レティシアは構ってられない
「ロイヤーさんは、こちらの話を聞く耳をお持ちではないと私は思っています。猟奇的なものを感じますわ。我が家にいた異母妹も彼女の甘言に乗せられ、父に甘えて教会への寄付を毎月のように増やしておりましたの。ハッキリいって、父が亡くなり、異母妹は我が家から出された身。教会への寄付は今までの過剰分を鑑みて、先月と今月はなし。来月は今までの1/8とする予定ですの。私の実家にも寄付を必要としている教会はありますから。王都に暮らしているからと中央教会ばかりに寄付は出来ません。実際、領地にある教会、及び孤児院や関連施設への援助、寄付金は中央教会からの補助金を上回ってます。その旨を叔父上を始めとしたミッターマイヤー一族の連盟で署名したものを中央教会に送りました。」
彼女は、教会に対する意見をつらつら述べた。
“面倒臭い。”“関わりたくない。”と言うのを飄々と告げる。この世界で公爵令嬢となった主のための下準備として学園に入ったにも関わらず、異母妹のやらかしのせいで、縁を繋ぎたい令嬢には敬遠されている状態からのスタート。ロイヤーなる小娘や生徒会に構ってられないのだ。
「ロイヤーさんが、君なら素晴らしい案を出すと言ってきかないのは、」
「中央教会の資金源が少なくなるのを危惧したから、異母妹のように私を取り込もうと必死なのでしょうね。パトロンから命令でもきてるのじゃなくて?アレと同じように思われているなど、遺憾なことです。(学園でのアレの態度、立ち位置はアレを放逐する時に記憶を読んで知っていたけれど、本当に害にしかならない女だわ。他の貴族令嬢と距離を置いている私のことを都合のよい貴族令嬢だと判断したか。)……本当に、馬鹿馬鹿しい。巻き込まないで頂きたいものね。結局のところ、生徒会会長権限で私は役員にならないといけませんのね?」
副会長はため息を吐いた。
企画を言い出したデイビス殿下とロイヤーなる小娘は無責任なことに協力的ではないらしい。
「この催しの企画を考えている間、殿下とその傍迷惑な聖女は何してるの?生徒会の仕事させたら?」
殿下は、貴族社会から学園への要望と生徒からの要望を照らし合わせ、調整、解決するのが主な仕事。副会長はその補佐。もう一人の副会長も本来は会長の補佐が仕事だが、聖女は教会から学園への要望を学園に伝え、教会の教えを生徒に広めていくのが仕事と生徒会の仕事には手を出さず。しかし、行事の企画会議では声を出す。本当に邪魔な女だ。
「3ヶ月後には、品評会があったのでは?」
秋の芸術祭とも言える品評会は、王妃陛下が自らの予算を削り出資しているものだ。生活に役立つ魔道具や新しい産業に繋がるかもしれない領土の産物を使った商品の紹介。貴族令嬢に至っては自身の淑女教育の一環でもある刺繍、レース編み、楽器演奏などを発表する場でもある。まだ、成人前の若者が貴賤を問わず自分を売り込む大きな機会でもある。武に秀でた者は品評会の更に一ヶ月後にある闘技大会で自慢の腕や魔術の精錬度を競う機会に恵まれ、優勝者には、ロイエンタール辺境伯領にある魔獣騎士団養成学園に編入出来る特典があり、上位入賞者にもおいしい話である。
「えぇ、そうです。その書類審査の真っ只中で、ロイヤーさんは、裏方のはずなんですが、教会から聖歌を歌うように言われているからと、手伝う素振りもなく、殿下も認めてしまって、本当に人手が足らないのです。」
第一次審査だけでも大変なのだが、その見極めをする生徒会メンバーの力量も試されている。
「で、あの女の聖歌とやらは、審査を通過したのですか?」
副会長がまたも大きなため息を吐いた。
「殿下の一存でスルーパスですか。」
レティシアは察した。
「学園ではなく、教会からの特別枠だそうです。」
「王妃陛下の学生の未来に目を向けた政策の1つを潰さず、内容が被らずなんて無理だと殿下に申し上げましょう。」
断るという選択をしてこなかった事実に呆れる。
「王族の言葉は絶対?ここは学園です。ロイヤーさんだって、学園では貴賤に囚われることは愚かしいと騒いでいるではないですか。」
副会長は大きく目を見開いた後、我に返ったように額に手を当てている。
レティシアは少しばかり力を行使した。彼はため息を吐いた。
「……どんな手を使っても殿下…いや、ロイヤーさん考案の事案は成立させなければならないと思い込んでました。」
何故だと顔に出ている。詳しく聞くと生徒会メンバーの中の女性陣は、アレの企画には反対しているという。
「何か、おかしな術とか薬でもやってます?」
副会長はドキッとした。
レティシアは副会長から漂う独特の香りに気付いていた。
「胸元辺りになんか入れてます?臭いですよ?」
胸のポケットに入っているのは生徒会にサキュラが初めて来た時に皆に配っていた匂い袋。
女生徒は、確か“自分には合わない臭い”とか言って胸には仕舞わず出窓の飾りにしていたと彼は思い出した。
そして、必要以上に女子は寄り付かなくなった。
サキュラは、女子達に嫌われているからと殿下に泣きながら……。
クラウス・ハウゼン伯爵令息は愕然とした。
その時、レティシアに眷族の声が届いた。