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世界のあらまし

人が亡くなる描写があるのでR15は念の為

史実等はなく、ふわっとしたお伽話のような物語です


まだ書き始めて2作目なため、色々と不手際が有ります

誤字等、見つけたら修正していきます

お目汚し失礼いたします


タグを見直して変更しました

 この世界には不文律(ルール)がある。

 何故? という疑問を持つ事すら意味を持たないくらいに絶対である。この世界が出来た時から当たり前のようにある。


 それは創造主(かみ)がこの世界を創造(つく)るにあたり、定めた法律(ルール)である。創造主が創造したルールは、その世界で生きる人形(イキモノ)が生まれると同時に魂に刻み込まれる。


 ルールから逃れる事はなく、またルールを疑問に思う事もない。

 ルールを疑問に思う事は悪であると刷り込まれるかの如く・・・


 そんな箱庭(せかい)の創造主もまた管理者でしかなく、別次元の世界から「召喚(よば)れた」だけの存在である。選ばれる基準は、別次元の世界で強い思いをを残して生命活動が途切れた生き物という単純なもの。

 そのため、多種多様な箱庭が、まるで並行世界論や生命の樹論の様に現れては消えていく。


 例えば四足歩行の群が唯一の世界

 例えばただ生きて滅するだけの世界

 例えば想像力が強さの基準な世界

 例えばひたすらに戦い争うだけの世界


 世界の終わりもまた唐突にくる。


 管理者の力量不足で世界の生物が絶えた場合

 管理者が飽いて世界が放置されて久しい場合

 管理者同士の不必要な交流があった場合


 須く消える。管理者ごと世界が丸ごと消える。


 このルールもまた管理者を「召喚()んだ側」が決めた事で、管理者の預かり知る余地は無い。

 全ては壮大な実験場のような空間の中での日常であり、空間の存在する意味でもある。



召喚()んだ側」もただ見ているだけではなく、管理者たちへの警告もする。

 ある日、管理者の決めたルールを逸脱する現象が立て続けに起こる。その時点で立て直せなければ一定期間ののちにその世界は消滅する。

 勿論、「何」に対しての警告なのかは管理者が推察しなければならない。回避したとしても、同じようなことを繰り返せば当然また警告が起こる。短期間に複数回繰り返すと、それもまた消滅対象となる。

 それでも、多様性確保のためか、2,3回で消える世界もあれば10回以上繰り返しても残っている世界もある。


 苦心惨憺して創り上げた世界やルールでも、消える時は一瞬である。いきなり全てが無に帰す。選ばれてここに来たはずの管理者も、世界も、全てが無かったことになる。唯一、生きていたものたちの熱量は残り、空間そのものへと融け込んで逝く。

 そしてその熱量は、新たな世界のための一部となる。




    藤堂要の世界


 目覚めたら「そこ」に居た。暗くは無いが光源もない薄ぼんやりと明るい場所。天地もなく、床もなく、だた漂うように居た。

 手には柔らかく発光する白い珠を握っていた。サッカーボールくらいの大きさだろうか? 纏まらない思考の中、何かは判らないまでも大事なものだと握りしめる。

 目覚めて暫くはぼーっとしていたが、意識がはっきりするにつれ自分の事やするべき事を「理解」した。まるで最初から知っていたかのように自然に、今現在自分が存在する世界のことやルールが知識として頭の中に存在していた。



 要がここに来る前の人生は幸せとは言えなかった。

 不条理をぶつけてくる会社や上司や部下・不毛な学生時代・不誠実な家族―

 そして最期は老人の暴走車事故に巻き込まれた。


 今まで踠き苦しみながらもやっと自分の立つ場所を決めて、それなりの安定した日常を送れるようになった矢先だった。アラフォーと言われる年代になって、やっと得られた平穏だった。

 その為、最期の最後に足掻きたくなった。

 もっと、現状に流されていかず、自分の人生を自分のためにつかい、「普通」に身を置いて終わりを迎えたかった、と。



「俺は死んだのか…」

 

