()()がはみ出した感覚が……。


「俺の足!」


 ガバッと起き上がって、利き手(右手)で布団をめくる。


「え、あれ、右手も……ある?」


 呆然と呟く。


 騎士である俺は、仲間の騎士と共に、怪しい商人達を追っていた。


 魔の森の近くに差し掛かった時、商人達が竜笛を吹いた。


 そう、よりによって魔の森の近くなんかで。


 少しの間を置き、現れたのは二匹の青竜。

規格外に強い魔獣。

それが二体も……。


 俺達騎士は、たった三人という悪環境で戦った。


 仲間達は食い千切られ、大きな爪で引き裂かれ、繰り出される魔法の砲口で倒れていった。

俺は右手と左足を……。


「んぅ····さむいぃ····」

「!?」


 突然の声に、息を飲む。

隣を見ると、黒髪の少年が俺に背を向け、丸くなって寝ていた。


 全く気づかなかった……。


 小さな手が後ろ手に、ぽすぽすとか弱く布団を探して叩きさ迷う。


 ベッドはこの少年仕様のようで、狭くて小さい。


 起こそうかとも思ったが、やめた。

記憶の限りでも、俺以外の騎士は死んだだろう。


 そしてこの少年は、恐らく命の恩人だ。


 ふと視線を感じて、暗がりの向こうに目を凝らした。

着けていた甲冑や剣は、向こうのテーブルに置かれている。


 更にその向こうには炊事場に、流し台。

誰もいない……気のせいだったのか?


 俺はそっと少年に布団をかけ直し、ぽんぽんと優しく叩く。

すぐに寝息が、くぅくぅと聞こえた。


 俺はベッドに座ったまま、呆然と右手と左足を眺める。

あれが夢だと思えないほどには、引き千切られた時の激痛を、生々しく覚えている。


『約束、ね』


 この少年の、最後の言葉を思い出す。


 質素で粗末な、小さい小屋だ。

季節は初冬だから、夜は特に冷え込む。


 なのに少年の服も、この布団も、いささか心許ない。


 一人で住んでいるのか?

見た限り十歳いかないくらいの人族。

しかも黒髪に、記憶の中の少年は、確か黒目だった。


 俺のような獣人で、金髪や藍色の瞳とは違って、かなり貴重だ。


 人族である事も然り、ここまで濃い黒を髪と瞳に纏う者も然り。

というか、初めて見た。


 今まで、よく無事でいられたものだ。


 ほぼ初対面ながら、少年の行く末を案じたところで、冷気にふるりと体を揺らす。


 死んだ仲間達を思うと、とてもではないが寝られない。

しかし寒い。

このまま、こうしていれば凍死する。


 俺はもう一度、小さな布団に潜り込む。

初対面の少年に罪悪感を覚えつつも、抱き込むようにして暖を取る。

子供特有の乳臭さの他に、甘い匂いがする。


石鹸か?


 そんな事を考えながら、やがてうつらとし始めた。


――――――――――――――――

『····チカ····』


 体から色が抜けたような、そんな白さを髪と肌に持った人族の幼児が、何かを呟きながら()()に笑いかける。


 幼児の瞳は、透明なガラスに、血の色が浮かんだような、不思議な色。

目元が少し垂れ気味で、左の目元にある泣き黒子が、幼いながらに色気を醸している。


 布を交差して巻きつけ、太めの腰紐で留めたような白い服。

ひらひらした、長方形の旗のような袖がついているんだが、邪魔にならないのか?

履き物は、藁で編んだ……サンダルのような形。

足指に引っかけて履いている。


 どこの民族衣装だろうか?

初めて見る。

 服も履き物も、着古したように、くたびれていた。

少しだらけた襟首から見える幼児の首は、ほっそりして、簡単に折れそうだ。


『····サク······』


 俺の隣にいた、黒目黒髪で乳白色の肌をした人族の少年が、白い幼児に何かを語りかけた。


 少年は、鼻筋の通った綺麗な顔立ちだ。


涼やかな目元は、冷たい印象を与えそうだが、幼児を見る目元は優しげに見えた。


 出で立ちは、やはりひらひらした袖の服だが、幼児の服とも形が少し違う。

全体的に少し膨らがあるスボンは、裾を足下で絞っている。

皮素材の履き物で、身につけている布は上質そうだ。


 隣の少年と同じような色と、大きさの手をした俺は、幼児の白い頭を優しくなでる。

すると幼児は、くすぐったそうに笑った。

夢で着ていた服は着物と草鞋、狩衣と革靴です。

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