素晴らしき世界
タイトル適当。
「お帰りなさい、アルフォンス。」
午後の庭園で優雅に過ごすブランカ。膝には指定席とばかりに金熊が丸くなっている。
アルフォンスは、ロイエンタール家のメイドが淹れた紅茶に、自身が間に合わなかったことを詫びた。
「これも、美味しいわ、でもアルフォンスのお茶が一番よ。」
との言葉を貰い溜飲を下げた。
「にしても話題になってんぞ、正体不明の若者がダンジョンの一つを攻略したって。」
ブランカの後ろに立っているヨアンナとエミリー。二人ともロイヒシュタイン家の侍女服だが、ここには仲間しか居ないため語彙は雑だった。
「ダンジョン内の様子を知らせる義務があるせいで遅れました。」
八瀬曰く、彼が攻略したダンジョンは、70階層が最奥だった。
1階から5階層までは難なく進むことができ、6階層に進むためには、それまでに出現した総決算のような敵を倒さねばならない。冒険者達が『階層のボス』と言う存在を倒せるのは1チームだけで、ボスの間の前には結界があり、何チームかの冒険者が常に順番待ちをしているような状態だった。しかし、『階層のボス』の実力よりも上の冒険者がチーム内にいる場合、ボス戦は回避され次の階層へと下ることができた。
「面白い仕組みね、誰が考えたのかしら。」
八瀬はそんな調子でどんどん地下に潜りダンジョンをクリアした。
「俺の力で余裕でした。けれど、下層に行くほど敵が知恵を持ち、しつこいので、エミリーとかはイライラして墓穴掘りそうです。」
「なんだと!」
エミリーが反論する。本気ではない。
「力でゴリ押しするエミリーが思考しながら戦う術を身に付けられるのなら、ダンジョンもいいかもしれないわね。」
「おひいさま、ひどい。」
八瀬は拳大の魔石を取り出した。
「これは?」
「70階層あったダンジョンの65のボスの魔石です。」
手に取るとブランカは気付いた。
「あら?この子……、わたくしの知ってる子かしら。」
ヨアンナとエミリーが驚く。
「朧です、姫様。」
八瀬の言葉に目を見開く。
「……まさか、あの子達も穴に?」
「朧だけとは、限らねーだろな……。」
ダンジョンから持ち出された魔石は、ギルドで管理され報酬の7割が冒険者に入る。ギルドは、ダンジョンの管理を請け負っていて、ダンジョン前のキャンプ場や、ダンジョンに入っている冒険者の荷物の管理、亡くなった冒険者の弔いなども行っている。
手に入れた魔石を買取るのもギルドの仕事となっているが、自分の手元に残しておきたい魔石は引き取ることが出来る仕組みで、ギルドに所属していると大きな魔石には保証書が付き、買取り金額に上乗せ金が生じる。因みに八瀬は飛び入りの参加でギルドには所属していない。
「きっと、月読姫は、八瀬を追いかけたのでしょうね、」
大きく息を吐く。
「でででで、おおお朧がいると言うことは、むむ骸もいる?」
ヨアンナの言葉に皆が溜め息を吐いた。
「愛されてますわね。」
ブランカの言葉に八瀬の頬が染まる。
「さて、」
ブランカは席を立つ。
「とりあえず、わたくしの騎獣探しと、月読、骸を探すためにダンジョンに潜る。そして、わたくしと旦那様の幸せを目指します。」
今後の方針をここにいる、そして、遠く離れた眷族に知らせるブランカ。
目の前には膝を付く眷族3名と伏せる猫1匹。
「「「御意。」」」
「金熊、後は頼むわね?」
ブランカが振り向いた先にはブランカが微笑んでいる。
「ひひ姫様、御召し物を。」
受け取ったのは動きやすい冒険者の服。ヨアンナがロイエンタール領の街で仕入れてきたものだ。
「ヨアンナも、留守をお願いね?」
泣きそうなヨアンナ。
「………はい。」
これからブランカは、体調を崩し寝入るつもりだ。
そばにヨアンナが居ないとおかしい。
アルフォンスとエミリーは、街に出掛けることになっていた。
ブランカは、本来の鬼姫の色であった黒髪と紅目に自身を変化させ、目元を覆う仮面を着けた。
エミリーもいつものふわふわの金髪を2つのお団子頭で飾り、ブランカとお揃いの仮面を付けた。背中には大きな金棒を背負っている。
「やはり、それで戦うのか?」
「当たり前だ!私の相棒だぞ!」
いつもブンブン振り回して敵を殴り殺すスタイルが基本のエミリー(前世:鬼っ娘)。
一方、戦い方にも美学を求める八瀬。
「これだから、筋肉バカは……。」
一寸前にダンジョンを攻略した仮面の青年が、2人の娘を従えて現れた。階層の深さは分かっておらず、攻略出来ているのは30階層までだと言う。
ブランカとエミリーは、其々を元々の名前で呼ぶことにした。姫であるブランカを鈴鹿とは呼べないと譲らないエミリーとアルフォンスにブランカが譲る形で、ブランカはリンと名乗ることにした。
ブランカは、細いレイピアのような剣を帯刀していた。
3人は以前、八瀬がしたように魔力測定と誓約書へのサインを済ました。
「ところでさ、ダンジョンの中で転移って出来るの?」
エミリーの疑問にアルフォンスも試してないので分からないと話した。
「もし、転移出来るなら、一度入ったダンジョンにはギルド通さずに入り放題だなって思ったの。ダンジョンに入るのもただじゃないし、公爵令嬢が冒険者登録する訳にはいかないでしょ?」
ブランカは、案外節約家である。
「では、要所要所で試してみましょう。」
3人は25階層のボスを倒した。
「朧は65階層のボスだったのよね、と言うことは、月読や骸もそれ相当の階層のボスじゃないのかしら。」
ブランカの言葉に頷くアルフォンス。先陣を切るエミリーが振り返った。
「姫~、助ける?」
エミリーもアルフォンスも結局、リンとは呼ばす、姫と呼んでいる。しかし、姫と言う発音はこちらの世界では理解しにくいものらしく、姫がブランカの名前なのだと理解された。