 自身を確認するように声を出す。

 声、は出る。自分、は分かる。自分の姿、が分からない。形があるような無いような、かといって周りの空気に融けていくような薄い存在では無い。

【自分】に意識を向けてみる。何となく、生前の自分らしき身体が現れる。


「ははっ…こんな時まで思い浮かぶのはスーツ姿なのか・・・」

 

 泣き笑いのような声が出た。

 だが、おかげでより強く自分を認識した。特に拘りのない要にとって、つるしのスーツはどれも同じに見えていた。だが、なんとなく着ていたつもりでもお気に入りは有ったらしい。濃い紺に同色のストライプが入った、一見無地に見えるこれは確かに来ていた回数が多いものだった。

 

「さて、どうしたものかな。」


 誰もいないからこそ、声を出して自分自身で己の行動を確認する。

 自分が望む世界を創る、とはなんだろう。介入は出来ても自身が世界の一員として存在する訳ではないようだ。いや、自分が望めが可能なのか? そもそも自分は神的な位置づけなのか? 舞台をお膳立てするだけなのか?

 今までの人生での教訓により、辛いことはなるべく深く考えないようにする癖がついていた要ではあるが、リスク回避のための思考は疎かにしないという信念を持っていた。また、一人の時間が多かったためにソロで遊べるRPG系は好きだった。


 よく遊んでいたゲームの初期設定では、ある程度の選択肢が存在しており、その中から選べばよかった。だが、今真っ新な状態世界そのものを手渡されて、全てを自身が培った知識や経験や勘といったもの中から決めていかなければならない。決められた選択肢が存在しない事が、これほどまでに辛いものだとは予想も想像もしていなかった。

 思った以上に精神的な負担がかかる作業だと気が付いた要は、床もないのに胡坐をかいてみた。腰を落ち着けたらいい案が浮かぶような気がしたからだ。

 幸い、制限時間らしきものはなく、世界の設定を考え続ける限りは自身も存在し続けられるようだ。もし世界の創造を放棄するならば、この世界の卵というべき白い珠とともに自分も消えるだけのことだった。



「まず世界観だよなあ。剣と魔法のある世界は憧れるよなあ。それともいきなり日本の戦国時代なんてのも楽しそうだ。」


 つらつらと考え続ける。ありとあらゆる娯楽が溢れた日本に生まれ育ったからか、逆に薄く広い知識が邪魔をする。

 通っていた大学も特に興味のある専攻が有った訳ではない。早くあの家から出たいがために、手っ取り早く通えて家から遠いのが基準だったためだ。ゼミもそこそこ人気があり、テーマも資料が簡単に集められそうだという理由で現代の流通経済を取ったくらいだ。おかげで特にこれといった強みも特技も無く、想像力も人並み以下と自覚している。


 自己分析したところで要は頭を抱える。

〔なんて面白みの無い人間なんだ俺は。〕と、ため息をついたところで良い案が浮かぶわけでもなく。

 暫く、ああでもない こうでもない これも無理だ と独り言を呟き続ける。


  ふと、傍にアドバイザー的存在を創る事ができるのか? と疑問が湧いた。いや、アドバイスも欲しいが、なにより誰かに聞いてもらいたい。肯定してもらいたい、否定でもいい、なんなら相槌だけでもいい。自分以外の存在が欲しくなった。

 脳内に在る知識を総ざらいするが、残念ながらそれらしい項目がなかった。

 ならば、世界に知的生命体を創り、神的存在である自分と対話できる〈神子的な者〉が居ればいいのではないか、たとえ常に対話する事は無理かもしれないが、これでたった一人で存在し続ける寂しさも紛れるのは? と天啓ともいえる考えに思い至った。


 そこから連想的に、まず神という概念が理解できるレベルの知的生命体が必要であり、その造形も自分のような人型の方が馴染みが深いだろうな、となり、知的レベルも日本でいう義務教育辺りが最低ラインか? 信仰が必要だから集団も必要だ。なら村単位ではなく、国が必要だな。というように世界の骨格が決まっていく。

 そのうちに、宗教観の違いで戦争が起こるかもしれないのか。かといって一神教は日本人としてどうにも合わない。だが八百万にしてしまうと要の存在価値が無くなってしまうし・・・と思考のループに入ってきた。



 久しぶりの頭脳労働に疲れた要は、いっそ、生物の進化論そのものを見てみたいと思うようになってきた。

 生物学の詳しい知識も無ければ、進化論自体も単語と薄っすらとした概念しか持たないため、地球誕生から開始することには不安がありすぎる。ではどの辺りから始めるのがいいのか?

