友人たち
昼休み以降は特に何事もなく時間が過ぎ、気づけば放課後になっていた。
帰宅部で特に予定もない俺は手短に荷物をまとめて教室を出る。
「御家瀬ー」
不意に後ろから声がかかる。聴き馴染みの声に振り向くと、やはり予想通り昼休みに一緒に先輩に絡まれた桐生和希がいた。
「お前は大丈夫って言うけど、もし痛み引かないようならちゃんと病院行けよ?」
「分かってるって」
「あと今日はとにかく真っ直ぐ帰れ、な?」
「分かった分かった」
お前は俺の母ちゃんか。
桐生は昼休み俺が帰ってきてからずっとこんな感じだった。
5人兄弟の長男で、さらにサッカー部の次期主将候補ともあって責任感や仲間意識が強いのだろう。
「あと、今日はほんっと助かった。ありがとう」
「いやそれに関しては、お前が直ぐに先生連れてきてくれてこちらこそ助かったわ」
あの後クラスで聞いた話をまとめると、桐生は俺が絡まれてすぐに先生を呼びに行ってくれたらしい。
俺が桐生なら加勢するとかいう選択肢を取ってしまいそうだが、そうすると秋に控えた大会に影響が出る可能性がある。
俺は桐生がどれだけサッカーに懸けているのかを知っているし、桐生も俺がそれを知っていることを知っている。
暴力沙汰で大会に出られなくなった時、自身だけの責任なら全然良いが、俺まで負い目を感じる状況になったら話は別だと、そう考える奴なのだ。
そういう気遣いができる桐生には本当に尊敬している。
つい衝動で動いてしまう俺が情けない。見習わねば。
「良いってことよ。じゃあまたな」
「おう、またなー」
そう言うと桐生はエナメルバッグを担ぎなおし、俺の行く昇降口につながる階段とは逆の、グラウンドに繋がる階段の方へ消えていった。
さて俺も帰るか。
真っ直ぐ帰れよーと言われるとちょっと寄り道したくなるのが子供心である。
あいつの子供じゃねーけど。
俺も大して重くない学生鞄を担ぎ直すと、今日はなに買い食いすっかなーとか考えながら昇降口に向かう。
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そうだ、ドーナツにしよう。
と古都を思い出させるようなフレーズチックに思いついた頃には、昇降口に着いていた。
っ」
ドーナツといってもかなりの種類がある。甘いもの系からご飯寄りなものまで様々だ。なんならドーナツどころか肉まんとかまで売っていたりする。
さいよっ」
やはりフレンチクルーラーは外せないか?でも中にクリーム入ったヤツも捨てがたい。流石に運動もしないのに甘いの2つはギルティか...?
「待ちなさいっていってるでしょ!」
途端ガシッと左腕を掴まれ我に帰る。声の主を見やると、幼なじみで我がクラスの委員長様の、風祭裕香が不機嫌そうにこちらを見ていた。
というより睨まれてますね、はい。