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側妃の独白①

どうして、こんなことになったのだろう。

扉の向こうで泣きわめく娘の声。

遠ざかる声に両手で耳を塞ぐ。

愚かだった母を許して。

ラウラ様も、ナディア様もそして、ラインハルト陛下もきっと、あの子を立派に育ててくれる。

手遅れに近い、甘やかしたあの子は、私のエゴの犠牲者だ。

実家からの命に逆らうには、あの子を愚か者に育てるしかなかった。陛下の血を引いてるあの子は学園では優秀だと聞いている。ただ、城での生活では、優秀な義兄達と比べられて卑屈になってしまった。


リヴェル侯爵家の長女として生まれた私は、家を繁栄させるためだけの駒だった。

魔術卿と呼ばれるほどに優秀な魔術の使い手であった先祖に比べ父は其ほど優秀な魔術の使い手ではなかった。それまで世襲のように就任していた魔法省(魔法技術省)のトップには就けず、プライドの高い父はその鬱憤を家族で晴らすような人だった。

母を選んだのも魔力保有量が多いと言う理由であると直に聞いた。政略に間違いない二人だったが、母は、同腹の兄にも優しい人だった。後継者であるはずの兄は魔力保有量が多く、父の期待を背負っていたが、出世欲がなく、また父との反発が強かった。頭の良い兄は、王家を巻き込んで、父の許しもなくロイエンタール辺境領の騎士団に入隊してしまった。

父は、当初兄が何処に出奔したか知らなかった。知っていたのは母と私だけだ。後継者としてかなり厳しく育てられ、虐待にも思える父からの暴力を間近で見ていた私と母は違う道を見つけた兄の幸せを喜んだ。

当時、皇太子の側近候補だった兄の脱落は、父にとって自尊心を傷付けるものだった。

私は、父の思いなど他人事で、その頃、学園の先輩であるウルベルト・ロイヒシュタイン公爵令息に恋焦がれていた。優しく、紳士で剣も魔術の腕前も素晴らしい人だった。爵位的にも私の結婚相手として申し分なく、私は何度も父に婚約について打診をした。父は、公爵ではなく、王家に嫁ぐよう、ラインハルト殿下の心を手に入れろと命じてきた。私はウルベルト様が好きだから嫌だと、ロイヒシュタイン公爵家に婚約の打診をしてほしいと懇願した。ただでさえ兄のことで苛ついていた父は初めて私に手を上げた。

今まで人から叩かれたことも、蹴られたこともなかった私は気絶するまで父からの暴力を受けた。泣きながら止めてと懇願する母の声に気付いたが意識は深く飲まれていった。

私が好きなのはウルベルト様であって、殿下ではない。兄の親友でもあったウルベルト様は我が家の歪な事情を知っていて殿下の婚約者候補として王城に身をおいてはどうだと提案してくれた。けれどその気遣いは、ウルベルト様を慕う私には酷なことだ、彼が手に入らないのであれば、修道院に入り、殿下の婚約者候補も辞す構えであると告げた。その頃には、ウルベルト様には既に愛する方がいたから、内心彼のことは諦めていた。だからと言って殿下のパートナーなどになってしまえば、父の影響力が強まってしまう。父の力を削ぎ、兄が安心して家に戻ってくれるようにするには、どうすれば良いか、私はウルベルト様と婚約者となったリオニー様に打ち明けた。

ウルベルト様にしつこく付きまとう悪女となることを。

ウルベルト様もリオニー様も最初は反対していたけど、私の修道院へいくと言う決意の強さに折れてくれた。

母をあの屋敷に一人残していくことは気がかりだけど、聡明なる王家の方々がいつか父を抑え兄に爵位を与えて下さる。そう思っていた。


しかし、欲にまみれた父親の思惑は斜め上をいくものだった。


あれは、殿下とラウラ様の婚約発表の日。私は選ばれなかったことで父から折檻を受け、回復薬だと飲まされた薬に裏があるなんて思いもしていなかった。吐き出すことも出来ない薬が解けたとき、私は体の自由を失っていた。


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