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時渡りの鬼姫と少女達

以前短編としてあげていたやつ~です。

「退屈なこと…。」

一言呟いて欠伸を飲み込む。

小さな呟きであったが目の前で講義を行っていた教師の眉間にシワがよった。

最前列の席が与えられていたので聞こえてしまったようだ。

彼女は別にこの学校に来るつもりなどなかった。家から追い出されるように学園に併設する寄宿舎に入ったのはこの間のこと。

そして、彼女がこの世界の少女として存在していることに気付いたのも時を同じくついこの間である。


彼女は、ある時から、時や空間を越え自分とは違う少女に入っていることを繰り返すようになった。

神からの依頼と言う例のめんどくさい事案のことだ。

彼女が入る少女は決まって家族運に恵まれていない。

大抵が虐げられてるのだ。

それもまた神の情報通り。

ただ鬼姫が依代としたオーレリィ、いやブランカよりはマシな境遇ではあった。

生きることを諦めた時、少女は深い眠りのようなものに陥り、代わりに彼女の魂魄が強制的に入るのだ。

初めて経験した時は戸惑いと怒りで虐げていた者達に少々悪夢を突き付けてしまったのは、神からの依頼をすっかり忘れてしまっていたからだ。

其なりに幸せで、共に時と空間を越えてやってきた仲間と暮らし、愛する人も居た。なのに、突然、魂魄だけが、ふらっと旅に出るように世界を渡るようになってしまった。神の依頼を思い出したのは訳も分からす大暴れして、今世に戻った後だ。

賢明なる旦那様であるジオンの指摘だった。

ある程度したら、ジオンの世界に戻るので焦ったのは渡りを三度ほど経験した頃か。五度目ともなるとすっかり慣れて、渡った世界での自分の役割とやらをこなしてさっさと帰ることにしている。

かといって与えられた役割と言うのは神の愛し子、女神の散らばった魂魄の欠片を宿す者を本人となって救うこと。自分が去った後に元に戻り契約違反だとか神に言われるのも癪だから、深い眠りに陥り、鬼姫の魂魄に甘え、ことなかれ主義に走ろうとした(=女神)の魂魄を叩き起こし、弱っちい根性をスパルタで鍛え直してみた。

七度目からは、元の世界での仲間が迎えに来てくれるようになった。

なんでも彼女が居なくなると大きな門が現れるのだそうで開かない門が開く時、彼女が扉の向こうにいるらしい。

残された彼等も彼女の愛すべき旦那様も五度目頃から慣れたと言ってたし、余りにも遅ければ、旦那様のことだ門を蹴破って迎えに来るだろう。

そんな風に考えている彼女は眠ってしまった少女から情報を引き出し、少女の置かれている立場に苛立った。

(名前は、レティシア、奇遇ね……。性格はまるで違うけれど。)

少女の父親は宰相を勤めており、一年の殆どを与えられた王城の部屋で過ごしているらしい。前妻との間に生まれた少女を愛しているのかは分からないが放置である。

後妻に入った女は連れ子の兄妹を優先し、これ見よがしに少女の地位を奪っていった。彼女の暮らす部屋も気付けば使われていない端の方に追いやられ、彼女を主として支えていた使用人は辞めさせられることはなかったが、領地の屋敷へと戻された。宰相である父親に訴えたようだが梨の礫だったらしい。

新しく義母が雇った家令や使用人達の態度は悪く、質の悪い物語の端役のようだった。公爵令嬢としての教育のため雇われた家庭教師も何処と無く態度が悪く、王立魔法学園の試験に合格した時には驚かれたと言う。因みに同い年の義弟は試験に不合格となり、裏で色々していたようだが、父の威光は教育の場には届かなかったようで、1ランク下の学園に入学した。

その学園では、少女が合格した学園への編入試験が毎月行われているのでそれに受かるように励めと父の手紙が送られてきたと義母が喚いていたので少女は学園で義弟に煩わされることがないと知り安堵した。

けれど、優秀な平民や低位貴族で資金に乏しい者が入る寄宿舎に入れられるとは思わなかったらしい。しかも、扱いは悪く、とても公爵令嬢だとは思われず、家族に愛されていない『残念令嬢』等と言う異名まで付けられていた。

学園の生徒が着用する規定の制服に関しても貴族令嬢なら誰しもが行っているリメイクを何一つ行っておらず、公爵令嬢でありながら恥ずかしいと下位の貴族令嬢らにマウントを取られている。

そんな環境に我慢しながら耐えていたのは父親に恥をかかせてはいけないと考えていたからだ。幼き日に渡された母の形見。愛する亡き妻への求婚の際に送られたものはシンプルでそれ程高価ではないため義母妹には奪われなかった。これを直接渡された時に父親は確かに少女を抱きしめ共に生きていこうと言っていた。

だから頑張って耐えて、王族や他の高位貴族の成績を越えない程度に成績をキープしてきたのだが、少女の中に入った彼女には関係なかった。

まず、魔法を基礎に展開する魔術の効率化に対する授業でまどろっこしい教諭の持論を論破したり、実施試験で見たこともないような魔術を展開し、上位種の魔物を召喚したりした。好き勝手に暴れる少女に対して学園は保護者を呼び出したが、その席に現れた義母とっては晴天の霹靂、大人しく、内気、義母である自分に逆らうこともなかったあの女の娘が問題を起こしたからだ。

ほら見たことか、やはり、自分の息子の方が優秀だったのだと言ってやろうと意気込んだが、教師からは、優秀過ぎて、教師が手を焼いている卒業資格を与えるので、魔法技術省への入省を親からも薦めて欲しいと言うものだった。

これ以上令嬢が学園にいると色々壊されて大変なことにぬりそうだと。

「私は別に、その何たら省に入ってやっても良いが、となると公爵家の領主として二足のわらじはめんどくさい。この娘とて望んでおらぬだろう。領地経営と言うやつは、片手間に行えるものでもあるまい。現に宰相である私の父親とやらも公爵家当主ではあるが、母上が身罷られてからは、実質経営を任されているのは祖父と叔父上だ。魔法技術省に入るなら婿を探さねばなるまい。」

彼女の言葉に怒りを爆発させたのは義母だった。

「な、何を言ってるの!公爵家はミハエルと言う後取りがいるわ!」

その言葉に彼女も学園長も目を丸くする。

「何よ、」

「高位貴族の後取りは、その一族の血を一滴でも引いた者でなくてはならない。」

「えっ?」

「アレは、貴殿の連れ子で我が公爵家の血筋ではないため後取りにはなれん。」

口を開けたまま固まる義母。

「例外は、この学園に入り、在学中3年間を成績10位以内をキープし続ける成績優秀者であることだが、アレはこの学園の生徒ではないし、今年度の試験は数日前に終了し3年間と言うノルマを達成出来ていない、なので例外にも該当しない。」

淡々と言う彼女に口をパクパクする義母。

その部屋に勢いよく扉を開けて入ってきた男がいた。

この国の宰相で少女の父親である。



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