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偽の真相

ミルヒは目を見開いている。

「ありがとう、リチャード。えぇ、全て思い出しました。あの魔術師は死んだのね。」

ミルヒ達、小部屋に閉じ込められていた使用人達は、一ヶ所に集められてリチャードから話を聞いた。

彼は、今まで仕えていたお嬢様は偽物であったと語った。

語るリチャードの後ろで優雅な所作で紅茶を嗜んでいるオリビアもとい、ブランカに皆が目を白黒させている。

では、今まで令嬢だと思っていたのは誰だったのかとの問いに、リチャードは、あの令嬢が、実は後見人とされていた伯爵代理とその愛人の子供であること、彼等は公爵家の乗っ取りを企て、公爵家の方々を事故に見せかけ殺し、公爵令嬢の後見人となった公爵の妹君である伯爵も殺した容疑がかかっていること。ブランカがまだ赤ん坊で、事故による大怪我を負ったと見せかけて自分の娘をブランカに仕立てあげたこと。

しかし、所詮偽物は偽物。ブランカの正体が婚約者である第三王子を通じて明かされ、これはまずいと悟った伯爵代理一家は、揃って国外へ脱出しようとして、本物の令嬢であるブランカを襲い、真実に辿り着いた前公爵から命じられやって来たリチャード等をも襲った。しかし、その途中であの男のお抱え魔術師がミスを犯し、ゴブリンの巣を自分達が避難する前に転移させてしまい、屋敷にゴブリンが現れた。

その危機にいち早く気付き屋敷に来てくれたのが騎士団長だった。

(まぁ、多少のツッコミ所はあるけど、よろしくてよ。あの魔術師にゴブリンの巣を転移させるだけの力量はないでしょうけど。)

「ひ、避難する前って、あの人達は、自分等が避難した後に、屋敷をゴブリンに襲わせるつもりだったの!」

リチャードの説明に震え上がったのは娘達だ。

「そうだ。ゴブリンは人間を喰い、若い娘は仲間を生むための道具にされる。」

偽物令嬢一家の企みを知り憤る人々。

「で、どうなったんだ、あいつらは。」

「下男と魔術師は死んだ。偽物令嬢は襲われたが騎士団長が助けた。皆、命はある。」

一家への呪詛が飛ぶ。

リチャードの話を聞きながらブランカは当然だなと思った。

「あ、あのいけすかない魔術師が死んだからオリビア、ううん、ブランカお嬢様の記憶が戻ったってこと?」

鼻を啜りながらミルヒが確認する。

「そうだ。お嬢様はオリビアとして生きながら、偽物達に虐待を受けて育ってこられた。数年前から大旦那様方が、ブランカお嬢様の違和感に調査を始められアヤツ等の悪事が露呈した。」

少しばかりのゴブリンは残していた。ゴブリンキングを倒した為、残党は大したことのない連中だ。しかし、ゴブリンは一匹でも取り逃すと復讐と言う力を得て人に対してかなり厄介な存在となる。

今回は、イバラキと言う鬼姫配下の実力者が己の眷族を用いて巣の中に潜むゴブリンは殲滅しているので安心だが、一体誰が倒したのかとなると騎士団長だけでは無理がある。そこで活躍したのが、お抱え魔術師である。彼の遺体はゴブリンの巣の中心部に置いたらしい。

(どれだけ凄腕の魔術師に仕立てあげるのかしら。)

と思わないでもないが良しとした。

説明を終えたリチャードの元に一人の娘がやって来て少し話をした後鬼姫の元に駆けてきた。

「よ、ヨアンナさん。」

恍惚とした表情で鬼姫を見つめる娘。

娘はブランカの前で膝を折り頭を垂れた。

「こうして、姫様に再び仕えることがデキテっぐほっ!」

ヨアンナの体がぶっ飛ぶ。

「サ、サンディさん!」

同じ部屋にいた使用人達が驚く。

ヨアンナはサンディに引き摺られるように部屋から出された。

「どうやら、ヨアンナはゴブリンの血を付けていたようです。」

魔物の体液をつけた場合何らかの障害がでるとの噂だった。ヨアンナの行動がおかしかった原因にしたようだ。

とそこにノックがされた。

ひょっこりと顔を出したのは若い騎士のようだった。

「あの、よろしいでしょうか。個別に騎士団の事情聴取に答えて頂きたいのですが。」

「では、お嬢様は、怪我の手当てと湯浴み、お着替えを致しましてから参ります。」

サンディと元に戻った風のヨアンナが立っていた。

有無を言わさぬ雰囲気に若い騎士は下がっていった。

リチャードは使用人達を連れて部屋を出ていく。

ミルヒが不安そうにブランカを見たため微笑んでおいた。


部屋には、ブランカ、サンディ、ヨアンナの3人だけとなった。

「橋姫……。」

少し呆れた口調の鬼姫ブランカに、平身低頭のヨアンナ。

「ひひひ姫様と再び会い見舞えたことに舞い上がり、ヨヨヨヨアンナ嬢の性格を無視しておりました。以後十分に気を付けた上で姫様のお世話をしとうございますれば、何卒!」

「かたい、ながい、重い!」

サンディが頭を叩く。

「後鬼様、酷いっ!」

「今はいいが、次、皆の前でその名を呼ぶことは許さぬ。見よ、姫様の顔を。」

鬼姫ブランカは”無”だった。

「…とにかく、橋姫は落ち着いて。ヨアンナさんは、私に優しくしてくれた方よ。あの方が私の事情に巻き込まれて死んでしまったとなれば、あの子は悲しむわ。毒の影響で色々見た目にも障害が出ていたけれど、大丈夫そうね。貴女は、ヨアンナが歩むはずだった道を進むの。宜しくて?」

彼等に体を明け渡した者達は忌の際に、代わりに生きる者に全てを託す。

亡くなったリチャードとサンディもこれからの人生を代わりに歩むことになった鬼姫の眷族である前鬼・後鬼夫婦に思いを託している。

橋姫がヨアンナを選んだのは単に、彼女ならブランカの側に居られると思ったからだが、仕事に誇りを持ち、偽物令嬢一家に逆らいながらもブランカを庇っていたのは人としての信念を持っていたからだ。

「私のお祖父様とお祖母様が、ブランカのことを調べ始めたのは、ヨアンナがリチャード夫妻に進言してくれたから。何故、公爵令嬢が一介の下女でしかない私に虐待行為を行うのか疑問に思ってくれたのもヨアンナが最初。ヨアンナの考え、思いを消すのは許さなくてよ。」

橋姫、もといヨアンナは深く頭を下げた。



後、一時間後にアップ。

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