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レティシア

2022/2/28加筆訂正

「あぁ~、なんて美しい。」

彼女の指先がグレンを撫でた箇所から黒い糸が生まれ複雑な構図を編んでいく。

「この糸で紡いだものなら、姫様の美しいお身体を纏うに相応しい。」

目の前に現れた糸が紡がれ、一枚の美しい布が出来上がっていくのをただ見つめる。

「これが………呪い?」

オーケストラの指揮者のように手を振るレティシア。

恍惚とした表情に酔っていたレティシアが言葉に反応した。

「そう、これが呪い。今回は糸に加工してみましたの。玉の時もあれば、人形の時もあるわ。その時々で呪いをその綿密さによって顕現させる。それが私の力。さぁ、どう?」

はっとして、自身の手を見る。包帯で覆われていたはずの手。いつも感じていたジリジリとした痛みが消えていた。慌てて包帯を取ると人の手が見えた。自身が思うように指が曲がり、伸びた。

どんどん紡がれていく布に比例して体を蝕む苦痛が引いていく。一歩歩く度、痛みが走り、屋敷内すら歩くのが出来なくなっていた、座ることすら、短時間しか持たない程の痛みだったはずだ。その痛みが消えていると感覚で分かり震えた。

寝台の上で死を待つしかないと自分を呪った痛みがない。

「腕の次は、足。足の次は頭、そして、体。貴方に掛けられた呪いは本当に美しい。異世界の呪いと融合していたから、この世界の者には解けなかったのね、けれど、私は呪い姫。いかなる呪いであっても解呪する。」

グレンは、意気揚々と術を展開するレティシアに見惚れていた。呪いによって爛れていた頭皮と顔の痛みが止まる。

「執事さん達、グレン様に治癒を。呪いは解けても、体が受けていたダメージは解けないわ。」

レティシアの言葉に執事が慌ててポーションをグレンに渡し、欠損を治癒すると言われる上級ポーションを飲ませる。空になった瓶を見て思う“今まで何度、飲んだだろう”と。

飲むと10分ほど痛みが引く。その間に出来ることをする。上級で10分、中級で5分、初級で2分。この休憩時間を利用して生活をしてきた。その効果が薄れてきていることに気付かないふりをした。

その苦労を思い出し、グレンの胸に熱いものが込み上げてきた。それは、常にグレンを支えてきた使用人達も同じだった。

うっすらと生えて来た髪が2センチほどに伸びた時、空中に浮かんでいた布が天井一面に広がり、窓まで覆っていた。空から入っていた光が閉じられていく。慌てて使用人達が灯りを点す。

「さぁ、出ておいで、」

スッと手を手前に引く動作。グレンの胸がギュっと締まる。慌てる執事が駆け寄る。

今まで感じたことのない痛み、苦しみがグレンを襲う。

「その痛みを心から拒絶なさい。」

呪われた日からの苦しみ、痛み、離れて行った者達の顔が浮かんだ。

誰にも解呪出来ないと諦めた過去を思い、自分を理不尽な立場に追いやった呪いをグレンは心から拒絶した。


部屋を満たしていた布が綺麗に折り畳まれていく。

パサッと音がして、折り畳まれた布がレティシアの腕の中に堕ちた。

「グレン様、どうです、お身体の調子は。」

グレンは、ハッとした。

まだ、髪は3センチほどの長さだが、確かに生えていた。完全に閉ざされていた左目もハッキリと人、部屋を見渡せた。自身の中に眠らされていた魔力も湧き出る泉のように感じられた。呪いを受ける前の麗しい姿に戻った、と使用人達が泣きながら喜んでいた。

「…今までの体の辛さが嘘のようだ。」

レティシアは、布を膝に置き、グレンの前に座わった。

「さて、私の用件は終わりました。まだ少し呪いの残滓を感じますが、その程度なら、ある程度の解呪師でことたります。その姿なら前の方とも再び婚約を結ぶのに問題はないでしょう。さ、貴方の用件も果たされました。婚約を破棄してくださいませ。」

ニッコリ微笑むレティシア。

「えっ?」

「貴方様に掛けられた呪いはこのように、布になりました。私の術は解かれた瞬間に呪詛返しされるようにしておりましたから、今頃、何年か分の貴方が被った呪いが返されてることでしょう。可哀想ですから、魔女に3割、聖女に7割の呪詛返しにしてみました。貴方は自由です。元の方だけでなく、私よりこの家に相応しく、貴方との婚姻を望む令嬢は多いでしょう。私は、まだまだ学生でいたいのです。このまま、この家に入る訳にはいきません。」

唖然とする一同。

「貴方の呪いを解くために交わされた契約。解呪は叶ったのですから、私がここにいる必要はないですよね。」

咄嗟にグレンは叫んだ。

「いやだっ!私は貴女がいい!」

流れる沈黙。

「いや、だって、この世界の誰にも解けない呪いを解いた女なんて、気味悪いでしょ?止めておいた方が……よくありません?」

誰かに囲われるのは、本意ではない。

「学園には、自由に通って良い、好きなことを研究していいから、私と共に……、」

椅子から立ち上がり、体の不調がないことを悟り、泣きそうになる。そんな当たり前の喜びはレティシアが運んできてくれたのだとグレンは改めて心に刻んだ。

「レディ・レティシア……私を伴侶に選んでほしい。私と共に伯爵家を、盛り立ててほしい。結婚してくれないか。」

不覚にもドキリとした。

これは、亡きレティシアの残滓だと思い込もうとした。

思い込もうとした時点で相手に惚れているのだと、姫様の言葉が頭を過る。

キラキラしたグレンの見た目はレティシアの、そして、紅葉の好みだった。


◻️◻️◻️◻️◻️


「あら、レティシアったら、婚約したみたいよ。」

紅葉から送られてきた文の内容を嬉しそうに言うブランカに、仲間の鬼達は、驚愕の声を上げた。

「きっと、イケメンだ!」

「そそそそっ!」

「見た目、重視だもんね、あの女っ!」

「よしっ!私も相手、見つけるぞ!」

女達の掛け声にブランカはにこやかな笑みを浮かべた。



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