 原人といわれる人種からだと簡単すぎるだろうか。でもプランクトンからはハードルが高すぎる。恐竜から・・・そういえば同時期に原人も存在しただろうか。学校で習った以上のことは興味もなく調べなかったため、進化の時系列もよく分かっていない自分が情けない。


 時間の概念が無い空間で、ひたすら独り言を呟きながら考えを形にしていく。要はこの作業が割と好きだった。一人で時間を潰すことが多かった弊害でもあり、ある意味では特技とも言えた。たとえそれが周りから奇異な目で見られていたとしても。



 だが、さすがに自己の感覚的に数時間ものぶっ続け作業に疲れてきていた。三大欲は全く湧いてこないにも関わらず、だ。所謂ファンタジー系の物語的なチートといわれる能力は世界創造だけで、要本人の能力は生前のままのようだった。どうせなら、ずっと疲れない肉体や頭脳が欲しかったなと独り言ちる。


「話相手までじゃなくてもいいから、ペットみたいな存在が欲しいな・・・前例や見本も欲しいし。どうにか出来ないものかなあ。」


 ついには泣き言まで飛び出す始末だ。

 今まで、一人で過ごす事が多かったが、所詮集団の中の一人であった。周りには、害になるだけでなく無関心なその他大勢が存在していた中での一人だった。煩わしいと思いつつも、雑音の中に居る事は心強かったんだと再確認した。

 こんなにも完全な孤独は、終わってしまった人生の中で初めてと言っていい。要は本当の寂しさを今更感じる事となった。



 いつまでも、落ち込み続けても埒が明かないということに気が付いたのは、おそらく小一時間ほど経ったくらいだろうか。いい加減足元を見続けるのも飽きてきて、また世界の卵について考えていく。


「原人から始めるとして、そこにファンタジー要素を入れてもいいんだろうか? チート過ぎて進化論をないがしろにしてしまわないんだろうか。そこに神的な存在の俺が入る余地があるんだろうか?」


 どうにも要の中の現実的な常識とファンタジー要素の融合が上手くいかない。それは要の中に在るファンタジーがRPGに偏っているからなのか、ゲームはゲームとして非現実なものと割り切っている要の考え方からきているからなのか、はたまた独りという現実に少なからず打ちのめされているためか、今の要にはもう分からなかった。

 制限時間が存在しないことも理由の一つなのかもしれない。自分でキリを付けないと際限なく考え続けてしまう。

 時の流れが存在しないこの空間で、今までの社会人生活で染みついた時間に追われる感覚が抜けず、つい時計を気にしてしまう。腕時計をつける習慣がないため、スマホや壁掛け時計が無いことを理解しつつ、つい目で探してしまう。そんな自分にも呆れてしまう。


 あちこちに思考を飛ばしながら、やっぱり日本風の弥生時代くらいから始めてみるのが楽なのかなあと考えを固め始める。確か弥生時代は卑弥呼が存在したはずだったよな、と過ぎ去った小学生時代の歴史を思い出す。


 ついでに小学生時代の余計な記憶まで呼び戻してきてしまい、両手を膝の上で握りしめながら項垂れる。気持ちの切り替えが出来ず、つらつらと記憶を浮かび上がらせる。

 共働きの両親が、父親の会社の倒産を機に失職してしまい、再就職がなかなか叶わず家の中の空気が常にピリピリしていた。

 母親は家族を養うために気持ちのも余裕がなく、今まで仕事人間だった父親に家事が出来るわけでもない。また、環境が変わった事へのストレスからか自分の気持ちの内側に籠ってしまい、それを見て母親がストレスを溜めるという悪循環だった。

