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オリビアとミルヒ

足元に猫の小鬼がすり寄ってきた。

鬼姫ブランカはその内の一匹を抱き上げる。他の小鬼猫から不満の声が上がったが鬼姫ブランカはスルッと無視した。

『大勢の人間達が門を越えました。』

気配を探り、20名程の団体が門を開けようとしていることが分かり短息した。

「時間切れね、ほんの少しだけど屋敷内の時間を止めるから皆効率良く動くのよ、」

数匹の猫がにゃーんと鳴いた。

鬼姫の衣装が豪奢なものから血塗れのワンピースに変わる。

「わたくしの復活記念として、私に対する感情は記憶に残してあげましょう。よろしくて?あなた方が恐れていたのは、このゴブリンキング。わたくし達ではない。広い屋敷の敷地内の何処かに小鬼が巣を作り、この屋敷は襲撃された。」

鬼姫の言葉を遮るように声がかかる。

「姫様。自ら動かれずとも我らが見事動いてみせましょうぞ。」

現れたのは一組の夫婦。

ニコニコと穏やかな微笑みを浮かべているが白いはずの彼等のシャツやエプロンは血飛沫で染まっていた。

「よかったわ、生きていて。」

ブランカを何かと気遣い、しかも、偽物一家が逆らえなかったのが本家から時折偵察に来ていたこの夫婦だ。オリビアが本物の令嬢とは気付いては無かったようだが、本家から来たと言うことで偽物令嬢一家も強く出られない存在だった。

常駐ではなかったが、ブランカが家庭教師以外で信頼していた人物。彼等は頭は切れるが、普通の人間だ。使用人の棟を強襲した下男と魔術師に殺されたかと思っていた。ブランカは彼等を巻き込んだとかなり悔やんでいた。

「わたくしは、恩には恩を。仇には仇を返すのを心情としているわ。リチャードとサンディには、お世話になったから、お前達の魂を以て、彼等の家族を守り育てなさい。」

代々公爵家に仕えてきた一族の出である。夫婦の親や子供達を悲しませてはならない。エントランスに倒れている偽物令嬢一家に向けて呟いた。

リチャードは、床に座り込んでいる者達を前に立ち手を広げた。その動作はこれから演劇か独演会を開く俳優のように注目を浴びた。

エントランスの人々は一瞬、ガクリと体の力を抜いた後、虚ろな目をしたまま立ち上がりかつての主人の元へと集まった。

「眠っていた人達を起こして、ゴブリンキングの……、」

指示を出す声を背に鬼姫は元の部屋へと戻る。殺されたのは、偽物令嬢の部屋だった。呼び出しを受け半ば強引に連れてこられていた。

途中お茶のワゴンを押している青年に出会う。

「虐げられた令嬢にお茶はおかしいですから、片付けて参ります。」

ニッコリと穏やかに笑う。

鬼姫は部屋に入り絨毯に広がる血の跡を目にして考えた。

「これだけ血を流していたら生きているのが不思議か、少し片付けましょ。」

すいっと手を上げると絨毯から血液が浮かび上がり鶏卵大の球体を形成した。鬼姫は血の球体を手に取ると胸に押し当て自身の中に吸収させ、その床にしゃがみこんだ。

パタパタと廊下を走る音。

「オリビア!」

少女を探す声が聞こえた。

あれは、下女仲間、先輩のミルヒだと鬼姫は思った。


幼い頃からオリビアとよばれていたブランカは、彼女自身も自分の名前はオリビアだと思っていた。

それでも、偽物令嬢一家から毎日のように“お前の幸せは自分の為にある。お前のような薄汚い者が高位貴族の令嬢であるはずがない。お前の幸せは私に奪われ続ける”と言われ続け何となく自分の出生の秘密を悟ったが普段接している使用人達には告げることが出来なかった。鬼姫の力があればお抱え魔術師の施した術など一瞬で解くことが出来たが、自分の正体を告げた所で何も変わらない、ヨアンナやたまに訪れるリチャード夫妻が優しいから、それで良いと諦めていたため、鬼姫も力を使わなかった。

下女の先輩であるミルヒは、普段なら令嬢であるブランカの部屋に来ることなど許されないが、緊急事態が起こる前に後輩がいつものようにお嬢様に呼び出され連れていかれたのを思い出し部屋を飛び出したのだ。お嬢様からの呼び出しに答えて戻ってきた時のオリビアは怪我をしているのが常だった。令嬢の部屋の扉を開くのも勇気が要っただろうに、ミルヒは飛び込んできた。部屋にちょこんと座っているブランカを見つけてホッとしたのも束の間、首元を押さえて服も血で汚れているのに気付き、抱き付くのを躊躇った。

「だ、大丈夫?」

鬼姫ブランカは、変わらず優しいミルヒに微笑んだ。

「……えぇ。傷は浅いわ。リチャードさんとサンディさんも切られてたの、無事かしら。」

オリビアの言葉遣いに違和感を感じながらも流れる涙を止めることなくミルヒは頷く。

「ごめんよ、お嬢様があんたを、よ、呼び出し、た時、嫌な予感はあったんだ、なのに、私ら全員閉じ込めれちまって。」

ぐずぐずと泣くミルヒ。ブランカは血で汚れた手できつく握られているミルヒの荒れた手に手を重ねた。

「ヨアンナさんは?」

ミルヒが首を振る。

「分かんないよ、今屋敷はてんやわんやだ。」

鬼姫の脳裏に倒れたヨアンナが映る。しかし、彼女も直に甦るだろうと確信した。彼女の体に受肉しようとしている眷族がいたからだ。

「でも、それでよかったのよ、ゴブリンの群れが襲ってきたのでしょ?」

「うん、うん、ゴブリンの巣が出来てたんだって、でも、かの有名な騎士団長様が駆けつけて下さって皆助かったの。はっ!オリビアの怪我はゴブリンに?やだっ!早く聖水をかけなきゃ!」

ゴブリンなどの魔物によって負わされた傷は聖水で洗うのが鉄則だ。

「落ち着いてミルヒ。わたくしの怪我はゴブリンによるものではないの。」

ミルヒが瞬きをする。

「その辺りのことは、私が説明しよう。」

「リチャードさん!サンデイさんも酷い怪我……。」

2人はミルヒの前を通り過ぎミルヒの言うオリビアに手を貸した。

「ご無事で、何よりです。ブランカお嬢様。」

リチャードの言葉にミルヒは大きな瞳を更に大きくした。


後、一時間後にアップ。

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