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副会長の憂鬱

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茫然とするレティシアに声をかけてくる者がいた。

「ミッターマイヤー子爵令嬢……。」

振り向くと顔色の悪い目の下にクマを拵えた男子生徒が立っていた。


男子生徒の名前はクラウス・ハウゼンと言った。ハウゼン伯爵家の三男で、家族のほとんどが城内で役人として働いている。

「申し訳ない……あなたを巻き込みたくなかったのですが。」

彼が頭を下げた。

顔色の悪さと見るからに窶れた姿がなければ、彼を見る女生徒の視線も変わっただろう。女生徒達は一様に気の毒そうに、そして、関わりたくないと言う視線を向けていた。

「一体、どういうことでしょうか。」

眉間にシワを寄せ苦々しい表情を隠しもしない彼は

大きなため息を吐いた後語った。

「俺、いや私は生徒会で副会長をしています。御存知の通り、生徒会は、会長にデイビス殿下、副会長には私とサキュラ・ロイヤー、庶務長と経理と書記が3名所属しています。」

ハウゼン副会長は、現在学園内で生徒会がやや孤立気味であること、聖女認定されているサキュラの出す企画を会長であるデイビス殿下が絶賛し、成立させるために奔走しているのだが、ハウゼン副会長と経理担当のミュラー子爵令息が企画の不備、予算の不足などを算出して、会長に進言、それの拒否、また計算のやり直し、進言、拒否。それを繰り返している企画を常に2、3件抱えている状態で通常の業務が追い付いていないのだと言った。

「ロイヤー副会長の言いなりと言っていい生徒会や会長に苦情も多く、何より日頃の業務にも手が足りない。だから、せめて企画を出すことを暫く止めて欲しいと願ったら、人員を増やすと……。」

あのサキュラ・ロイヤーなる娘は、害にしかならない、殺るか。そんな風にレティシアは思った。

「あー、えーと、すみません、聖女認定って何ですか?領地経営と屋敷の存続ばかりに力を入れていたため知らないのですが。」

ハウゼン副会長は質問に答えてくれた。

聖女と言うのは、魔術とは違う成り立ちで神業とも言える魔法を扱える乙女のことらしく、貴賤に関わらず教会からの手厚い保護を受け、王家も一目置く存在らしい。

「数百年前にも、隣国ですけど、聖女が現れて国を栄えさせたそうです。最も今世の陛下や王太子殿下は政治と宗教は別物と考えているようですが。」

「なるほど、では、聖女とは具体的に何が出来ますの?」

「ロイヤーさんは、未来予知能力と光属性魔法と言うものを使い、人の傷や病を癒すことが出来るそうです。デイビス殿下は、以前、その神業を実際に体験したようで、以来彼女のいいなりで。」

魔術とは違う力。すなわち魔術陣や詠唱を用いずに使用できる力を魔法と言い、レティシアは、自分や姫の力も魔法と呼んでよいのではと思った。

魔法には自然の力を借りて行うものも多く、人と違う生き物、つまり、魔物や魔獣が使う力も一種の魔法だと言われている。

「人は、それぞれ自分を守護する精霊の加護を持ち、その加護によって、産み出された詠唱や法式をもって魔術を行使出来ます。魔術陣や詠唱を使えば、全属性の魔術を行使できますが、私なら水、殿下には、土と言う感じに相性があって、相性の良い魔術ほど威力のある魔術を使えます。魔法を使える者は全属性との相性もよく、優位差がないために、この世界では重宝されます。」

あの娘は我々と同じような力を扱えるのか。

「でも、ロイヤーさんは光属性以外の属性魔法はほぼ使えないと聞きました。炎など指先に灯らせるので精一杯で。」

教会にとっては、未来予知をし、光属性魔法の真髄と言える回復魔法を使えることが大切で、争いを嫌う聖女らしい側面だと歓迎しているらしい。

「教会は神の御使いだと。」

馬鹿馬鹿しいとレティシアは嘲笑する。

「聖女様のことを、クラスの令嬢は良く思っていないようですけど、」

それなりに教会への寄付を行うのは貴族としての仕事の一部だったようにレティシアは思う。教会と貴族社会が敵対関係ではないと子爵家の経理をみていたので、異母妹が聖女の取り巻きをしていたとは言え、あの父親が結構な額を寄付していたのをレティシアは知っていた。何の得も感じられないことからレティシアは寄付金の額を1/3に減らし使用人の給与に当てた。先日、教会の方から苦情が来ていたことも思い出す。父親の葬儀を簡素な物にしたことも嫌みを言われたなと教会の“がめつさ”を知った。

「あー、それは、彼女の言い分が貴族社会には受け入れられないものだからです。」

聖女なるあの女は、男女平等、階級制度は神の前では無意味であると言うのだった。

「現王妃陛下の御代になり、社会での女性の地位は格段に上がりました。学のない女性の甘言に唆されて王家や貴族達が窮地に陥った過去がありますから。」

レティシアの記憶の中にある国の歴史。王家の醜聞。包み隠さず王家は社会に知らせ、『知識、良識は、自身のみならず、家族、一族そして国を守る剣である』との言葉を発した。以降、女性の学問への門戸が非階級社会の女性にも解放されたり、貴族令嬢が爵位を得ることが出来るようになった。教会も国の方針について了承し、聖女を学園へ入学させるに至った。

あの女は、聖女と言う立場とマナー、礼儀以外の成績が優秀だったらしい。


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