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下衆の極み

「おい!足押さえろ!」

男の怒鳴り声。抵抗している女は服を引き裂かれ白い豊かな胸が顕になっていた。

後ろからやって来た冒険者チームレッドドラゴンの攻撃を受けた時、魔獣の気配ばかりに気を取られいたことが災いした。奇襲を受けたチーム賽の目は、あっという間に制圧され、残ったのは魔術師の娘だけ。ギルドの誓約に違反する行為だと告げた娘にレッドドラゴンの魔術師は、拘束魔術を娘にかけた。

「ダンジョンで死んだ人間は骨さえなくなる。魔獣に殺られたと誰もが思うさ、」

「俺らさぁ、もう2週間以上、穴の中なんだよ、魔獣との戦いで興奮してんだよ、ちょーっと、鎮めてくれよ、」

だから何だと言うのか!ならば探索を止めて外に出ればよい。それをしないのは、欲にまみれた打算からだ。

「おらおら、抵抗しろよ!つまらねーだろ!」

魔術師の杖を折られ、腕を頭の上で押さえつけられている娘は呪詛を吐くが、杖がなくては魔術は展開しない。

「うるせーな、これでも咥えとけ。あとで、いいの咥えさせてやるからよ!」

乱暴に破られた服を口に捩じ込まれた。

「小娘と思いきや、いい乳だ!おらよっ!」

娘の体がしなった。


「……」

娘の体は冷たい地面に投げ出されていた。

だらしない姿の冒険者達は、己の剣をとり、次々に娘を刺していく。

「楽しませて貰ったぜ。ありがとよ、仲間の所に送ってやるんだから、恨むなよ?」

娘の息も心臓も停止した。

その内、娘の体はダンジョンに吸収されるだろう。

「装備品集めとけ、遺品は1人一個で充分だ。」

亡くなった冒険者の遺品を届けると御礼金が貰える。

「おにーさん達、せこいねー。」

突然掛けられた声にレッドドラゴンの連中は飛び退く。

何者だと目を細めるリーダーの男は、声の主が若い娘だと分かった。

「仮面?」

娘は華奢な体に似合わない大きな刺の付いた金棒を肩に担ぎ、右手には何かを下げていた。

「スミス!」

滴る血が大地を潤していた。彼の胴体は頭を失くしたにも関わらず倒れずに血飛沫を上げながら僅かに動いている。

「あー、これ、スミスって言うのか、ちょーっと、邪魔だったから金棒でどいてってしたら、もげちゃった。」

ゴロッと投げられたスミスの頭部が転がる。

「陣形をとれ!」

リーダーの一声。しかし、誰もが動かない。

「ガス、大丈夫だ。こんな小娘にレッドドラゴンが負けるか!」

リーダーは鑑定の魔術を発動し、エミリーの実力を分かっていた。

「ダメだっ!そいつのレベルはS以上だ!」

リーダーの叫びに振り向いたメンバー。リーダーは再び叫ぼうとしたが、沈黙した。

名前を呼ぼうとした相手の頭部がぶっ飛んだからだ。

それは、同じチームのSランクの男だが、実力から言えばリーダーよりも上。

メンバー内で恐慌が起こった。尻餅を付く者、硬直する者様々だ。

「ダンジョン内での死は自己責任だってね、掛かってこないの?えーっと、抵抗してくれないとつまらない、だっけ?」

力を用い彼等が何をしたのか確認し、ニッコリと笑うエミリーは、殺した娘に投げ掛けた言葉を発した張本人に告げる。尻餅を付いた男はヒッと悲鳴を上げ持っていた剣を振るがボトリとその腕が2メートルほど離れたところに落ちた。

吹き出る血飛沫と絶叫。

血を浴びながらエミリーは、煩いとデコピンをした。

「あや、弾けちゃった。人間の血は久しぶりだぁ!」

嬉しそうにくるくる回るエミリー。レッドドラゴンの連中は既に戦意はなく、武器を手放していた。

「やだわ、生臭いのは嫌いよ?」

後ろから掛けられた声に視線が集まる。

「あわわ、嫌わないで姫様。すぐ綺麗にするからさ、」

体に付いた血が空中に吸い取られ、うずらの卵大の血珠に変化した。それをエミリーはパクリと口に入れた。

「ね、綺麗になったよ!」

「もう、仕方ないわねぇ、」

呑気な会話をする若い娘達に声が割り込んだ。

「た、頼む!見逃してくれ!お、俺達が得た魔石は、あんたらにやる!」

土下座の姿勢で言うリーダーに習い、残りのメンバーも頭を下げている。

「ちょーっと、何で姫様との会話に割り込むのさ、」

膨れ上がるお団子頭の娘の怒気にレッドドラゴンのメンバーは土下座の頭をさらに下げる。

リーダーは、自分の魔術で測定不能となったブランカを前に震えた。

「止めて、イヤだと言う娘の懇願を聞き入れなかった者の願いを何故、叶える必要があるのか教えて下さる?」

見える口許が微笑みを浮かべていた。

「ダ、ダンジョン内での冒険者殺しは重罪だ!お、俺達は、戻ってちゃんと裁きを受ける!約束する!俺らは、そいつが俺の仲間を殺したのも黙っておく!」

ブランカとエミリーは顔を見合わせる。

「ダンジョン内での冒険者殺しは証明出来にくいんでしょ?この石板を見ていたけれど、これだけ見たら、賽の目に襲いかかった魔物からあなた方が加勢に入ったけれど間に合わず賽の目は壊滅したと報告してもあったその通りだと思えるわ。」

言い分を封じられたリーダーは場の空気の緊張を感じ周囲を見回した。

「姫様、」

もう一人、仮面の青年が現れた、彼からも自分達に対する怒気を感じた。そして、彼が似たような仮面をしていることに絶望した。

「賽の目チームの遺品は回収いたしました。」

丁寧なお辞儀をする仮面の青年。ダンジョンの外では時の人となっているアルフォンスのことを彼等は知るよしもない。

「ありがとう、さて、あなた方には、”呪“をかけて差し上げましょうね。」

ブランカは、閉じた扇を手にしていた。

男達の視線はブランカの扇に向けられている。

一振りで美しい扇が開く。扇に描かれていたのは百鬼夜行、様々な化物が嬉々として扇の中で踊り、歌い、行進していた。

生き残ったレッドドラゴンのリーダーとメンバー2人に“呪”をかける。

「そうねぇ、これからの人生、感じる痛みを4倍にしましょう、乙女の尊厳を己の欲で破壊する者など、冒険者としての誇りある死などもったいないんだけど、日常の生活の中で死ねばよいのに、んー、どうしましょうね、……あら、お前、妻も子もいるのね。しかも、女の子。大切にされているみたいね、信じられないわ。」

リーダーの男が震え出す。扇の中の化物達も男への罵詈雑言を繰り返す。

「あなたの娘も、あなたが、殺した、あの娘と同じ目に合わせるってのはどう?」

見下ろす冷たい目に怯えが強くなる。ブランカへ懇願するように伸びてきた手。

「年頃になった頃にする?それとも今?」

か細い声が止めてくれと呟いている。こんな男でも自分の娘は大切と見えるのが滑稽だった。

「そうね、こんな“呪”は如何?あなた方に1つの夢を見せて上げましょう。現実と混同する夢を。」



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