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鬼姫の華麗なる断罪

鬼姫は立ち上がりゆっくりと階段を降りる。

高貴な貴婦人の如く優雅な歩みに皆が息を飲む。血塗れの古びたワンピースがふわりと揺れ、一歩、また一歩と進む毎に少女を取り巻く空気が変わる。エントランスにいる面々は少女の髪が灰色から漆黒に、瞳は紅く染まったのを目撃する。そして、衣装も見たことのないような黒地に金、銀、紅などの美しい刺繍のされた豪奢な異国風のものに変わった。

偽物令嬢の前に立った鬼姫は閉じた扇で動けない娘の顎をとった。

「さて、わたくし、考えましたの、あなた、王族に嫁ぎたいのですよね。嬉しそうに語ってくださったものね。」

偽物令嬢は、ガタガタと震えている。彼女の視線の先に映ったのは、かつてブランカだったはずの少女の額に生えた4つの小さな角。とても美しく、妖艶とも言える姿に男達は頬を染めていたが、異形の姿であることは間違いなかった。男達の邪な視線に一瞥するとサッと視線を逸らされ彼等の顔色も青く変化した。

少女は再び娘に視線を戻し続けた。

「でも、悲しいかな、王子の婚約者はわたくし。あなたの夢は叶わない。お呼びではないのよ?」

震えながらも娘は唇を噛んでいる。麗しい王子の姿を思い出したのだろう。

「ですから、優しいわたくしは、王族に嫁ぎたいと言うあなたの願いを叶えて差し上げようと思いましたの。」

扇で隠した口元が見えなくても分かる楽しそうな少女。

扇で開いている掌にリズムを刻みながら語り続ける。

「この世界の小鬼は、わたくしの知っている小鬼と違い、醜く、集団で人を襲うのですってね、なんでも、オスしか存在せず、人間の女を孕ませて仲間を増やすとか。」

小鬼とは、この世界で言うゴブリンである。彼等は集団で生活をし力の強いものを集落の王とする。決して強い魔物ではないが小狡く、まず単体での行動はしない。


鬼姫の言葉の直後、大きな音が響いた。人々の視線の先には砕かれた壁と土埃。大きな穴は、屋敷の外にある緑がみえたが、その緑も大きく歪み真っ暗な空間から一人の娘が出てきた。

黄色いチェックのワンピースに白いエプロン、明るい茶色の髪をツインテールにしている愛らしい村娘そのものであるが、暗い空間から大きな緑色の物体を引き摺り出す怪力を持っていた。

「よっこらしょ。」

娘の頭には華奢な体には不釣り合いな左右非対称の大きさの角があった。

引き摺り出された物体に悲鳴が上がる。首を吊られた者達も思わず逃げようとするほど必死だ。

緑色の固まりは醜悪な姿をした巨体のゴブリンだった。頭上にくすんではいるが、王冠をつけている。

小柄な村娘の倍の背丈はありそうだ。

「おひいさま!ただいまっ!」

元気良く手を振る娘。

呻きながら起き上がろうとするゴブリンキングを村娘が踏みつける。

「動いていいと、誰が言った?まだ、這いつくばってな。」

低く鈍い骨が折れる音がエントランスに響いた。村娘からは考えれない力だった。

「おひいさま、これ、めっちゃ弱い。もっと強いのと戦いたいよー!」

踏みつけられているゴブリンキングは呻いている。

「イバラキ……連絡を受けて連れてきてって頼んだけど、ホントにそれが小鬼?……可愛くないわね、本当に醜いわ、それにくちゃい……ま、でも王様には違いないのよね?」

ニッコリ笑う“おひいさま”と呼ばれた少女、もとい鬼姫に鬼っ娘は頭を掻く。

「自分で王様だって言ってたし。嘘じゃないよね?」

イバラキと呼ばれた娘は巨体を蹴る。緑色の既にボロボロの巨体は頷いたように見えた。

「で、何処で見つけたの?」

「東の方の森の中!森の麓の、えーと、途中の村が小鬼に襲われてて、とりあえず下僕共を死にかけの村人に憑依させて、小鬼を殲滅したんだけど、村娘数人が浚われたって聞いたから、私の体が手に入るかもって思って森の中に入ったんだ!したら、こいつら、女の子の体が繊細だって分かんないらしくって、四人の内の三人は既に心も体も停止、魂も召されてました。もちっと早かったら助けられたんだけど、」

「その子は生き残り?」

鬼っ娘はニカッと笑う。

「ギリ、生きてた。ボロボロだった服も何とか復活させた!この世界、力との親和性高ーい!」

嬉しそうな鬼っ娘に鬼姫も満足そうに笑う。

「とにかく、体が見つかってよかったわ。……さぁ、偽者さん、あなたの旦那様よ。ほら、頭に王冠をつけていて、あなたの大好きな王族だわ、よかったわねぇ。」

声を発することなく娘は後ずさろうとするが、見えない力に押されたのとゴブリンキングの腕が伸びて彼女は捕まった。

「い、いや…、た、助けっ、お父様、お母様!」

助けを求める両親は震えて抱き合っている。

ゴブリンキングは、先程まで命の危険に晒されていたことも忘れて掴んだ娘を舐め上げた。

「ひっ!」

ゴブリンキングは醜悪な笑顔で娘をもう一舐めし、娘は気を失った。彼女の母も気絶し、父は失禁したようだった。

「あら、みっともない。せっかくあなた達の娘が王に気に入られたと言うのに。」

鬼姫は男の元へと歩み寄る。

「お、お前は、誰だ?ブ、ブランカじゃないな!あれをどうした!な、何故……こんなことをする!」

震える声で男は尋ねてきた。



今日のアップは、ここまで。

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