異世界転生
異世界転生。
それは、現世で冴えない主人公が、自身の死をきっかけに見ず知らずの異世界に飛ばされ、あれ俺また何かやっちゃいました?とか言いながらチート能力で無双するシリーズ。(偏見)
最終的には神を超越したり、概念世界の王になったりと自分で言っててもよく分からない存在に昇華していた。
この異世界転生もので最も重要なのは、チート能力である。この能力のおかげで、主人公は最終的によくわかんないおっかない存在に昇華してしまう。
冗談はさておき、このチート能力を得る方法は作品によって様々だ。
転生特典として与えられる初期付与型。
序盤でもの凄い経験値を得る早期成熟型。
徐々にチート能力を獲得していく継続的成長型などなど...
この紙を見るに、俺は初期付与型に当たるのではないかと思われる。ということは今の俺は何かしらの凄い力を持っているのではないか?
あれ、ちょっとテンション上がってきた!
どんな能力なんだろう?やっぱ異世界なら魔法とか使うのがいいなあ。
魔力量無制限、誰にも使えない禁忌魔法を操り、人類の敵をバッタバッタとなぎ倒す。女の子キャー!あれ、俺なんかやっちゃいました?w
とか馬鹿なことを考えていると、左の方の茂みがガサガサと揺れる。
何かと思って訝しげに見ていると、その辺りから金髪の少女が茂みをかき分けて現れた。
そう思ったのも束の間、その少女はこちらを見やると一目散に駆け寄ってくる。
「*+〇■※%▽□!!!」
え、なんだって?
と聞き返す間もなく少女は俺の横を走り去っていく。
なんだなんだと思っていると、今度はさっきのとは比べ物にならないほど大きなガサガサ音が茂みから鳴った。もうガサガサというか、細い木々が折れるバキバキとした音まで聞こえる。
(なんか、来る)
次の瞬間、3mはあろうかという巨大な獣が、少女の現れた辺りの茂みをブチ破って現れた。
(なんだよ...あれ)
およそ地球に居るはずのない生物がそこにいた。獣は全身を黒い毛で覆われれており、またそれよりも黒々しく禍々しいオーラをこれでもかと放っている。外見はおおよそオオカミのそれであるが、俺がテレビで見たことのあるオオカミとはなにもかもがかけ離れている。そしてなによりも、真っ黒な体躯の中で一際輝く獰猛な白い牙。そこからはあふれんばかりの涎が滴っており、すぐにでも動物の肉を食らおうという欲求が、初見の俺でも嫌というほど伝わってくる。
気づけば、腰が地に着いていた。
あまりにも絶望的な存在感。圧倒的な体格差。邪悪なオーラ。
その全てが本の字面だけで見たどの理不尽な敵よりも恐怖を感じさせた。
(いや、でも...)
そうだ、今の俺には今までの俺が持っていなかったものがある。
能力とかいうチート能力だ。
考えてみれば、物語の初めはいつもこんな感じだったじゃないか。
圧倒的な存在をあっさり倒し、自身の能力に目覚める。きっとこれもそんな物語の始まりの一節なのだ。
俺は立ち上がる。
仮初の勇気と打算的な思考を胸に、獣と相対する。
獣もこちらを敵として認識したようだ。それでいい。
次の瞬間、獣は己の敵目指して疾走する。
俺は右拳に力を込める。なんとなく、自分の拳がいつもより強く硬い印象を受けた。
(いける)
能力の詳細は分からないが、きっとすごい技が出るに違いない。
一方の獣の方は、速度を緩めず頭突きの体制に入る。
一撃で弱らせてから美味しく頂くのだろう。だが相手が悪かったな。
「こちとら転生したての、チート持ち異世界人なんだよっ!」
轟音。
二つの力が激突し激しい衝撃音が鳴る。
俺は、
空中で、雲間に光る太陽を見ていた。