レティシア嬢の憂鬱
2/12やっと、書き終えました。これからは失敗しないよう頑張る。
「聞いていますか!レティシアさん。」
目の前にいるのは、サキュラ
・ロイヤー。平民の特待生。生徒会書記らしい。
そんなサキュラがレティシアが一人静かに休憩している所にドタバタとやって来た。後ろには3人の男子生徒。誰もみな生徒会役員だったようなと覚えたての記憶を読むレティシア。
「いいえ、聞いていませんが。何か、用ですか?」
読んでいた本を閉じて問う。
クラスメートは遠巻きに見ているだけだ。まぁ、関わりたくないのだろうとレティシアは察した。
「ですから、この教室には居づらいでしょ!一緒に生徒会室に行って休憩しましょう!」
良いこと言った!とばかりの顔を見せる。
「結構です。」
転入した翌日から続くこのお誘いを断り続けているレティシアは無表情だ。
「えっ?なんで!嘘、我慢しなくていいんだよ!ここは、上位貴族の方々が多いクラスだし、あんなスキャンダルを犯した妹さんのことで、色々意地悪をされてるでしょ!デイビスも気にしてたんだ!ね、生徒会室に行って一緒にいよう!」
サキュラの言葉にざわつく教室内。彼女の言葉にイラッとした空気が教室内に満ちたがレティシアは受け流し、目の前の娘は気付いていないようだった。
「昨日もその前の日も申し上げました。お忘れですか?」
言葉に首を傾げるサキュラにレティシアが大きくため息を吐いた。
「初日にも申し上げましたが、私とアレは、既に赤の他人。我がミッターマイヤー子爵家にとって害悪以外の何者でもなく、縁も切れましたので、そのことで他人のあなた様にとやかく言われる筋合いではございません。それに、一体、いつ、どこで、クラスの方々に私が意地悪をされたと?」
淡々と言うレティシアにサキュラは言葉をなくす。
「そこまでだ。」
割って入ってきたのは、デイビス第四王子だった。
レティシアは、チッと内心舌打ちをする。
「何故、そのようにサキュラを責めるのだ?サキュラは、君のために毎日時間を使っているのだぞ?」
泣きそうな顔をしたサキュラを背に庇う第四王子。
「その時間は是非他の方にお使い下さい。」
立ち上がり軽く頭を下げる。
「しかし……、」
「私は何方にも意地悪などされておりませんし、基本一人で過ごすことが好きなのです。それに、側に居りたいと願う方は静かな方を選びとうございます。」
頭を下げたまま告げるとサキュラが“酷い”と言って教室を飛び出していった。それを追う王子。これも見慣れた光景だった。
「お騒がせいたしました。」
クラスメートにも頭を下げておく。全くアレのお陰で妙なのに絡まれる羽目になるとは、レティシアは本日何回目かのため息を吐いた。
この学園は、成績のよい金持ち(貴族と庶民)クラス、お金はないが成績優秀者(貴族と庶民の特待生)クラス、成績は普通か、もひとつだが寄付金を多く出せるクラス、成績も寄付金も普通のクラスに分かれている。
レティシアの元義妹は三番目のクラスだったらしい。良い婿を得るために父親の子爵は、一番目のクラス入りを望んでいたようだが、元義妹はそれほど頭は良くなかったようだ。しかし、特待生としていたサキュラが次々に有料物件を堕としていたのを見て、そのおこぼれに預かろうと彼女の側にいたらしい。
(結局、アレに釣ることが出来たのは、あの娘のお眼鏡には適わなかった元婚約者殿だけだったわけだが……。)
レティシアは、元義妹を家から追い出す時に、元義妹が学園でどういう感情で過ごしていたかを記憶を読んで知っていた。内心サキュラを妬んでいたことも、思うようにいかない学園生活での苛立ちをレティシアに向けていたことも。
因みにレティシアは、一番目のクラスに所属している。クラスにいる下位貴族や庶民は5分の1ほどであるが、大概女子はクラスで一番上位の貴族令嬢である侯爵令嬢に従っている。レティシアの観察によると頭も良く、貴族令嬢としての矜持もあり、第四王子の婚約者候補だったが、今はフリーで、第三王子辺りの婚約者の地位を狙っているらしい。サキュラとの関係を考えると候補から外れて喜んでいるのではないだろうか。
ミッターマイヤー子爵家のスキャンダルのこともあり、侯爵令嬢はレティシアとの接触を控えているようだ。
(姫様のための人脈作りも大変だぁ、はぁー、姫様ってば、楽しんで居られるかしら。)
遠い地にいるブランカに思いを馳せるレティシアだった。
その日。
レティシアは久しぶりに子爵家に帰った。王都に住む伯父一家に家を譲渡したいと言ったが、それは亡き母からの形見として受け取っておくように言われ主はレティシアとなった。
「お帰りなさいませ、レティシアお嬢様。」
使用人は半数に減ったがレティシアが戻ってきたとしても手は十分に足りていた。
「不便はしてない?」
以前のレティシアは、使用人同然の扱いだった。なまじ頭が良かったせいで父親は彼女を学園には通わせず働かせていた。
不遇時代にレティシアを陰ながら支えてくれていた使用人達はレティシアが学園に通うことには賛成していて、いずれ良い縁をと思っているようだった。
「不便など、とんでもない。」
みなの言葉にレティシアはホッとした。実の父親や継母、異母妹には怨嗟の思いしかかなったレティシアだが、一部の使用人達には本当に感謝していたのだ。
(レティシアが夢見ていた世界と私が姫様のために成さねばならない世界は融合出来るわ。にしても……。)
サキュラの顔が浮かぶ。
あの娘の狙いは何なのか。それに、姫様の今世での婚約者だと言う第四王子デイビス。
(アレは、自分に酔いやすい男のようだし、近寄りたくないわね、面倒くさそうだから。)
そう思ってはいてもどうにもならないこともあるのだとレティシアはため息を吐くことになる。
「はっ?」
学園の掲示板なるものに、自身の名前があると教えてくれたのは、クラスメートの子爵令嬢だ。彼女は特にどの派閥にも入っていないことがレティシアには好感を持てるものだった。
『レティシア・ミッターマイヤー子爵令嬢を生徒会役員書記に任命する。』
最悪か。