136.会合
「それではワルシャマリ国国王の譲位と開国、それから月花の麻薬の解毒薬での治療の調整について会合を開始する。
会合に当たり、改めて参加する我々の自己紹介を簡単にだが先に行う。
私はザッカルード国王太子リュシガル=ザッカルード。
こちらは我が国の国王陛下ベルガモルト=ザッカルードだ。
後ろに控えるのは騎士団団長ベルグル=ドランク、副団長レイブ=ワルガロス、第3騎士隊隊長ジェス=セシリバー、第4騎士隊トマス=ココット、第5騎士隊隊長グラン=ウェストミンスターだ。
期間中は私達の近衛、及び開国に向けて他国への橋渡し準備に関わる。
開国後は我が国を含めて各国の宰相、摂政が国交に携わる事となるが、それに関してはまたしかるべき時に紹介する事となるだろう」
あれから2日後、とうとうこの日が来てしまった。
顔合わせだ。
俺達は紹介と同時に軽く一礼する。
あ、レンと目が合った。
にやけるな、俺。
俺はファルが来た事で翌日どころかその日の夜には団長に引きずられて騎士仲間達と合流させられ、そこからはレンと会えずじまいだった。
最初の話と違うし、何となく陛下と王太子の悪意を感じる。
2日ぶりのレンは顔色もだいぶ良くなっているが、減った体重や貧血が直ぐに改善される事はないから未だに不安を感じる。
こんな公衆の面前なんか来てまた倒れたらどうするんだ。
少しだけ背が高くなったレンはトビが急きょ揃えたんだろう、黒の礼服姿。
所々に金の刺繍がしてある。
番である金髪の俺を意識したような礼服でちょっと嬉しいぞ。
もちろんファルの目の色なんか脳内削除しておく。
いつもは後ろで1つに束ねてる長い黒髪を今日はハーフアップにしていて、服装も髪型も良く似合っているし全身から品が漂う装いだ。
気になるのはレンの後ろに控える長身の護衛。
ずっと外套のフードを被ったままなんだがレンもトビも気にしていない。
護衛の隣の人属と違って隙が無いから、護衛は間違いなくそいつだろう。
正直俺と立ち位置変わって欲しい。
むさ苦しい獅子属の2人なんかより、初めて見る装いで品だけじゃなく色気も出てるレンを護りつつ後ろからしっかりと隅々まで眺めていたい。
あの甘くて豊かな花の香りを誰よりも間近で堪能したくて仕方ない。
「それでは我がワルシャマリ国の者達を私、宰相のラスイード=ガルファンが紹介致します。
新国王陛下ザガド=ワルシャマリ。
前国王陛下ドゥニーム=ワルシャマリ。
宰相補佐ナルバド=ガルファン、新国王陛下の護衛騎士ジェロム=クウェルトです。
何分まだ体制が整いきってはおりませんし人選できる程の人手も足りず、かつての重臣を呼び戻している段階ですので、この場でご紹介できる者はここまでとなります」
そういえばこの国の奴らの正式な名前聞いたの初めてだったな。
あの豹属はラスイードの伴侶なのか?
ジェロムは完全復活したようだけど、回復早くないか?
「ほな最後は私らビビット商会から。
まずは会長のレンカ=キサカ。
黒竜の番で魔の森の執行者として黒竜、白竜それぞれに任ぜられてます。
私は副会長のトビドニア=エトランと申します。
後ろの2人は会計兼会長補佐カミュラ、医療部顧問兼護衛役ゼネガラが解毒薬普及の補助と販売に携わりますけど、この2人に名字はありません」
トビは敬語を使っててもあの商人口調が抜けないみたいだ。
「ゼネガラ?」
前国王が小さく呟く。
ワルシャマリ国一同が大小様々な反応を見せる。
特に反応しているのは新旧国王達だけど、護衛のジェロムは僅かに目を大きくしただけにととまった。
「ゼネガラ、そろそろそのフード取り」
それを見たからかトビが後ろを向いて指示すると長身の男が従う。
銀髪に藤色の目をしたどこか凛とした顔立ちの前国王やジェロムと同い年くらいの竜人だ。
「何故」
前国王が呆然と呟く。
「お久しぶりー」
へらっと笑って手をひらひらと振る。
いや、軽いな。
あ、思い出した。
間違いない、トビが前に軽いって言ってた奴はこいつだ。
思わず立ち上がりそうになった前国王だったが、後ろにいるジェロムが素早く肩を抑える。
「今は会合中やから、個人的に積もる話があったら後にしてもらえます?
長時間の会合はやっと起き上がれるまでに回復したとはいうても会長の負担が大きくなりますやん?」
トビの言葉にうちの陛下も頷き、気を取り直したように話が進められていった。
あらかじめ取り決めていた開国と外交についてはビビット商会は関わらない為にすぐに話は終えた。
双方が確認して取り決めを書面におこし、譲位式の際に調印する運びで話が終わる。
「譲位式は3日後。
その際に此度の内乱の首謀者である罪人ペネドゥルを含め、関わった者達も裁きます」
「良かろう。
我が国から呼び寄せた兵も前日には到着するじゃろうて。
取り決めた通りこの国の足らぬ兵はしばしの間彼等で補う事としようぞ」
「感謝する」
ザガド新国王がうちの陛下に謝意を示す。
「してその譲位式の日じゃが、黒竜の番であり執行者でもある商会長として出席する事は可能かの?
ザッカルード国国王としては出席する事で薬の普及が進むと思うのじゃが」
陛下がレンにザッカルード国国王としての威厳を声に乗せる。
こっちからは表情が見えないが、多分顔もそういう顔をしているんだろう。
あの日のデレッとした変態爺はどこへ行ったんだろうな。
おい、王太子よ。
可愛い俺の番をこっそり威圧すんな。
苛っとするぞ。
「黒竜と僕がどうするかはザガド新国王が血の宣言をどう実行に移すのかを確認してから決める。
僕が良しとしても黒竜がそうするかはわからない。
もちろんその逆もね」
ちらりと前国王を見やる黒い目はどこか冷たい。
藤色の目が一瞬陰った。
赤銅色の王は戸惑った様子で隣の兄とレンを交互に見やるが、その様子だとまだレンが前国王を簒奪者と言った理由は知らされていないんだろう。
レンは獅子の王族2人に向けてにっこり微笑む。
こっちからは2人の表情は見えないけど、王太子の耳がピクッとした。
ふふ、兄上、俺のレンは威圧なんかに負けないぞ。
「ビビット商会の会長としての行動と責任はあくまで薬に関してのみ。
それは商会が薬を卸す事、薬の配合と精製方法を独占しない事の条件の1つとして既にザッカルード国のみならず、周辺国各国王の了承を得ていると認識して薬の詳しい資料を渡していたはずだけど、僕の認識が違ったのかな、王太子殿下?」
「····いや、合っている。
だがそちらも利益がある以上は普及にもっと協力をしても良いのではないか?」
あれ、うちの王太子が気圧されてる?
「利益をどの程度求めるかは商会長の僕が判断する事だし、それはどこの商会にも認められる権利だと認識しているけれど、違ったのかな?」
あれ、レンの目と微笑みが冷たく感じるんだが、気のせい····じゃ、ないな。




