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レティシアとグレン

2022/2/28加筆訂正

呪う相手を間違い、グレンを呪った魔女は幾ばくかの命を散らした。愛する男の元に行ったのだろうと穏やかな顔を見て魔女仲間は思った。その死が呪詛返しによるものだとは思えないほど穏やかな死であった。

一方、サキュラは皮膚の焼ける痛みにのたうち回った。生徒会メンバーの目の前でのことだった。癒しの魔法が追い付かないほどの速度で全身が焼き爛れていった。

呪詛返しの効果を確かめたかったレティシアが、わざわざ生徒会室に正式にお断りに訪れた際に呪詛返しは行われた。レティシアの呪詛返しは、目には目を歯には歯を第一に行われる。諸悪の権現が聖女であると分かっていたからこそ、効果に差が出た。

サキュラは、直ちに神殿に送られたが、二度と学園には戻って来なかった。2ヶ月後には、神殿からサキュラの死が伝えられたが、悲しむのはデイビス王子と生徒会メンバーの一部だけで概ね教会の評判は堕ちた。

「にしても、聖女って、次から次へと涌き出るるのね、」

サキュラの死と共にもたらされたのは、新たな聖女の誕生だった。サキュラより、光属性の魔力が多く、寒村出身で慈悲深く、評判もサキュラとは雲泥の差らしい。教会は多額の寄付を寒村に与え、聖女の身柄を預かった。

聖女は頭も良く、学園に通えるほどの知識をあっという間に習得し、実力で学園に転入してくるらしい。

「出来過ぎた話よね。まぁ、此方に構わないなら放置しておくけれど、あのバカ王子がコロッとやられそう……。」

この世界の聖女なる者の力は知れた。紅葉の眷族でも問題なく滅することが出来るだろう。

(姫が健やかに過ごせるよう、新たな聖女の力を確かめておくか。……にしても、どうして向こうの呪いが此方にあるのかしら。穴から、流れてきた?………あの穴、随分前から存在していると聞いたわ。姫と旦那様、我らが落ちた穴と此方の穴が、繋がっていた?………我等が安住の地となりえるのかしら、この世界は。)

グレンの呪いを解き、彼からの解放が叶うと思っていたレティシアは、呪いの解けた彼を見て、唖然とした。自分の印が体に刻まれているのが分かったからだ。

レティシアは、どうだったか分からないが、紅葉は面食いで、美しいものに弱い。

まずは、彼に掛けられた呪いに心を奪われた。複雑怪奇、でありながら、艶麗繊巧な呪い。細い絹糸の様に絡まった呪いは想像通り美しい黒いレースの布に織り上がった。

過去を紐解いても、これ程に美しい呪いはなかったと紅葉は思った。呪いへの恋とも言える感情は呪われた者へも所有印を付ける結果となってしまった。

(彼が私にみせる好意は、所有印のせいね、悪いことをしたわ。彼の運命をねじ曲げてしまった。)

ふと浮かぶ姫の顔。姫は、他人の心を許可なく縛るような術は好まない。人たらしであることを自覚していない姫は、ことある度に我々眷族に自由な選択をさせる。そんな姫が心から望むのは旦那様だけ。旦那様は、姫を上回る人たらしだが、ある意味、性質は悪い。天然か偽造かの区別が付きにくい。姫様に惚れて人ならざる者への進化を遂げたのは、果たして姫のためだったのか。いや、大方は姫のためだっただろう。しかし、彼は、選択の場で人として暮らしていた世界での妻、地位をあっさり捨てた。

もしかして、この世界に落とされたのは、旦那様の企みか?紅葉は自分の中にある考えに頭を振る。

(このようなことは、前鬼や八瀬辺りが既に考えていることか。)

そろそろ、姫の休暇も終わる。今は、学園での新しい生活が始まることだけに集中しよう。レティシアは気持ちを切り替えた。


目の前の男を見る。

男にしては、やや女性っぽい顔は祖先にエルフが関わっているからだそうだ。エルフとの関わりがあったのは穴が出来る前のことらしく、隔世遺伝だと彼は言った。

彼の家族はそれなりに麗しい容姿をしていたらしいが、彼ほどではない。自分が面食いだから、彼が未来も側にいてくれるのは嬉しいが所有印のせいだと思うと複雑で、レティシアは正直に打ち明けた。

「うーん、でも、君がこの屋敷に現れて、私を見ても怖れなかったことは、心に刻まれたからね、その時点で私は君を好いていたと思うよ。」


将来有望な彼は、在学中に学園の卒業資格を得ていた。サキュラも鬱陶しかったし、第4王子からも離れたかったのでちょうどよいと思っていたが、手続きに来ていた時に呪われたのだった。

「本当は、レティシアと領地でのんびり過ごしたいんだけど、」

チラリと庭を見ると大きな犬が寝ていた。

「あれのせいで、王立魔獣騎士団へって勧誘されてるのでしたっけ?」

犬はフェンリルと言う知恵のある賢い上位魔獣だ。

「森で怪我したフィルを薬草と魔術で助けたのが随分前で、学園に入るときに姿を見せて、なかば無理矢理契約を結ばされた。呪いに掛かってからは姿を見てなかったんだけど。」

魔獣と契約出来る者は限られている。普通のテイマーと言うのではなく、ちゃんとした教育を受けた者でないと危険だからだ。

そのため、魔獣騎士になるために人々は、ロイエンタール辺境伯領にある学園を目指す。ただの武官、文官を目指すなら、何処の学園に入っても大丈夫だが、魔獣のことを学ぶなら辺境伯領でなくては難しい。

だが、唯一例外がある。それは、魔獣の方から契約を持ちかけられ結んだ場合だ。グレンの場合は迷惑にもその例外に含まれ、呪いが解けてからと言うもの、魔獣騎士団からの勧誘が後を立たなかった。

「断りのために王城を訪れたら、クロノス様に気に入られてしまったのよね。」

一段と声が低くなるレティシア。

(グレンが私の婚約者だと知って面白がってるのが腹立つ!)

グレンは、好ましい性格をしている。頭もよく、それなりにずる賢いところなんか、鬼に好かれる条件だ。

「クロノス様が、あんなに気さくで面白い御仁だとはね。」

「(あれは、ただの脳筋。)で、騎士団に入るの?」

「訓練には参加しようかな、うちは、魔獣の嫌いな薬草の産地だけど、この前みたく大穴から変なのが出てきたらそんなの関係なく大変だろう?せめて、我が領地と君くらいは守りたいしね。」

この人間は面白い。

今後もちょっかい出してくるだろう仲間の対応に頭を悩ませることになるだろう。


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