 要は一人っ子だったので、必然的に逃げ場はゲームへと向かっていく。

 そのため家族は皆バラバラの方向を向いて行ったのだった。

 気が付いたら、母親は家庭以外に安らぎを持ち、父親は再就職したものの通勤距離が今までより離れたのを理由に家にあまり居らず、そのうち母親と同様に外に安らぎを求めた。それでも要にとって、常にピリピリした空気が漂うより、自分の趣味に安心して没頭できる方が幸せだった。


「ダメだ・・・後ろ向きにしか考えが浮かばなくなった・・・このまま続けても不毛なだけなのはわかりきってるのになあ。」


 どうにか無理やりにでも気持ちを切り替えるために、日本史を記憶から呼び戻してくる。如何せん、歴史に関しては義務教育程度の知識しか持ち合わせていない。卑弥呼が居て・農耕が始まり・村落が作られ・定住という概念が出来てきた時代、くらいしか思い出せない。

 枠組みなんだから、そんなフワッとしたものでもいいのではないだろうか? と思い直し、そういえばと今から創る世界のルールについて考える。


 どこまで設定を創ったらいいんだろうか。創った世界で生きていくことになる人たちは、存在が現実化した瞬間から歴史を刻んでいく。では、それまでの歴史(かこ)はどうなっているのか。

 いきなり現れた生物が、己の過去の存在とのズレをどう受け入れていくのか、齟齬の無いように綿密に設計すべきなのか、深く考えるこむがここでも性格が思考を複雑にしていく。

 

 もう既に何時間考え続けていたのか、纏まらない思考では分からなくなってきた。時間の経過が計れないので、自分の疲れ具合から判断するに7〜8時間程度だろうか・・・ こんなに考え続けていられたのは何時ぶりだろうか。疲れた思考の流れるままに意思を飛ばす。大体普段は日常に追われ続けていて仕事のこと以外を考え続けること自体が出来ていなかったなと気が付く。


「仕様書に時間をかけすぎても無駄な気がしてきたな。幸い最悪なエラーさえ出なければ何度かはリトライできるようだしな。」


 気持ちを切り替える。腹も減らぬ、時間の流れさえはっきりしないこの空間では、作業の前段階にばかり時間を取りすぎても、性格上考えが纏まらないままドツボに嵌ってしまいそうだと過去を振り返る。

 早く、この独り言だけが響く空間に他の音が欲しいという、焦りに似た気持ちに追われる方が実は正しいのかもしれない。

 あんなにも他人の干渉が煩わしいとすら感じていたはずなのに、やはり本当の独りは寂しいのだとここに至ってやっと理解した。



 ここまでの考えをまとめた上で、どうしても最初からある程度の知的生命体が欲しいなと思い、ふとこの世界に設定を反映させるのはどうしたらいいのだろう、と基本的なことに思い至る。要の創りたい世界を落とし込むための媒体のようなものは、見えている範囲に存在してるように見えない。

 思わず世界の卵をじっと見続けてしまう。


           ----- ブゥン -----


 白い卵の少し上方に半透明のブラウザが立ち上がった。

 プログラム用のコマンドウインドのような、真っ白な画面だった。カーソルが左上にあり、要自身が入力するようになっているのだろうか。キーボードは見当たらないものの、生前の要がよく知っている仕様に見える。

 と、画面の近くにキーボードの配列に思える文字が浮かび上がる。ひたすら世界の骨格を書き出していけばいいのか、それともプログラミング言語のような専用のフォーマットがあるのかもしれないのか、いざ創る作業を目の前にして躊躇してしまう。だが、何事もやってみないと分からないと、恐る恐る文字を打ちこむためにキーボードもどきに指を滑らせていく。


「まずは、なんだろう。大枠というか設定だから・・・全人口がどれくらいで・・・農耕民族と狩猟民族が地域で住み分けていて・・・」


 今まで考えた世界の枠組みの素案を呟きながら、箇条書きのように打ち込んでいく。一度始めてしまえば、仕事の時と同じ感覚でスムーズに手が動いていく。

 フォーマットは特に無いようで、ひたすら考え付いた条件を書き出していく。

 


