その頃の鬼姫と……聖女
2022/2/28大量加筆訂正。
「どうされました?姫様。何か楽しそうです。」
八瀬に尋ねられた。
「紅葉からの便りがきたの。」
名前が示す大小様々な紅葉が円形に舞い、その中心に文字が浮かんでいた。
「美しい呪いに出会って楽しんでいるみたい。」
違う世界に飛ばされて、自分の求める体を得た紅葉が新たな生を楽しんでいるようで嬉しい限りだと鬼姫は笑った。
「ところで、虚と阿蘇姫は見つかって?」
異空間に落ちた時、鬼姫の側に居らず、元の世界で生きているだろうと思っていた眷族。意識を失いかけた視界の端で鬼姫を追い異空の穴に飛び込んだ彼等を捕らえた。必死に手を伸ばし彼等を自身の中に補完した。けれど、他の眷族と違い、補完が不安定だった彼等。此方の世界に出た瞬間に切り離された。
死んではいないことは、分かる。ただ距離が遠い。
まだ、目覚めて間もない鬼姫の力が完全に戻れば探しだし保護するのは簡単だろうが、万が一、他国にいるとしたら、力ずくとはいかないだろう。
「彼等は、姫様への忠誠心が高い。必ず自身の力で駆け付けてきますよ。」
ダンジョンで自身が自由に出来る財産を着実に増やしている鬼姫は静かに嘆息した。
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なんで?なんで、みんな、私の言うことに頷いてくれないの?
サキュラは、幼い頃に教会に捨てられた。
家族、特に母親はサキュラを毛嫌いした。親なのに酷いとサキュラは思った。
姉も妹も同じくサキュラに冷たく当たった。
父親はそうでもなかったが、家庭において一番の実力者である母親には逆らえず、サキュラとは距離を置いているように思えた。
兄はサキュラに優しかったが過度に彼女の味方をしがちで姉との軋轢を生んだ。
サキュラは、自分が悪くないことで母親や姉達に叱られることに納得出来ず、常に父親や兄に助けを求めた。
父親は、公平に子供達から話を聞いたが、兄はサキュラの言葉しか正しくないと思い込み姉達に手を上げた。兄は一瞬、自分がふるった力に戸惑い、倒れた妹の姿を見て倒れた。
「お兄様!」
駆け寄ろうとしたサキュラを母親が止める。
「サキュラ、いい加減にしな!あんたが、姉さん達の持ち物を壊したり、燃やしたりしたことはちゃんと分かってるんだよ。嘘ばっかり、どうして、そんなになってしまったんだい!」
母親が泣いているのを見てサキュラは首を傾げた。
「私は悪くないわ。姉さんが悪いのよ、私が可愛いからって、嫉妬して意地悪ばかりするんだもん。母さんも嫌いよ、姉さん達ばかり構うんだから。母さんも姉さんも父さんも、兄さんのように私の言う通りに動いていれば幸せになれるのに。」
家族はもう何も言えなかった。この子は思考の違う生き物なのだと。
家族は教会に救いを求めた。
サキュラは、教会からの使者が来るまで家の地下に監禁された。サキュラは、現状が理解できずに泣き喚いた。だから、自分を狭い部屋から出してくれた教会からの使者は神様に見えた。
泣き腫らした頬に手を添えて涙を拭ってくれたのは美しい男だった。サキュラより幾分年上の、教会の使者としては若かった。
「可哀想に、さぁ、おいで?」
サキュラは家族に捨てられたと理解した。馬車に乗り込むサキュラを見送る家族を睨んだ。けれど、あれほど味方をしてくれた兄にも冷たい視線を向けられてサキュラは心が痛んだ。
「……私は、どうなるの?」
馬車の中で尋ねたサキュラに教会の使者は微笑む。
「君の力はね、愛されるためにある、神の力。幸せになるためにあるんだよ。」
撫でられた頭。こんなに優しくされたことはなかった。
サキュラは堕ちる。甘い言葉に。
自分に光属性の魔力があり、光魔術が使えることが分かった。教会で働く人達は、サキュラをとても大切に扱ってくれた。兄以上に慈しんでくれた。光魔術は使うと疲れるけど使うほどに人々から尊敬された。
そこそこ大きな街に出て、町長の息子と知り合った。お金持ちで優しい彼にサキュラは好意を持ったが、聖女である自分には不釣り合いだと思った。そんな折、視察に来ていた本物の王子を見た。白くて神々しい神獣を従えた姿に、聖女に相応しいのは自分だと夢想した。途端に町長の息子が煩わしくなった。
教会の人達は、サキュラの力をいずれは王家に見せなくてはならないと言っていた。ならば、この男はいらない。ふったら、逆恨みされて昼日中に襲われた。
護衛の手を振り手解き走り出した先で盾にした男が死に、それが魔女の夫だったって言われても知らない!自分は聖女だから、守らなければならない大切な存在なのだから、私を庇って死ぬのは名誉だろう!と叫んだら、変な顔をされた。
教会の奥に閉じ込められた私を助けてくれたのは、この街に私を連れて来てくれた男だった。
男は、私を王都の学園に入れて再教育させると言った。
学園には、町長の息子とは比べ物にならない素敵な男の子達が沢山いた。その中で一番上等な男がデイビス王子だった。
あの時、恋したジオルド王子とは比べ物にならないけど、彼を通してジオルド王子に近付けると考えた。
街で起こした事件も魔女の存在も恨みも私はすっかり忘れていた。
でも私はついてた!
私の代わりに呪いを引き受けてくれた男の子がいたの!
きっと私のことが好きだったんだわ!
なのに、どうして、私はこんな暗くて狭い所にいるんだろう……。分からなかった。