 結局、当初考えていたように、日本の弥生時代を参考にすることにした。

 文明を一から創りだす事に躊躇はするものの、参考になるものがない上に、はっきりとしたタブーも存在しない事は要の気を幾分かは楽にした。

 どうしても思い出せない部分や、要が気が付かない細かい事象等は、もう創り出した生き物たちに対処してもらうことにする。


 丸投げというなかれ。どれだけの細かい条件を書き連ねても、要の感触的には全く足りているように感じないのだ。

 仕事の時ならば、過去の文献や資料を持ち出してくれば何とかなった。また要が任される内容も、きちんと範囲が決まっていたので、割り当てられた事以外をする必要もなかった。

 今やっているのは、真っ白な紙に全て一から、それも仕様から決めていく作業である。基本的に他人と関わらず、独りでの作業が前提の部分的なものしかしてこなかった要にとっては、役職付きの人間が携わるであろうこの分野をやりきる自身が無くなってきていた。

 それでも任された以上は、何某かの実績を残したい気持ちが勝つ。


 農耕民族には、畑は自分たちで見つけて開墾からしてもらうようにするべきか、それとも初回特典ともいうべき恵を与えるべきか、どこまでならタブーになるのかのラインをどの分野にもっていくか、入力しつつ考え続ける。

 何十行と打ち込み続けていても一向に終わりが見えない作業だったが、なんとか大枠に関しては一通りのケリがつけられたような気がした。

 専門家でもない要の知識は、普段の生活の適当さも相まって偏りが酷かった。それでも、乏しい経験をフル活用して、なんとか毎日の生活を過ごしていける程度には整ったはずだとため息をひとつこぼす。

 

「この打ち込んだ条件は、どうしたら反映されるんだろうな。」


 さすがに手順くらいはマニュアルが欲しいと心の中で苦情を垂れ流す。なんとも不親切な創造法である。

 画面に直接タッチパネル式で操作出来るのかと試してみたが、何の反応もない。かといって、キーボードだけなのでカーソルの移動も限られた範囲のみである。せめてマウスが有ればもう少し操作しやすいのにと、また心の中で要は愚痴る。独り言も最初は口に出していたはずなのだが、応えるものがないこの空間では段々と分からなくなっていく。


       ------  ピッ ------


 という軽い電子音に続いて、ブラウザにポップアップウインドが立ち上がる。


      < 以上の条件で創造しますか? Y/N >


 どうやら思念で操作するらしい。雑念や疑問が残る状態では反応しないような設定なんだとアタリを付ける。


「yes. 何か不味い事が有れば、エラーが出る筈なんだろ?成るようになれ、だな。」



 一瞬卵が光を放ち、スッとブラウザが暗転する。そしてそのまま消えていく。何か条件を追加する時はどうしたらいいのだろうかと焦ったが、どうやら任意で呼び出せるようだ。

 再入力と念じると、ブラウザが再びフッと現れたので安心する。



 肝心の新しい世界はどうなってるんだろう、と意識を向ける。日本のデフォルトイメージとして浮かぶ田舎を基本に置き、記憶の底にある弥生時代に当てはめただけではあるが、特に混乱は無さそうだ。

 日本に合わせているから、四季も当然存在させる。稲作を主軸に置くために、ふんわりと東北のイメージを持たせる。関西出身の要は東北に行ったことも無く、本当に社会の授業で習ったようなイメージだけである。それでも何とかなっているようでホッと胸を撫で下ろす。


 世界を視る時は、要の任意での視点調節が可能なようだ。ドローンの様に空高くから一望も出来るし、そこに存在する人間と同じ目線でも眺める事が出来る。

 今は土手のような所から、木で出来た鍬のような物を使い、田に畝を作っている男を眺めている。

 簡単な農具や数種類の種等は最初から組み込んである。工夫を凝らすのは、これからのこの世界の住人の仕事だ。自然災害も余程の規模で無ければ自助努力で何とかしてもらう。


 とりあえず一年、これで様子を見ながら随時手直しをして、最終的には要の生きていた世界まで繁栄してもらう目論見だ。そのためにも、日本を模したこの国だけでは足りない。あと幾つの国を創ろうか。産業革命はまだ1000年くらい先の話だろうか。うまく回ればまだまだ時間はある。

 それよりも、要と対話できる何かが欲しい。早くその存在が現れて欲しい。なんとなくだが、それ は要が自ら創りだして世界へと送り込むのはタブーだと感じる。所謂超能力や神通力を持つ因子の保有者を創るのは大丈夫そうだった。なので祭祀にあたる血筋の人間も創った。が、意図的に、直接要と関わることが可能な存在は駄目なようだ。


「まあ、暫くは調整もあるから気忙しいし、種だけ蒔いて自然発生的に生まれてくれるのを待つしかないか。」


 こうして、要の新しい箱庭の歴史は始まったのだった。







 最初の数か月は天候に恵まれた。だが雨が少ない。雨の発生条件を考え直さなければいけなかった。

 飢饉までは行かなくとも、やはり弱い者は消えていった。これは創造時人口の15%に当たる。自然の摂理に委ねると決めた以上、覚悟をしたつもりではあった。が、目の当たりにすると、どうしても初期設定の不足についての後悔ばかり浮かんでくる。


「地形を変えるか?山や川が少ないのか。地球を基にしてるから、海は十分にあるはずなんだが…」


 いきなり山が現れても、生きてる生き物は混乱するだろう。火山を造り、活発化させて徐々に大きくしていけばいいのだろうか。確か西ノ島という海上火山が、流れ出した溶岩であっという間に大きくなっていった記憶が残っている。ある程度大きな山なら雪も積もるだろうし、その雪解け水から豊富に水を得られるようになるだろう。

 人口の減少については、考えてみれば老若男女を平均的に創っていた。従って、この時代の平均寿命が30に届くかどうかだったことを思えば、受け入れるべき事象なのだろう。むしろ、老年代を創りすぎたのかも知れない。要は認識不足を反省する。



 時間が経つにつれ、箱庭の生き物達が、生きているというだけの駒に見えてくる。なにかシミュレーションゲームをやっているような感覚に陥ってくる。

 もう、いっそゲームプレイヤーだと割り切った方が、要の気分的にも楽なのかもしれない。そう出来ないのは、自分が創り出したことからくる愛着なのか、死生観に定評のある日本人気質からくるのか、単純に要の性格なのか。

 

「まだ箱庭の暦で4ヶ月だし、今ここで考えすぎてもデータが少なすぎて判断し辛いな。せめて1年が終わってからにするしかないか。」


 口に出して気持ちを改める。ここのところ、心の中だけでは足りないと感じるときは、毎回こうするようにしている。付箋に書いてメモに残す事が出来ないための苦肉の策とも言える。しかし、これが思いのほか有効だと気付いてからは、意識してするようにしている。




 秋が過ぎ、それなりの収穫を得て冬を迎える。幸いあれ以降の目立った人口減少は無く、無事に越冬出来そうであった。

 村人から視認可能ギリギリの平地に山を造った。数度噴火させた為、村人達が恐慌に陥ったが、巫女の血筋の者たちが上手く収めたようだ。

 山肌にはたっぷりと雪が積もっている。これで来年の水は大丈夫かもしれない。治水はまあ、頑張ってもらうために道筋のみ示している。

 山のおかげか寒風の吹き込みは少ない。かわりに盆地のように冷え込みがきつい。この寒さでまた村人は減るだろうが、遺された者たちと新しく産まれる予定の命に希望を持つ。



 春がきた。芽吹きの季節は皆が活き活きと活動し始める。

 やはりこの冬を越せなかった者がそれなりに出た。

 対して、無事に新しく産まれた者は亡くした者の半分程度。成人出来るのはこの内の何割だろうか。一年で3割減が、はたしてタブーから来ているのか、自然に任せた要の箱庭の摂理なのか、未だにはっきりしない。

 それでも、村人達が新年を祝い、春を祝い、新しく増えた家族を祝う姿を見ると、要も嬉しく感じる。決して充実感は無いが、それでもここまで来れたという自己満足はある。


 また季節は巡る。


 4年ほど経った頃、異変が起こる。立て続けに天変地異に見舞われる。

 嵐になり、川が氾濫し、蝗害まで涌く。


「今までが順調過ぎたんだ。これはタブーでは無い。箱庭の調整力に違いない…!」


 要は血が滲むのも気が付かないくらいに唇を噛み締める。

 順調だったこの数年で、人口は元の設定の3倍近くまで増えていた。

 それに伴い、食糧難が近付いていた。

 この天災とその後の飢饉で2割程が消え、うまく復興出来ずに更に2割程度減った。人数が減った事により、食糧難は回避出来たとも言える。

 それでも、ピーク時の2/3は残った計算になる。復興次第では更に減るだろうが、元を割ることは無いだろうと安堵する。


「消えた森には新しく木を生やすとして、氾濫した川をどうしたら良いんだろう。下手に手を加えると後が困りそうだな…。蝗害は知識が無さ過ぎて手を出せないし。」


 結局、意思疎通出来ない今の状態では、村人達のする事を見守るしかない。巫女血筋の者に夢枕ででも立てないかと、試行錯誤してみたものの上手くいかず、寧ろタブーとばかりに血筋の者の数を減らす事になってしまった。



 数年がかりで復興と発展を進め、そしてまた天災で後退する。それでも、天災への対処が徐々に上手くなっていく。


「人間って強いな…。」


 見ているだけの要には眩しく映って仕方ない。


 こうして最初の村の出来栄えを確認した後、他の大陸に幾つかの村を造っていった。





   ーーーー..ホギャア ホギャア ...


 箱庭での暦で160年ほど経っただろうか。

 初めて、要の元に音が届いた。1番最初に創った村からだった。

 地上を覗きに行ってる時と同じ距離感で、そして意味のある音だった。

 要は期待した。この赤ん坊が成長すれば、これでやっと意思疎通が出来る。何もないこの空間から、僅かな時間であれ解放されると。


 だが、期待は早々に崩れた。その赤ん坊は、成長しても意思を要に一方通行で伝えるだけであった。要が意思を伝えようとしても、まるで通じていない。

 それでも、世代を重ねる事によって、要に近づける者が産まれる可能性に喜びを隠せない。


「いつか、ちゃんと会話出来るといいな。今でも村人達の要望はリアルタイムで聴こえてくる。今はこれでいいじゃないか。」



 その後、その村ではまた数世代を経て、疎通まで行かずとも何となく意思が伝わる程度の者が現れる事になる。

 だがその頃には、要も数多の村を造りあげており、調整や観察に忙しなくて対話を出来る者が居なくても気にならなくなっていた。


 1番最初に要が希望した通りに、村は大きくなり人々は発展の道を辿り、要の示したルール通りに文明を築いていく。

 それを視ているのが楽しくて、要はもう独りだと感じる事が無くなっていった。

 

 より良い生活を得る為に、新しい発見がなされる。そして発展していく。戦争は手っ取り早く発展する手段である、と何かの本で読んだ記憶があるが、要はなるべく戦争を避けたかった。

 その為、文明も緩やかにしか進まず、既に幾世紀経っていようとも、未だに牧歌的な長閑な世界が広がっている。


 それでも要は満足している。自分が文明の果ての利器によって死んだ事実に、どこか不満が有ったのだろう。だから、急な進化は持たせたくないと根底では常に思っていたのだろう。


 要の性格と相まって、その箱庭はゆっくりと続いていく。

 召喚()んだ側のもの達も驚くほど、その箱庭は続いていく。

 タブーらしき物も初期の数回程度という、数少ない成功例として、管理者の手本と看做された。



 要が、召喚()んだ者の一員に昇格し、箱庭の事実を知るのはまだ先の話である…

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